出会い
1年後、光太はごみのように門から放り投げられた。行く当てなど何もない。光太は何も持たず歩き出した。歩き出した先は国から見える山。山に引き寄せられるように足が勝手に進んでいく。何日歩いたのかもわからない。止まることなく歩き続けた。暗く険しい山を歩いていると、光が見えた。必死で歩いた。その先に何かが待っているような気がして夢中で走り出した。暗闇を抜けるとそこには丘が広がっていたようやくたどり着いた。そのとたん光太は大きな石にもたれかかると力尽きた。
次に目を覚ました時、光太は知らない天井を見上げて布団に寝かされていた。料理のいい匂いが部屋を包み込んでいた。久しぶりに感じる温かさ。その幸福感に包まれ光太はまた目を閉じた。
再び目を覚ましたのは、手に温もりを感じた時であった。うっすらと目を開けた。そこには自分の左手を握ったまま光太を見つめている女の子の姿があった。女の子は、
「気が付きましたか?」
と話しかけてきた。光太はうなずいて見せたが声を出すことは無かった。すると女の子は、
「食事を用意しました。是非、食べてください。」
と言うと、食事を光太に差し出した。パンとシチューのような温かいスープ。
「いいえ結構です。」
と小さな声で言うと起き上がろうとした。
「ダメです。まだ体力が回復していませんので。」
と光太が起き上がるのを女の子は静止した。
「食事をとってしっかり休んでください。」
と言う女の子に対し、
「本当に大丈夫です。」
と小さな声で冷たくあしらい、女の子の静止を無視して再び起き上がろうとする光太。女性が魔法をかけた。
「リ・ストレイント(拘束)」
光太は体の自由が利かなくなった。それはまるで幽閉されている時の感覚であった。
「あなたもそうやって縛り付けるんですね。」
と光太はボソッと言った。女の子はハッとした表情になり魔法を解いた。
「ごめんなさい、そういうつもりはなかったんです。縛り付けるつもりはなくて、ただしっかり休んでいてほしかっただけだったんです。」
と言うと、光太をここまで運んできた経緯と自分が何者なのか話し始めた。
「私はユーズと言います。エルフ族です。」
光太は女の子の顔を見上げた。確かに耳は尖っているがそれ以外は普通の人間と一緒であった。
「私はこの山の管理しております。と言うのも、この山には伝説の英雄様のお墓があり、母親の代から守ってきました。管理を続けてきて、もう300年ほどになるでしょうか。なぜ母が勇者様の墓を守ってきたかと言うと、母は勇者様と一緒に旅をして魔王を倒したパーティーの一人なのです。他の仲間たちはこの世を去り、残った勇者様と母との約束でこの山にお墓を建て、代々見守っていたそうです。まだ私で2代目ですけど。そしてそのお墓にもたれるようにして倒れていたのがあなたでした。1週間うなされながら眠ってらっしゃいました。回復魔法をかけてみたのですが一向に良くなる気配がなくて、体の傷も治りませんでした。この傷は精神的なものなのかもしれません…お辛いことがあったのでしょう…何かひどい目にあったのですか…もしよろしければお話聞かせていただけませんか?」
と一方的に話を聞いていた光太だったが、
「看病していただきありがとうございます。このお返しはいつかさせていただきます。もう大丈夫です。」
と言うと再び立ち上がろうとした。が、こちらも再びユーズが静止に入った。
「しっかりと体力が回復したのであれば止めることは致しません。ただ、このままではまたどこかで倒れてそのまま力尽きるでしょう。」
と言うと、光太は
「それならそれで結構です。もうどうなってもいいので。」
とうつろな目で答えた。光太の目に生気が感じられなかった。ユーズは首を横に振ると、強い口調で
「それはいけません。命を粗末にするようなことは私が許しません。せめて1週間ここにいてください。何もしなくていいので、1週間ここで休んでしっかり食べて体力が回復したのであれば引き留めは致しません。」
と説得させられた光太は
「わかりました。」
と小さな声で返答した。
「まずはしっかり食事をとってください」
とユーズが言って先ほどの食事を光太の前に差し出した。
「スープ温めなおしますね。」
と言ってキッチンに戻っていったユーズ。光太はその背中を見て視線をなどに移した。外は緑に輝いていた。
