文字通り伝説の勇者の右腕でした
秋の空は青く澄み渡り、真っ白い雲がゆったりと風に流されてゆく。正面には黄色く色づいた銀杏並木。学生服を身にまとい腕時計を見ると午後3時。そして足元を見ると青白い光を放つ魔法陣。
(…いまここに“魔法陣”があります。
現代において魔法陣がいきなり出現するのは不思議なことではないのかもしれない。
アニメや漫画の世界でたびたび見られる光景なのだから。俗にいう異世界転生である。転生にもパターンがある。
1 現代社会で死亡
2 知らない場所に迷い込んでしまいいつの間にか
3 魔法陣が現れる
等…)
まさに帰宅途中の光太の目の前に青白く光る魔法陣が出現した。
光太は
(やばっ!面倒くさいことに巻き込まれたくないなあ…。)
そこで、魔法陣を避けるように横を通り抜けようとした。その時、後ろから、本を読み(当然、前など見ていない)、眼鏡をかけた高校生とぶつかってしまう。その拍子に魔法陣に腕が振れてしまった。
「うわーーー・・・・!」
「うわーーー・・・・!」
「あっ・・・。」
光太は叫び声をあげてその場で倒れこんでしまった。
「どうした、兄ちゃん大丈夫か!しっかりしろ!今、救急車呼んでやる!」
薄れゆく意識の中で聞こえてきたのは、通りすがりのおじさん?が助けを呼ぶ声だった?
(他にも何か聞こえたような・・・・・・)
場面は変わってここは魔王城。
暗闇に赤い月。大きな城の魔王城。
激しく飛び散る火花。舞う血しぶき。
魔王と勇者との血統の真っただ中。剣と剣とがぶつかり合う音がこの戦いの激しさを物語っていた。剣を構えた二人がお互いのすきをうかがっている。
勇者一行は傷つき勇者以外の3人は倒れて意識をなくしていた。
聞いたことのない言葉が飛び交っている。
魔王の呪文
「mfdjgんhしdlgcvm!!」
漆黒の大きな球体が勇者を襲う。
間一髪でよけた勇者。ドサッと鈍い音がした。腕が落ちている。それは紛れもなく勇者の腕だったものだ。剣を握ったままの姿で落ちていた。
勇者の表情がゆがむ。左手で負傷した右腕をかばう
魔王は不敵に笑う。
「んjsrcんしうbghxv、kmjvkhjjmv(剣を失くし、腕まで失った貴様に勝ち目などない)。」
そういうと、魔王が襲い掛かってきた。
もうダメだと思ったその瞬間、青白い魔法陣が現れ魔王をはらいのけた。
「もせyrんしcぎう(なんだその光は)!?」
そして、魔法陣が消えると失ったはずの勇者の腕は再生していた。
「jf、hんg(な、なぜ)!!?」
驚く魔王に対し、勇者もまた驚きを隠せずにいた。が、すきのできた魔王に対し勇者は瞬時に右手を魔王に向け魔法を唱える。
「sddtdv!」
瞬く間に魔王は空のかなたに跡形もなく消えていった。
ある病院の一室。
「光太、光太!目を開けてちょうだい。返事してちょうだい。」
聞こえてくる、光太を呼ぶ泣き叫ぶ声。光太にはうっすら聞こえてきた。ただ、目を開けることも、声を出すことも、動くことすらできない。
酸素マスクをつけ、点滴を受けながら
「お母様落ち着いてください」
数名の看護師さんに抑えられ、泣き叫んでいたのは光太の母だった。
「うちの子はどうなってしまったんですか?助かるんですか?先生教えてください!」
母は医師に詰め寄っているようだ。
「私たちもどういう状況なのかわかっていないのです。通報していただいた方に話を聞くと右腕を抑えて急に倒れてしまったということのようです。お子さんに何か持病のようなものはありませんでしたか?または、急に意識をなくしたりされたことはなかったですか?」
困惑した表情を見せるも落ち着いた口調で医師は母に尋ねていた。
「持病は何もなかったはずですし、急に倒れたこともありません。」
などとやり取りをしている。右腕は黒ずんでいるようだ。体は一切動かせないがこのやり取りは聞こえていた。
しかし、ここで急に意識が飛んだ。
次に気が付いたとき、光太は夢のような不思議な世界にいた。何もない。まっさらな世界。五感は全く機能していない。意識だけがただそこにある感覚だろうか。
(なにこれ~、ふわふわ~、気持ちいい~、このままここにいたいな~。)
暖かいのか、冷たいのかもわからない。硬いのか、柔らかいのかもわからない。ただ何とも言いようのない幸福感に包み込まれているようだった。
が、ふと我に返った。
(ここどこ?自分はどうなった?母さん泣いていたようだけど、自分は生きてる?死んでる?)
