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吾輩は魔王である  作者: 成瀬ケン
第一章
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魔王、我が身を呪う


 我ら兄弟は日増しに大きくなっていった。

 母君に乳を貰い、捕らえたネズミを使って狩りの練習などもした。



『どうした弟よ。ネズミは捕まえられたか?』


『……にゃ……にゃ』


『そうか。巧く行かぬか』


『……にゃ……にゃ?』


『それはあれだ。己を無として、空気とするのだ。そうすれば奴は、我等の存在を空気と感じて見失う。そうすれば簡単だ。速やかに走りだし、一気に食らう』


 吾輩伝授するが、末弟まっていはキョトンとした表情。


『ミャァ、ミャァ』


 遂には練習そっちのけで、無邪気に辺りを駆け回る始末。



『…………』

 どうやら吾輩の知能、この者達には馬の耳に念仏らしい。



 とはいえ吾輩は、狩りの練習などしなくても大丈夫だった。前世で培った知識にて、狩りなどお手のものだからだ。


 それ故に魔法の練習のみを繰り返していたのだ。

 しかしそれは困難を極めた。

 やはりこの口では呪文を詠唱えいしょうするのは難しいようだ。「ミャア、ミャア」と可愛らしい響きにしかならぬ。

 しかもこのプニプニした肉球では印すら結べぬ。


 どうしたものかと、思考にくれていたその時だった。


「捕めだぞ!」

 突然、人間の言葉が響いた。


『隠れるんだよ!』

 咄嗟に母君が言った。

 呼応して吾輩と次兄が物陰に隠れる。

 そして意識を集中させて、辺りの様子を窺ったのだ。


「ミャア、ミャア」


 響き渡る物悲しき鳴き声。

 あろうことか末弟が、老婆に首を捕まれていたのだ。


『弟よ!』

 沸々と沸き上がる憤怒ふんぬの感情。仮にも兄弟として生まれた存在だ。流石にそれは衝撃的な光景だった。


「やれやれ一匹だげがい」

 ぼそりと呟く老婆。末弟だけでは飽き足らず、強欲な台詞だ。


「フニャーー!」

 それに向かって母君が吠えた。

 老婆の前に身をさらし『その子を返せ』と捲し立てる。危険とは理解しても、母性本能がそうさせるのだろう。



「このやろ、家ん中さ上がり込んで、泥だらげにして!」

 すかさず腕を伸ばして、捕らえようとする老婆。

 しかし母君は俊敏だ、その攻撃はかすることさえない。


 暫くその必死の攻防戦が続いた。



老婆バッパだと思って、ナメてけつかって……」

 やがて老婆も諦めたか、ぶつぶつと怨みの念を吐き捨てながら、邸宅内に姿を消して行ったのだ。


 こうして場は、元の沈黙に包まれる。


『……弟はどうなるのでしょうか母君?』

 吾輩は訊ねた。流石に気がかりだった。


『悔しいね、あのまま殺されちまうんだよ。人間に捕まったっていうのは、それを意味するのさ』

 虚しい響きだ。


 吾輩それ以上、なにも訊けなかった。小動物に生まれ堕ちた、我が身を呪った。



 そして母君の憂いを如実に表すように、それ以来、末弟は姿を現さなかったのだ__

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