そこからの1日はとても長く感じた。何もしないで布団にいるだけ。ただ殴られることもおもちゃにされることがないのが唯一の救いではあった。ユーズは山の見回りをしていた。
2日目は外の風景を布団の上から眺めていた。大きな石が建ちその周りにはたくさんお色とりどりの花が咲き乱れているのを見つけた。鳥たちも集まって遊んでいるかのほうだった。おそらくあれが勇者の墓なのだろう。
3日目も昨日と同様に外の景色を眺めていた。
4日目は外に出てみた。自然とお墓に向かっていた。お墓にもたれかかると、何とも言えない安心感。特に右腕からは痛みがなくなり傷が治っていくかのようだった。暖かい光に包み込まれるような感覚。とても心地が良い。その日はずっとお墓のそばにいた。
5日目も昨日と同様にお墓のそばにいた。右腕の痛みはすっかりなくなり傷もきれいに消えた。右手の甲のあざは残ったまま。光太の目にも少し光が戻ってきた。
6日目はユーズと一緒に山の見回りに行った。地図を見せてもらった。キーザ村で見た地図に書いてあった星のマークはどうやらこの山を記していたらしい。そして山のふもとにはキーザ村から避難してきた村人たちが暮らしているようだった。この山は勇者の光の魔法によってレベルの低い魔物などが襲ってくることができなくなっているらしい。そこで村人たちは魔物に襲われる前に避難してきたということだった。そして休憩中、光太は自分に何があったのかユーズに話してみることにした。キーザ村での出来事、クイシャの国での出来事。転移してきたことは教えなかった。ユーズは曇った表情で口元を手で押さえて聞いていた。
「そのようなことがあったんですね。」
と言って涙を流してくれた。
「明日から私が魔法を教えます。高度な魔法はありませんが大抵の魔法であれば教えられますので。エルフは魔法操作を得意としていますので、任せてください。」
と笑顔を見せて言ってきた。
7日目は丘から離れ、山の頂上付近の岩場だらけのところまで来て、ユーズに魔法を習っていた。
「では最初に私のステータスをお見せします。」
ユーズは手を開いて光太に見せた。
ユーズ Lv.43
HP:4300 MP:6450
職業:ヒーラー
称号:なし
魔法:火魔法 Lv.4
水魔法 Lv.4
土魔法 Lv.3
風魔法 Lv.5
光魔法 Lv.2
スキル:武器 Lv.2
戦闘 Lv.3
探索 Lv.4
魔力 Lv.6
治癒 Lv.5
操作 Lv.6
このステータスを見て光太は驚いた。
(神様が言っていたレベルを見ると相当高い。ヒーラーとしては申し分ない強さだ。)
「すごいですね。ほとんどの操作系魔法は使えるんですね。」
と光太が言うと、ユーズは照れながら、
「そんなことは無いですよ。」
と言ってもじもじし始めた。そしてユーズは、
「コータさんのステータスを見せてください。」
とお願いされたが、
(このステータスを見せると、おそらくパニックになってしまう)
と思ったので、
「自分のステータスは見せれるほどのものではありません。ユーズさんの魔法を見せていただけますか?」
と拒否をして何とか話をそらした。
ユーズは不服そうな顔をしていたが小さく頷くと自分の魔法を光太に見せることにした。
「ファイアー」
とユーズが言葉を放つと手から火が噴き出た。以前光太が出した火には劣るがかなりの威力である。
「これが火魔法のLv.1のファイアーです。基礎の魔法です。魔法は魔力と操作のスキルで大きくしたり小さくしたりできるようになり、それが各魔法のLv.UPにつながっていきます。魔法を強くしたいのであれば、魔力や操作スキルの練習をすることをお勧めします。人にはそれぞれ得意不得意はありますが、皆さん基礎の魔法は使えるはずです。」
と言うと、再び
「ファイアー」
叫ぶと、先ほどよりも威力の強い火が噴出するとその火を右に曲げたり、左に曲げたりして見せると、
「これが操作です。魔力も先ほどより強くしてます。」
と教えてくれた。すると頭の中に、
「スキルを習得しました。操作がLv.1になりました。」
と聞こえてきたので、光太はユーズに見られないようにステータスを確認した。ステータス欄には操作Lv.1が追加されていた。光太は驚いた。
(ただ見ただけでスキル習得ができるのか?あの巻物が特別なわけではなかったのか。称号の転移者が関係している…?対応力が高いということか?)