(腕を抑えて倒れたって言ってたよな…。魔法陣に触れた?引っ張られる感覚はあった…)
意識がはっきりしてきた。その時、
(ごめん…、これ返す。」
という、声が聞こえた、感じた。
ここでまた光太の意識は病院の一室に戻った。目を開き、上体が起き上がり、周りを見渡した。外は暗くなっているようで、病室には電気がついている。時計を見ると18時。ベッドには顔を伏せて泣いている母が一人。周りに人はいない。
「母さん」
光太は声を出してみた。すると、驚いたように顔を上げる母。
「光太?大丈夫?わかる?」
光太の顔を凝視しながら問いかけてくる母、手元は何かを探しているようであわただしく動いている。そして探り当てたその手にはボタンが握られ、何度も何度もボタンを押し続けた。
「先生―!!先生――!!!」
大きな声で医師を呼ぶ母。その声は部屋の外にまで響いていた。
「母さん落ち着いて、大丈夫だから。」
光太は極めて冷静でいて、ただどことなく不思議な感覚ではあった。
バタバタと数名の足音が聞こえてくる。
「母さん、本当に大丈夫だから!」
光太の声も自然と大きくなってしまう。
ガラガラと扉を開けると同時に医師と一緒に看護師数名が部屋に入ってきた。医師が
「どうしました?」
というのと同時に光太と医師の目が合った。
「な…何があったんですか?」
と問う医師。顔はぽかんとしており、看護師もみな同様の顔をしていた。
「自分にもわかりません…。いろいろ声は聞こえてはいたんですけどね…、体は全く動きませんでした。」
涙を流しながら見つめてくる母にちょっと恥ずかしくなる光太。
一息ついたところで聴診器を光太の胸や背中に当てる医師。
「心音に異常はなさそうですね。」
おもむろに光太の右腕を診る医師。
「先ほどまで右腕は黒ずんでいたのですが…血の気が戻ってますね。ただちょっと右手の甲に傷がついてるようです。倒れた時にでもついたのかもしれませんね。一応包帯でも巻いておきましょう。君、巻いてあげて。」
と一人の看護師さんに指示を出した医師は、
「他に体に異常はないですか?」
と光太に尋ねた。光太は右腕を看護師に預けながら
「はい」
と一言。
「一応ほかの検査も受けていただきたいので、2、3日検査入院をお願いいたします。」
と医師から言われ、また
「はい。わかりました。」
とだけ答える光太。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
と何度も医師の手をとりお礼をしている母。
「では、我々はここで失礼させていただきます。」
と、看護師を連れて部屋を後にする医師。
光太と母は頭を下げる。バタンと扉が閉まると、光太は肩を強めにたたかれた。
「心配したんだから!もう!」
母の目はまだ涙がにじんでいる。
「ごめん。」
と謝る光太。するとすかさず母から
「何があったんだい?」
と尋ねられた光太ですが、眉間にしわを寄せ自分でも何があったのか考えていた。
「魔法…じゃなくて、“犬の糞”をよけようとしたら…人にぶつかって…急に腕が痛くなって…気が付いた時にはここにいた。」
(母さんに魔法陣のことを言っても信じてはくれないよな…)
事故当時の状況を嘘を交えて淡々と伝えた。
「それじゃ原因が全く分からないねぇ。ぶつかった人がいたのかい?ぶつかっただけでそこまでなるのは考えにくいし、通報してくれた人も光太と人がぶつかったようなことは一言も言ってなかったわよ。」
光太自身、原因が魔法陣であることはなんとなくわかっていたが、ここでその話をするとまた母が混乱してしまうことや心配事が増えてしまうことを懸念して伏せておくことにした。
安心したのか母は
「大丈夫そうなら私は帰るけどいい?」
と尋ねてきたので、光太は首を縦に振った。続けて
「学校には一週間くらい休ませることを連絡しておくから。明日はお父さんとお見舞いに来るから。着替えを持ってこないといけないし、病院の先生にも今後について話を聞かなくちゃいけないし。」
というと母は荷物を持って立ち上がる。
「これ以上迷惑かけるんじゃないよ。じゃあね。」
と母が光太にお灸をすえた。光太は
「じゃあ」
と言って扉はしまった。
静まり返った部屋で一人、ベッドに横になりながら、今日の出来事を思い出していた。
(魔法陣が現れて、右腕が吸い込まれるような感覚、気が付いたらベッドの上、かと思ったら夢のような不思議な体験、そこで「ごめん」と誰かに謝られ何かを返されて、その瞬間またベッドの上…。絶対あの魔法陣に関係しているよな…。何にも巻き込まれなければいいけど……zzz)
光太は考えながら眠りに落ちていた。
光太はまた夢のような不思議な世界にいた。ふわふわとしていて心地がいい。
(あ~気持ちいい。ずっとここにいようかな…)
(ずっとここに居られても困る!)
