過去と
光太が小学生だったころ無邪気に遊ぶ元気な男の子だった。足は速くスポーツ万能。勉強はふつう。鬼ごっこやサッカー、ドッジボールなど校庭を走り回っていた。光太の周りには常に友達がいた。自然に人が集まってくる人気者であった。自分は学校の中心であり主人公なのだと思いあがっていた。すべてが自分の思うがままであった。
ただ中学生で一変してしまうことになる。光太は中学生になっても変わることは無く生活していた。ただ、中学生ともなると大人の意見を持つ生徒が増えてくる。それは同時に光太がこれまでやってきたこと、現在やっている行動に疑問を持つ生徒が増えてくることにもなった。光太の行動を疑問に思う生徒は増えていき、次第に光太の周りから次々と人が減っていった。最後まで横にいてくれたのは千尋。小学校の6年間、中学校でもずっと同じクラスの腐れ縁。彼女は表に出たり、特別明るい子ではなく、光太とは正反対で陰で見守っているようなとてもやさしい女の子だった。
中学2年の時に決定的な事件を起こしてしまう。ある日の給食時間、光太は同じクラスの男子生徒と言い争いになった。争いは激しさを増し取っ組み合いの大喧嘩に発展してしまう。それぞれに止めに入るクラスメイト達。そこには光太を必死に止めようとする千尋の姿もあった。それでも止まらない光太はクラスメイトを突き飛ばしてしまった。ガシャンと大きな音がしたところで光太は我に返った。クラスメイトが一人、千尋が倒れている。頭から血が流れている。騒ぎを聞きつけてきた先生が急いで救急車を呼んでいた。みんなが千尋に駆け寄る。光太は呆然としていた。考えることも、動くこともできなかった。救急車に運ばれていく千尋を目で追うことしかできなかった。その日の後の記憶はなく、どのように帰ったのか、ご飯を食べたのか、お風呂に入ったのか、眠れたのか…。それから学校には行かなくなった。
後日、両親とともに学校に呼び出された光太は退学にはならなかったものの、一週間の停学処分を受けることとなった。千尋の家にも謝罪に行った。今後どうするのか家族会議が行われ、父に転勤の話が上がっていたことから家族で引っ越すことにした。あの事件後一度もクラスメイトや千尋の姿を見ることなく学校を転校することになった。それからの光太は、自分のことを誰も知らない中学校で、誰とも関わりを持とうともすることなく中学校を卒業。高校生活を淡々と日々を過ごす生活を送っていた。
目を開けた光太。青い空の下、光太はぽつんと立っていた。目の前には小さな湖。周りは草原が広がっている。どこまでも緑が続く。体が軽い。足が地面に接していないかのようだ。「これが別の世界へ転生したものの力なのかな。」
などと考えていた光太の格好は患者着で裸足、右手には包帯が巻かれている。それもそのはず、先ほどまで入院していたのだから。神様からもらった収納袋を右手に持って、左手には、これもまた神様からもらった卵を抱えていた。芝生に座り込んだ光太は
「服も変えてもらえばよかった。」
と後悔していた。そして光太はおもむろに
「硬貨がどのくらいあるか確認してみるか。」
と収納袋の中に手を入れてみたが、出てこない。
「・・・こっちの世界の硬貨がどういうものかわからない…。物がはっきりイメージできないと取り出せないと言うことか…?」
光太は改めて絶望に打ちひしがれていた。卵は一度、収納袋へと入れた。
「まずはこの格好と硬貨をどうにかしなくては。この世界の住人を探そう」
住人を探すため湖から流れ出る川を探し歩き始めた。
「水は生きるためには必要不可欠。水があるところに人は住んでいるはず」
途中で川の水を飲んだり、果物をとったりしながら川沿いを歩いた。しばらく歩き日が落ち始めたころ、木杭の柵で覆われた集落を発見した。それは外からの侵入を拒んでいるようだった。ただ、その柵は見るからに軟弱で触っただけで倒れそうであった。村の入り口の立て札には“キーザ村”と書かれている。光太の手には途中で見つけた果物があった。