そのように疑問を持っていると、
「どうかしたの?」
とユーズに聞かれ、慌てて、
「なんでもありません。」
と答えた。光太は
「他のも見せてもらっていいですか?」
とユーズに注文した。ユーズは頷くと
「ファイアー・ボール」
と唱えると、丸い火の玉が飛んで行った。
「これは火を玉のように丸くする操作が必要となってくるんです。先ほどのはただ放っただけなのですが、今回は火を丸くして止めておかなくてはいけないのでちょっと難しくなります。」
と説明を受けると、光太の頭の中に再び聞こえてきた
「火魔法のLv.が上がりました。火魔法がLv.2になりました。」
「操作スキルのLv.が上がりました。操作がLv.2になりました。」
見ただけでどんどんレベルが上がっていきます。光太は確信を得たのか
「あなたの知っている魔法やスキルを全て見せてください。」
と懇願して頭を下げた。そんな光太の様子を見て混乱するユーズでしたが、ここ数日間の光太を見てきて、光太の目に光が戻ってきていたことを感じていたため、すべてを見せてあげると約束した。そこからユーズは自分の持つ最大限の魔法とスキルを光太に見せることにした。光太はそれを真剣に見ることで習得していった。
時間がどれくらいたったのだろうか。お腹のすき具合からお昼は過ぎていることはわかる。
「はい。これが自分の持っている魔法とスキルのすべてです。」
とすべての力を見せてくれたユーズはフッーと息をつき汗をかきながら光太に顔を向けた。光太はユーズが魔法やスキルを教えてくれている中でこっそりステータスを確認していた。
光太 Lv.55
HP:5500 MP:2750(2750 UP)
職業:学生
称号:転移者(空間を自由に転移できる。別の世界への適応能力が高い。)
魔法:火魔法 Lv.4(3 UP)
水魔法 Lv.4(3 UP)
土魔法 Lv.3(習得)
風魔法 Lv.5(習得)
光魔法 Lv.2(習得)
スキル:武器 Lv.5
戦闘 Lv.5
探索 Lv.4(3UP)
生成 Lv.1
耐性 Lv.1
強化 Lv.1
治癒 Lv.5(4 UP)
教養 Lv.4
学習 Lv.5
魔力 Lv.6(5 UP)
操作 Lv.6(習得)
光太はユーズが見せて教えてくれた魔法とスキルを全て習得していた。
「では、コータさんやってみていただけますか?」
と促されると
「わかりました。やってみます。」
と言って右手を前に突き出した。光太はユーズが見せてくれた魔法を思い浮かべながら小さな声で魔法を唱えてみた。
「ファイアー。」
すると途端に激しい音を立てて火が噴出した。火の勢いはユーズの見せてくれた火魔法よりもはるか強く吹き出ている。この火を操作しようとするが全くいうことを聞かず制御することができない。これを見たユーズが急いで水魔法を唱えたことで火をかき消すことができた。光太は、魔法やスキルを覚えることと使用することは違うんだと思い知ったかのように落胆していた。ユーズも呆然としていたが、これは光太の魔法の威力に驚いていたのだ。
「光太さん。すごいですね。Lv.1の火魔法ですよね。Lv.1でこの威力はみたことないです。すさまじい魔力をお持ちなのですね。」
とユーズは褒めてくれた。しかし光太は納得していなかった。
「いくら威力が強くても扱えなくては使い物にはなりません。」
と言うとユーズが尋ねてきた。
「コータさんは右利きなのでしょうか?」
光太は、
「はい。そうですけど、何か?」
とユーズに聞き直した。
「光太さんを見た時から右腕に少し違和感を持っておりました。使いにくいと思ったことはありませんか?」
と聞かれて
「そんなことは感じたことないです。」
と答えた。するとユーズが説明を始めた。
「日常生活において利き手があるように、魔法にも利き手があるんです。」
と言うと、ユーズは続けた。
「私たちエルフ族は魔法にたけた所属ですが、魔法を使う時の魔法の流れを見ることができるんです。コータさんは先ほど右手で魔法を放ちましたが、魔法の流れが非常に乱れていました。人には魔法の核となる部分が体の中心部分に存在しています。そこからそれぞれ使う各場所へ流れていきます。光太さんの魔法の流れはとてもきれいに流れているんです。ですが右腕に流れた瞬間とても乱れていました。試しに左手で魔法を使ってみてもらってもよろしいでしょうか?」
との説明を受け光太は理解した。光太は左手を突き出すと
「ファイアー」
と唱えた。すると同様に火が放たれたが、先ほどのような激しさはなく穏やかで自分が想像した通りの火が出ている。さらに右に曲がれと念じると右に曲がり、左に曲がれと念じると左に曲がる。まさに思うがままであった。ユーズに目を移すと、ユーズは手をたたき喜んでいた。
「ありがとうございます。」
と光太はユーズにお礼を言うと、続けて他の魔法も試してみた。
「ファイアーボール。」
と唱えると自分のイメージ通りの火の玉を作り出すことができ、大きさを自由に変えることができた。これを見たユーズは、
「完璧ですね。やっぱり魔法の利き手は左なんですね。」
と言って光太を祝福した。光太はさらに別の属性魔法やスキルについても確認してみた。ユーズに見せてもらったものすべてを試してみた。そのすべてを光太が習得していたことに驚きを隠せないユーズであった。疑問に思ったユーズが改めて