どこからともなくまたあの時と同じ声が聞こえてきた、声を感じた。
光太はハッと我に返る。
(誰ですか!?)
そのものの姿かたちはわからない。けど、確かにすぐ近くに何かがある気配はする。
(先ほどお主に腕を返したものだ)
(腕を…)
ここでようやく先ほど返されていたものが腕であったことを光太は知った。
(あなたは何者なんですか?)
光太の問いにそのものは
(うん・・・・・私も自分が何者なのかわからないが、まぁ神的存在とでもいうのか。)
と答えた。
(へぇー、神様、存在するんですね…で、自分はどうしてここに?もしかして死んじゃいましたか?)
と光太はいたって冷静に神様に問うた。
(違う!違う!ちょっと話を聞いてくれ)
というと、慌てて話を始める神様。
(初めから説明させてくれ。まずは謝らせてくれ。君がこのようになってしまったのは私のせいだ。申し訳ない。)
光太は怒りの表情をしていた。
(君は死んではいない。安心してほしい。ここは無の世界。何もない、ただただ私が存在する空間、私そのものというべきであろうか。)
見えているわけではないが、周りを見渡した。
(何もないから、見たり聞いたり、触れることさえできない。)
と説明する神様に対し、光太は疑問に思っていた。そこで口を出そうとしたが神様に遮られた。
(なぜ今、見たり話したりできているのかということであろう?私が君の心に入り込み心に話しかけているから。実際に見たり聞いたりしているわけではない。心の目、心の耳、心の声などで感じ取っている。)
との説明に、納得したように光太はうなずいた。
(では、どうしてここに呼んだのか改めて説明させてほしい。まず初めに、魔法陣を出現させたのは私である。それは別の世界を救う勇者を探していたからだ。君たちの世界に存在する人間たちには使われていない力が無数に眠っている。)
光太は首をかしげながら聞いている。
(よく考えてほしい。例えば、勉強した分、知識が増える。鍛えると鍛えた分、体は強くなる。至極当然の話ではあるが、これは、対人間あるいは動物に限っての話である。人間に負けないように勉強して、体を鍛えて。君たちの世界で起こっている戦争だってそう。人間同士の大きなけんかに過ぎない。銃を使う、戦車を使うこれらは人間に向けてのものであろう。何とも愚かな行為だ…)
光太は複雑な感情になって話を聞いた。
(別の世界ではどうだろう。もちろん人間はいる。動物もいる。ただそれ以外にも魔物と呼ばれる物が存在する。君のいる世界とは違い銃や戦車などの武器が効かない存在である。その中で別の世界の人間たちは生活しているのだ。)
(じゃあ、自分の世界の人間が行っても意味がないのでは?)
と疑問に思い神様に尋ねるが、
(話を最後まで聞け!)