「ここに誰か住んでいるのか?」
光太は心配には思ったがひとまず集落に入ってみることにした。
集落は静まり返っている。入口の両端に見張り台が建てられていたようだが片方は朽ち、もう片方も傾いて立っていた。他の建物をよく見てもすべてボロボロ。壊れかけている建物もあった。人の気配は全くない。集落の中心にこの集落では一番大きな建物を発見した。ここまで誰にも会っていない。生物すら見当たらない。
「ここに誰かいてくれればいいんだけど…」
コンコンコン。光太はドアをノックしてみる。だが、返事がない。もう一度ノックをしてみた。やはり返事がない。光太はそっと扉を開けてみた。
「お邪魔します。どなたかいらっしゃいませんか?」
声をかけても返事はない。光太は思い切って建物の中に入ってみた。ここは生活感があり、住人が住んでいたようだったが、ガラスは割れ、テーブルや椅子はズタボロ、食器も割れていた。
「これはひどいな。この村で一番大きい家ということは村長かお偉いさんの家かな。」
光太はこの家をもう少し見て回ることにした。お腹がすいた光太は部屋にあった果物を手に持ちながら物色していた。
ギギギーととびらの開く音がした。
「この村にまだ人がいたのか。」
扉を開けた男性が短剣を持って光太に話しかけた。光太は、
「ここの住人の方ですか?」
と尋ねたが、その男は
「いや、俺はこのあたりを根城にする盗賊だ!俺は盗みも好きだが人殺しも大好きなんだ!」
と言って光太に襲い掛かってきた。が、見える。襲ってくる男の動き、向かってくる剣先の道筋。光太は簡単にかわすと持っていた果物を短剣を握る男の右手目掛けて投げた。果物は右手に命中。思わず短剣を落とした男に、光太は短剣を拾い上げると刃を男に向けて尋ねます。
「あなたが知っていることを、教えてください。あなたのこと、この村のこと、この世界のことを。」
短剣に恐怖した男は
「わかった。わかった。」
と頭を下げ土下座の形で震えた声で説明を始めた。
「俺はタユウと言う盗賊の下っ端だ。俺はコーマ団と言う盗賊団に所属している。コーマ団はここら一帯を根城に活動している。今回この村を訪れたのは、一か月ほど前この村が魔物たちに襲われ、今は、もぬけの殻となっていることを聞きつけ、仲間数人とで村に何かいいものが残っていないか物色に来たってわけさ。」
ここまで聞いたところで光太が
「確かに争ったような形跡はあったが、血が付いたり死体が転がったりしていないようだけど…」
と、村の現状を思い返し、家の中を見回した。すると男は、
「ここの村人たちはいち早く逃げ出したようだ。近くの村にかくまわれているのか、もっと遠いところに逃げたのか…、詳しいことは知らねえ。が、村人みんな逃げたようだ。」
と説明した。納得した光太は、
「で、この世界はどういうところですか?」
と質問すると、
「どういうところと言われても、あんちゃん知らねえのかい?…もしかして…この世界の住人では…ない…?別の世界から来た…のでは…?」
質問を質問で返された光太は、面倒くさいというような表情で
「そうだけど」
と答えると、男はさらに恐怖し
「お許しください、お許しください!」
額を床にこすりつけた。急に怯えだした男に向かい、
「どういうことですか?教えてください?」
と光太は尋ねた。男は大粒の汗をかきながら再び説明を始める。
「は、はい。この世界ではこのような言い伝えがあります。
“異世界カラ来タリシモノ世界ヲ揺ルガシ世界ニ災イヲモタラス
コノ世界ヲ守リタクバ異世界カラ来タリシモノト関ワルコトナカレ
タダ去ルヲ待ツノミ“」
言い伝えを聞いた光太は
