表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吾輩は魔王である  作者: 成瀬ケン
第二章
10/14

魔王と大地の聖霊



 うららかな日だった。


 遠くの山から、鳥のさえずりが響いている。木々のつぼみが膨らみ、命が芽生える匂いを感じていた。


 それを見ていると、ふと思う。母君が言っていた桜というのは、いつ頃咲くのだろうと。




 吾輩立派なネコとして育っていた。


 狩りも出来るし、自動車の避け方も学んだ。

 あのしつこい老婆をも簡単にかわすようになっていた。



 こうなれば次は魔法の練習だ。この肉球も少しだけ操れるようになったし。


 ……あの少女には悪いが、吾輩は人間に怨みを持っているのだ。

 魔王として暗黒世界を創り出し、必ずこの世界を統一してやる。



「捕めだぞ、このネコっ子!」

 老婆の声が響いた。


「フギャ!」


 なんと吾輩捕まってしまった。あろうことか獣を捕らえるような網で、罠にかかったのだ。


『まさか、道具を使うとは!』

 必死に暴れるが、その度に網が手足に絡み付く。完全に逃げる手立てをなくしていた。


 脳裏に浮かぶのは、死の文字だ。コップに頭を突っ込まれて、水をかけられて死んでしまうのだ。


 折角ここまで生きてきたのに、もうすぐ暖かい春が訪れるというのに……



「最後まで"ゴセやげる"ネコだね。そんな爪たでで」


 眼前では老婆が、眼をギョロギョロさせて笑っている 。


 こうなれば吾輩が出来る術はただひとつ。  


 魔法を詠唱して、このピンチを切り抜けることのみだ。



『この世の聖霊王よ! 願わくば我が願いを訊きたまえ。我が力となり、目の前の全てを蹴散らすのだ!』



 口元を大きく開いて、左右の掌に願いを籠めて詠唱したのだ。

 ……実際には「フギャー!」としか言えていないが、とにかく詠唱したのだ。



「さぁ、成仏しな」

 老婆のしわくちゃな手が吾輩に伸びる。


 そしてピタリと止まった。


「……地震?」

 おもむろに辺りを見回す。


 地面がカタカタと揺れだしていた。


「やっぱ地震だよ、でっかいよ!」

 その表情が恐怖に歪む。


 やはり人間など愚かな存在だ。これは地震などという代物ではない。

 吾輩が唱えた詠唱の結果である。吾輩の魔法が成功したのだ。


 大地を司る聖霊は"ノーム"。彼奴きゃつが、我が声に反応した結果である。



 その威力は想像を越えたものであった。最初カタカタと小刻みであったそれは、いつしか巨大なものとなり、地面を大きく揺らしだす。


「愛実!」

 それには老婆も、まともに立っていられぬ状況だ。


 網を放し、恐怖に尻もちを突き、地面を這いずるように逃げ出す。



『愚か者め、吾輩を怒らすからそうなるのだ』


 我輩は鼻高々だった。


 なんという威力。ネコの身に生まれ堕ちても、ここまでの魔法を唱えられるとは、流石は魔王といった具合か。


 この威力を持ってすれば、神々との戦も有利に進められるであろう。

 奴等きゃつらの青ざめる顔が眼に浮かぶわ。



 しかし想像を越えた威力。心なしか、先程より威力も増しているようだ。


 ネコとして、これ程の魔法を使えるのは頼もしいが、ネコに堕ちた我が身からすれば、少しばかり恐怖を感じる。


 このままでは吾輩とて、ただでは済まぬだろう。



『大地を司る聖霊王ノームよ、我は満足した。契約を打ち切り、速やかに立ち去るがよい』



 感謝するがいい人間よ。あの少女の為に、これぐらいで勘弁してやろう。


 こうして吾輩は、網から脱出を図る。死の恐怖から逃れたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