と怒られてしまった。再び神様が話し始める。
(確かに別の世界の人間は厳しい状況で過ごす中で、生き抜くすべとして魔法というものを手に入れた。それも今となっては呼吸するように魔法が使える。そうなると今度は魔物たちにも知恵が付き、新たにそれらに対応できる存在が生まれきた。するとやがて突出する力を持つ魔物が出現してくる。そして頂点に立ったのが魔王として君臨することになる。ただ同様に人間にも突出するものが現れ、勇者として魔王の討伐を試みるがあえなく惨敗。そこで君たちの世界に目を付けた。君たちの世界の人間と別の世界の人間はイコールではない。)
光太がうなずくと、
(それは当たり前でしょ。別の世界の人間は魔法を使えるのだから。どう考えても別世界の人間のほうが強いでしょ。)
というと、神様は首を横に振った。
(そうではない。そう簡単な話ではないのだ。大気や重力などすべてが異なってくる。また、君たちの世界で考えると君の住む地球とその惑星である月とを比べると月の重力は地球の重力の6分の1ほどである。逆に木星と比べると木星は地球の300倍もの重力がある。
大気においても地球は窒素が約78%、酸素が約20%、アルゴン約1%、二酸化炭素が約0.03%であり木星はほとんどが水素とヘリウムと全然違ってくる。なんとなく察しはついていると思うが、同様に別の世界も違ってくる。君の世界の人間が別の世界に転生するとなると、勇者に匹敵する力を持つことになる。それも魔法を覚えていない状態で。転生して魔法を覚えてもらい、勇者一行の仲間に加わり修行して魔王の討伐をお願いしたかった。)
この説明を聞いた光太は納得はしたが、手を顎に乗せ考え込むように
(なるほど。でもそれでは自分じゃなくてもよかったのでは?なぜ自分なのですか?)
と神様に聞いた。神様は言いにくそうに
(本当は誰でもよかった…。)
と言うと、それを聞いた光太は思わず
(おい!)
と突っ込まずにはいられなかった。
(いや、だって魔法陣を出せる場所とタイミングがあそこだけだったから…)
と甘えた声で話すが、光太は到底納得できなかった。続けて神様が
(魔法陣に入ってきた人間を転生させようとしたのだが、君が人とぶつかった際に右腕だけが魔法陣に入った状態で転生しまったようだ。無事に右腕は転生できた。)
と自慢げに話す神様であった。
(右腕を抑えて倒れたのはそれが原因だったってことですね。倒れこむ瞬間に聞こえてきた「あっ…」は神様の声だったんですね。)
と光太が言うと、神様はすかさず
(改めて申し訳なかった。腕は返したんだし許してくれ。)
と、謝罪した。
まだ納得のいかない光太は
(なんでこんなに腕が返ってくるまで時間がかかったんですか?早く返してくれればここまで大ごとになることは無かったと思います。というか、こっちの世界と別の世界を神様は簡単に行き来でいるのですか?)
と、疑問を投げかける。
(すまない。腕の返却に時間がかかったのは、転生には膨大な力が必要で再度転生するための力をためていた。)
と説明し、続けて
(そして、自由に行き来できるという話だが、本来はできない。ただ、今回転生したものが君の世界と別の世界を行き来したことで道がつながった。そのため今後はほぼ自由に転生ではないが転移できるようになった。これは非常に珍しいことだ。どういうことかというと、そもそも転生した人間は転生先が何であろうが元の世界に戻ることはできない。元の世界の人間が転生すると、魂自体が別の世界で別の器を持つことになり、元の器はと言うと魂の抜けた状態、すなわち死を意味する。死んだ者は元には戻らない。これはどの世界においても等しく自然の摂理である。そのため別の世界から元の世界に戻ることができない。今回においてはその転生したものが腕であったということだ。腕は別の世界で他人の腕へと転生した。がのちに腕は元の世界へ戻ることができた。これは魂が元の世界に存在したからこそ戻ることができたのだ。これによって君の世界と別の世界がつながり転移が可能となったんだ。)
その説明を聞いた光太は
(そうなんですね。右腕は帰ってきたし、もう自分に用はないのではないですか?)
と確認するが、神様から
(そういうわけにもいかなくなった。)
と、神妙な声で話し出した。
(君の右腕は確かに転生した。その転生先というのは勇者の右腕。)
その回答にびっくりする光太は
(腕だけ転生することができるということ自体驚きですが、人の体の一部に転生することもあるのですか?)
と尋ねた。神様は首を横に振ると、
(赤子として転生したり、別の人物、別のものに転生するのはあるが…体の一部が転生先の体の一部に転生することは聞いたことがない…)
と、神様も信じられないという話し方であった。
(今回は本当にタイミングの好ともいうべきなのか、勇者は魔王との戦いの最中だった。)
神様は腕の転生先での出来事について語った。
(激戦を繰り広げる中で魔王の一撃が勇者の右腕を吹き飛ばした。魔王は勇者にとどめを刺すべく向かっていったが、その時、青白い魔法陣が勇者のもとに出現した。その光によって魔王は後ろに吹き飛ばされ、失ったはずの勇者の腕が再生したのだった。この腕こそが君の右腕だ。そして隙ができた魔王に対し、勇者は最強の魔法で魔王を打ち消すことに成功した。その後、世界は平和を取り戻し、勇者は魔王を倒した勇者として伝説になった。のちに勇者に事情を話し、腕を返してもらい、先ほど君に返還した。という流れだ)
この話を聞き光太は
(別の世界は平和になり、余計に自分は関係なくなったのではないですか?)