(自分がこの世界を乱すことになるのか…?魔王を倒せって言われて来たんだけど…)
「魔王がこの世界を滅ぼそうとしているのでは?」
と光太は尋ねたが、男は
「魔王はこちらが何かしない限り手は出してきません。魔王はただの傍観者。人間と魔物との争いをただ見ているだけで手を出すことはありません。人間が勝とうが魔物が勝とうが関係ないのです。」
なるほどと光太が納得すると
(自分は必要ないのでは…)
と思い始めた。
(自分が手を出し、魔王を倒すことで、この世界に災いが訪れるのではないのか…。よし、帰ろう。)
と思った光太は、男に対し
「わかりました。自分は元の世界に返ります。あなたも仲間のもとへ帰っていいですよ。」
と言うと、男は何度も頭を下げて
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
と、お礼を言って足早に家の出て行った。
男が家を去りガランとした家の中で光太は一人首をかしげていた。
「どうやって戻ればいいんだ?神様が“転生者”っていう称号で空間を自由に行き来することができると入っていたがやり方がわからない。神様は確か“魔法やスキルを身に付けたら”と言っていたな。自分は魔法もスキルの使い方もわからない…。」
光太は慌てて家の外に出て、
「待って!!」
と言ったが、そこには人影がなく、男はすでに仲間たちとこの村を離れたようだった。
「あーあ。逃げられちゃった。帰れるチャンスを逃してしまった。」
と、悔しがった。光太はすぐに気を取り直して村の散策を続けた。
「ちょっと服と靴を拝借しようかな。」
途中での家で見つけた村人の服と靴を見つけた。外はすっかり暗くなり光と言えば月の光のみ。
「今日のところはこの辺にしてどこかで休もう。今後のことも考えなくては。」
比較的きれいな家を見つけ光太は休憩をとった。幸い、布団があったのでそこに横になりやらなければいけないことを考えていた。
「まずは、帰る方法として魔法やスキルを身に付けること。そうすればいつでも帰れる。自分がいて世界に災いが起こるらしいから、覚え次第すぐに帰ろう。ただどうやって覚えよう。覚えるのに時間がかかったらどうしよう…。覚えるまではこの世界で生活していかなければいけないから、生活するためには、やっぱりお金だ。硬貨がどんなものなのか確認できれば、取り出して使えるんだけど、今日は1枚も見つけられなかったし、あの男を返さなければ…。あとは、とりあえずこの世界の地図でもあれば動きやすくなるかな。順番としては地図を探す。硬貨の確認。魔法、スキルの取得かな。」
などと考えながら光太は眠りについた。
翌日、太陽の光で目が覚めた光太は、昨日見つけていた食料を袋から出し食べながら今日の予定を考えていた。
「この村に一つくらい地図があってもいいと思うんだけど、まずは地図を見つけるのが優先かな。そのあとはまた考えよう。」
光太は昨日と同様に村を散策し始めた。数件探したところで、筒状に丸められる紙が数本、机の上に置かれているのを発見した。一枚一枚確認していると“火魔法初級編”と書かれている紙を発見した。それをなんとなく読んでみた。すると、
「火魔法を習得しました。火魔法がLv.1になりました。」
「スキルを習得しました。魔力がLv.1になりました。」
と頭の中に聞こえてきた。そこで光太は自分のステータスを確認してみた。火魔法Lv.1とスキルに魔力Lv.1が追加されていた。
「神様と確認した時には魔法は“なし”だったけど、火魔法Lv.1が追加されている。ただ見ただけで。すごいな、この紙。」
と感心しながら、念のためにと右腕のほうも確認のため右手でステータスを開いてみた。
