魔王の家系
こうして暫くの時が過ぎた。
その間、吾輩は、必死に置かれた状況を整理した。
やはり母君はノラネコであった。
とある人間の家屋を間借りして、その軒下で暮らしていたのだ。
こうなると吾輩、どうしても我が血筋が気になってくる。
魔王である吾輩を産み出した血筋だ。それなりの家系であろうと。
母君によれば、吾輩の父君は、やはり名家の家系で暮らしていたそうだ。
しかし大人になってから、勘当されたらしい。
流れ流れてこの地にたどり着き、母君と出逢って、吾輩達を宿すに至ったそうだ。
しかし生まれついてのジゴロな性格で、他の女にまで手を付ける。真夜中だというのに大声で歌い続けて、周りの者達に危険分子との烙印を押された。
結果"保健所"とやらに連絡されて、そのまま連れ去られた。
実に清々しい生き方ではないか。吾輩の父君らしい、気高く高貴な血筋の成せる業だ。
父君は放浪の旅人だったのだ。旅人は立ち寄った先で、美しきヒロインと出逢う。めくるめく愛の世界に溺れて、一瞬で恋に落ちる。
だがやがて別れの時が来る。旅人としての本能が、そこに立ち止まることを許さぬからだ。
嗚呼、彼は愛の伝道師か、またはさすらいの吟遊詩人か。
しかし母君は呆れ顔。
『なんだいジゴロとか、高貴な血筋って? ただのオスネコだよ、単なる雑種。オスって生き物はだいたいそんなもの。オスのもつ本能なんだろうね、発情期は出逢った相手に、片っ端から発情する。それがメスだろうとオスだろうと、関係なくね。一晩中、フニャァァァーゴ、って奇声を挙げて。ある意味、衝動のようなものだね。……子を産んで育てる、あたし達のことなんか気にもしないんだ。現にあたしが身籠ってるって知ったら、見向きもしなくなった』
言って吾輩の毛並みを毛繕いする。
『あいつは元々が飼いネコだったから、余計に最悪だよ。飼い主からエサを貰って、ぶくぶく太っていた。元々大飯食らいの怠け者だったのさ。だから捨てられたんだよ。だから狩りをする能力も退化してた。それでエサに釣られて保健所に行った』
その表情があまりにも寂しそうだったから、保健所という言葉の意味を、詳しく訊けずにいたのだ____