と尋ねるが、神様はまたしても首を横に振った。
(ここからが問題なのだ。魔王が消されて数百年がたった別の世界では、新たな魔王が出現してしまった。この新たな魔王は昔の魔王をはるかに凌駕する力を持っている。数百年もたつと勇者はおろか、勇者のパーティーは一人も生きてはいなかった。そこで思いついたのが君の右腕だ。)
光太はポカンとしていた。神様は話を続ける。
(君に返した右腕は伝説の勇者の右腕だったもの。右腕が勇者に転生した時にその右腕には勇者の力が宿った。この力を使って新たな魔王を倒してほしい。)
と言われた光太は慌てて
(いやいやいや、ムリムリムリ!!よく考えてください。勇者と魔王は勇者が勝ったものの、勝負としてはほぼ互角。その魔王の力をはるかに凌駕する新たな魔王を相手に、いくら伝説の勇者の力があるとはいえ、足元にも及びませんよ!)
と断るが、神様は不敵に
(先ほども言ったであろう。君と勇者の力はほぼ同じ。)
(だから!)
と強めにいう光太に対し
(今、現在の君と勇者は同じだが、君は魔法を扱えない。君が魔法を扱えるようになれば勇者の力を上回る力を発揮できるだろう。勇者の腕を持つ君なら魔法もすぐに扱えるようになる。君の力と勇者の力を合わせれば間違いなく新たな魔王に勝てる!…と思う。)
力説する神様に対し光太はため息をついて、
(はっ…、絶対に嫌です。)
と答えた。
(えーーーっ!?断るの!?神からのお願いを断るの?普段お願いをされる立場の存在が逆にお願いしているんだけど?君の力と勇者の力を合わせれば絶対に勝てるから。何が嫌なのか?何が不満なのか?教えてほしい。)
神様は驚いて改めて説明、そして理由を尋ねた。
(だって、面倒くさい。自分なんかよりも地球に住むアスリートとか格闘家とかのほうが自分よりも能力は高いし断然強いと思うし、神様なら特別なスキルとか魔法とかをその人に付与して転生させれば十分強いでしょ。)
と光太が回答すると、
(確かにそうだったかもしれない。)
と、納得したうえで、
(今は昔と状況が違う。新たな魔王にはその程度の人間ではもう太刀打ちできないほど力をつけてしまった。なぜここまで力が付いたのかわからないが、たまたま右腕が勇者の右腕に転生して、今や勇者の右腕を持つ君でなくては倒すことはできないのだ。)
と言うと
(うん~…)
と、光太は考えてうえで
(確認ですが、帰ってはこれるんですよね?)
神様は
(もちろん。)
と回答。光太は続けて
(時間軸はどうなってますか?転移した同じ時間に戻ってこれますか?)
この問については
(同じ時間に戻ることは難しいかもしれないが、君の住む世界で1時間経過すると、別の世界では50年時が進む計算になる。逆に考えると、別の世界で1年過ごすことは、君の住む世界では72秒しか経過していないことになる。こう考えると同じ時間に返ることはできないがあまり時間をおかずに戻ることは可能である。)
との回答。さらに光太は
(何度も行き来することは可能ということでしょうか?)