「右腕のほうは“火魔法 Lv.8(使用不可)“だったのが、” 火魔法 Lv.8(一部使用可)“に変わっている。そうか、自分が魔法を覚えることで、右腕で使えなかった魔法も使えるようになるのか。」
と推測した光太は、ほかの紙も確認してみることにした。そして見つかったのは“水魔法初級編”と“地図”だった。光太は“水魔法初級編”の紙を見てみた。
「火魔法を習得しました。火魔法がLv.1になりました。」
と頭の中に聞こえた。両方のスキルを確認してみると左腕のほうは“水魔法Lv.1”が追加され、右腕のほうは“水魔法 Lv.6(一部使用可)”と変化していた。
「魔法は後で確認してみよう。地図も見つかったし、近くに人が住んでいそうな村や町はあるかな。」
地図を確認する光太。
この世界は大きく北部、南部、東部、西部、中央部の5つに分かれていてそれぞれは海に囲まれているため、歩いて渡るのは難しそう。今、光太がいるキーザ村は西部に位置するらしい。詳細に書かれているわけではないが、西南のほうに向かうとクイシャという町があるらしい。キーザ村よりは大きそうだ。そのクイシャの町の近くには星のマークが書かれている。
地図で目的地を確認したところでクイシャの町に行くための準備を始めた。防具になりそうなものはなく、靴を何着かと服を何足か拝借し、武器は昨日、盗賊の男が忘れていった短剣を1本。野宿に備えて布団を2組。お鍋と食器を何組か。食べられそうな食料も補充。これらを全て収納袋へと入れた。また準備中に銅貨を1枚見つけた。袋に入っていた銅貨を確認したところ100枚入っていた。見つけた硬貨も袋に入れ、出発の準備終了。キーザ村を後にした。
光太はキーザ村を出てからほぼ半日歩き続けた。不思議と疲れはない。体が軽い。外も暗くなってきて、休める場所を探していたところ、洞窟があったのでそこで野宿をすることに決めた。洞窟はかなり深く中まで見ることができなかった。そこで光太は、
「暗くて先がわからない。さっき習得した火魔法使ってみるか。」
光太は右手を前に差し出し、火をイメージしてみた。すると激しい音と衝撃。勢いよく放出された火は、瞬く間に奥まで到達し、洞窟の中は火の海となった。慌てた光太は
「やばい、やばい!水魔法、水魔法!」
とこちらも先ほど習得した水魔法で対応することにした。水をイメージすると、こちらも激しい音と衝撃で勢いよく水が放出されると、奥まで到達したのか水が折り返してきた。まるで津波のように。光太はさらに驚き洞窟から出ると木の上に飛び乗って水が引くのを待った。
「あせったー。Lv.1であの威力だと使いこなせないな。これは人がいないところで練習が必要だな。しかし、よくこの木に飛び乗れたなぁ。思ったよりもかなり体を動かれそうだな。」
火が消え、水が引いた洞窟を確かめに行った。中は丸焦げ、全体が水浸しでとても休めそうな状態ではなかった。この光景に驚愕する光太は。
「あーあ、やっちゃった。これは無理だ、他を探そう。」
ということで、光太は再び安息の地を求め歩き出した。偶然にも近くに人が3~4人ほどが入れる洞穴を見つけたのでそこで一晩過ごすことにした。
夜が明け。異世界生活3日目。再びクイシャを目指し歩き始めた。広い場所を見つけては
火魔法と水魔法を使ってはみるが威力が定まらなかった。強かったり、弱かったり、なかなか扱うことができなかった。キーザ村を出て一週間ついにクイシャの街に到着した。この一週間で倒した魔物は0匹。途中、ゴブリンの群れや小さなウサギのような魔物を見かけたがすべてスルーしてきた。襲われたわけでもなく、戦う理由がなかった。それに自分の行動でこの世界を滅ぼす恐れがあるということで、なるべく魔物と出会わないように移動してきたのだ。(※光太は知らなかった。魔法の練習をしている近くに魔物がいたことがあるが、魔法の威力に恐れをなし逃げていた魔物がいたことを。)