「コータさんのステータス確認させていただいただけないでしょうか?」
と聞かれたため、教えてもらった恩も感じながら仕方なくステータスを見せることにした。光太のステータスを確認したユーズは驚愕する。魔法のレベルは一緒、スキルもほぼ一緒であり、全体のレベルは光太の方が上であった。そして何よりも称号持ちであったこと。世界でも数えるほどしか持っていないと言われる称号を持っていることに驚きを隠せないでいた。
「コータさん称号持ちだったんですね…、教えてくれればよかったのに。私バカみたいじゃないですか。」
とユーズは悲しい表情を見せる。
「すみません。これには事情がありまして。」
と言うと、改めて魔王を倒すために転移してきたこと、この世界の言い伝え、元の世界に返るために魔法やスキルの習得が必要なことなどの説明をした。この説明を理解したユーズは、
「そうだったんですね。なのにあんなことに巻き込まれる形になってしまったんですね。この世界の住民が。すみません。」
とユーズの謝罪を受けた。光太は
「あなたが悪いわけではないので、頭を上げてください。」
とユーズの謝罪を否定した。
「私もコータさんが元の世界に戻れるようにお手伝いさせてください。」
とユーズが申し出た。
「ありがとうございます。でも、もう、十分に助けていただきました。これ以上は自分で何とかしてみます。」
と拒否すると、ユーズは
「ではこの世界についてだけでも伝えさせてください。この世界を知ることで帰る手段が見つかるかもしれません。」
と言うと、ユーズがまた説明を始めた。
「この世界は大きく北部、南部、東部、西部、中央部の5つに分かれていてそれぞれは海に囲まれています。それぞれには中心となる大きな国があります。ここ西部の中心の国がクイシャの国でした。北部はクージャの国。南部はノープトゥマーキーの国とセキオウの国。東部はオールドミャントの国。そして中央部には魔王の国である、フローセンサスヒルの国があります。
中央部は魔王が支配している国であり、ほかの4つの地区の住民が中央部に行くことはめったにありません。他の4つの地区をそれぞれ治めている王様は、みなさん伝説の勇者様の末裔にあたります。そしてそれぞれが得意とする魔法の使い手であり、誰も逆らうことができません。
勇者様は魔王との戦いに勝利した後、子宝に恵まれ5人の子供を授かりました。北部を長男に、現在はセレステンと言う王様が治めており、光魔法を得意としております。と言いますのも長男の一族は“聖剣”と言う称号が代々引き継がれており、光魔法をLv.MAXまで使用することが可能なのです。他の属性の魔法についてもそれなりに使うことができるようで、まさに伝説の勇者様の生き写しと言っても過言はないでしょう。
次に、ここ西部は次男に現在はジャッキと言う王様が治めております。闇魔法を得意としており闇魔法は伝説の王様をも遥かに凌ぐLv.に達しているようで、闇魔法で王様に勝てる人はいないということです。
南部には男女の双子がともに治めておりましたが、今は三男の末裔であるトーリューと言う王様がノープトゥマーキーの国を、長女の末裔であるツィーゲと言う女王がセキオウの国を治めております。三男は代々、火魔法を得意としており、長女の末裔は水魔法を得意としております。それぞれが得意とする魔法が長男の魔法よりも強い力を持っております。南部は現在二つに分裂しており、とても仲が悪いと聞いております。
東部を四男に、現在はサローガと言う王様がオールドミャントの国を治めております。四男は代々、風魔法を得意としております。現王様も風魔法を得意としておりますが、魔法だけではなく、武器のスキルや戦闘のスキルはどの兄弟よりも高く、戦闘になると一番強いと言われております。
それぞれの国は互いに均衡を保ち平和に暮らしております。魔王も人々に手を出すことがなく平和な世界です。魔王がいることでそれぞれの国が平和が保たれてることがあるかもしれません。確かに魔王がいなくなってしまうとこの世界に災いが起こることがあるのかもしれませんね。」
と説明を受けた光太は追加で聞いてみた。
「それぞれは周りを海に囲まれているのですが、どのように移動しているのですか?」
とユーズに質問すると、
「港町から毎日、午前と午後に船が出ます。ただ対面する地域に行くことはできません。西部と東部、北部と南部はお互いに行き来することはできません。西部には北部行きの船がクイシャから出ています。後はハーバ町から南部行きの船が出ております。あのようなことがあってクイシャの国には行けないと思いますので、もし行くのであればハーバ町に行くことをお勧めします。」
と教えてもらうと、
「ありがとうございます。」
とお礼を言うと魔法の練習を続けた。
次の日の朝、光太は旅立つ準備をしていた。ユーズから食料と新たに短剣とそれから許可書を受け取った。
「これを持っていると、どこの国に入ることも可能です。何か困ったことがありましたら、いつでもいらしてください。コータさんの帰りをいつでもお待ちしております。」
と言うとユーズは手を振って光太の出発を見送った。
ユーズの家を出てから3日間ついに港町に到着。到着したのはクイシャの国だった。