と聞かれた神様は
(可能ではある。ただし気を付けてほしいのは時間軸が違うということである。先ほども言ったように、君の世界の72秒が別の世界の1年にあたるので、あまり君の世界に行くことを賛成はできない。)
と念を押した。
光太は一通り確認したいこと聞き終え、
(いいですよ。行きますよ。)
と、腑に落ちてはいないが別の世界へ行くことを了承した。
(おおー!ありがとう、ありがとう。私は生物の生死に関して手を出すことができな。今回の新たな魔王は強大すぎるが故、どうしても君たちのようなものに頼らざるを得なかった。これで改めて世界に平和が戻るであろう。)
という神様。
今ではなんとなく自分の姿、神様のシルエット、周りの風景が感じられてきた光太に対し神様が、
(では、別の世界に行くために、現在の君のステータスを確かめてみよう。右手を差し出して、手のひらを上に本を読むように手のひらを見てごらん。)
光太は言われるがまま、手を差し出し手のひら見つめると、現在のステータスが空間に表示された。
勇者の右腕 Lv.78
HP:7800 MP:3900
職業:勇者
称号:聖剣(剣に聖なる光をもたらし闇を打ち払う。光魔法をLv.MAXで利用可能。己のみならず、周りの力を最大限引き出す力を持つ)
魔法:火魔法 Lv.8(使用不可)
水魔法 Lv.7(使用不可)
土魔法 Lv.7(使用不可)
風魔法 Lv.8(使用不可)
光魔法 Lv.10(使用不可)
闇魔法 Lv.3(使用不可)
スキル:武器 Lv.8
戦闘 Lv.7
探索 Lv.7(一部使用不可)
魔力 Lv.8(使用不可)
生成 Lv7(一部使用不可)
耐性 Lv.6(一部使用不可)
強化 Lv.7(一部使用不可)
治癒 Lv.5(一部使用不可)
教養 Lv.3
このステータスを見た神様は
(さすが勇者だと。)
と感心していた。このステータスについて光太は神様に確認した。
(全然Lv.MAXではないですが本当に強いんですか?)
と聞かれた神様は
(もちろん強い。まず、称号を持つものが少ない。称号はそれを持つ者の力をより高めてくれる。称号を持つのは勇者パーティーにいた仲間たちと、他にはごくわずかしか持っていないのだ。また、別の世界に住む一般の人間たちのLv.は大体20前後。格闘家や魔法使いなど魔物と対峙する者たちでもLv.40ほどで、極めたものでもLv.50ほどが限界である。魔法やスキルにおいても一般の人間はLv.2~3ほどで、魔法を極めしものでもLv.5がせいぜいであろう。闇魔法以外のすべてがLv.5以上。これは素晴らしい能力だ。さて次は左手でステータスを見てみよう。)
と光太に左手を見るように促した。光太は不思議に思ったが、右手同様左手を差し出し手のひらを確認した。すると別のステータスが表示された。
光太 Lv.55
HP:5500 MP:0
職業:学生
称号:転移者(空間を自由に転移できる。別の世界への適応能力が高い。)
魔法:なし
スキル:武器 Lv.5
戦闘 Lv.5
探索 Lv.1
生成 Lv.1
耐性 Lv.1
強化 Lv.1
治癒 Lv.1
教養 Lv.4
学習 Lv.5
このステータスを見た光太は、勇者のステータスに愕然とした。
(神様が言っていたことと違ってませんか?勇者の力に遠く及ばないのですが…。確かに武器で戦ったこともなく、格闘技を習っていたわけではない自分がLv.5であることはすごいと思いますが、魔法も使えないしスキルだって…、こんなので魔王の前に出ても直ぐに倒されていたと思いますよ。)
と光太が神様に詰め寄ると、神様は
(確かに能力は低いのかもしれない、ただ見てほしい)
と“称号”に注目させた。
(称号を持つものは数少ない。その称号を君は持っている。転移者という称号は適応能力が高いらしい。別の世界にもすぐ対応できるであろう。)
(今、君は“聖剣”と“転移者”二つの称号を有していることになる。この右腕と君自身の力を合わせることで新たな魔王を倒すことができるであろう。)
光太はしぶしぶ納得したうえで、
(何かください。勇者の剣とか特別なスキルとか。)
とねだる光太に対し
(勇者の剣は魔王との戦いでボロボロになり今では使い物にならない。)
と言い、考えた末に
(…では…、これを。)
差し出されたのは布でできた袋。神様が説明する。
(これは異空間に収納できる収納袋だ。どんなものでも収納可能だ。小さなものから大きなものまで、生き物でされも収納可能である。また、袋から出したいと思ったものを思い浮かべるだけで、取り出しは可能だ。)
光太は、
(これは便利そうですね。)
と、顔が少し緩んだ。すると神様が
(あとはこの卵を預ける。この卵から何が生まれるのかは私にもわからない。君の能力によって変わってくる。生まれてくるのを楽しみに待つとよいだろう。きっと君の力になるはずだ。)
この贈り物に関しては眉をひそめた光太であった。
(最後に別の世界で必要な硬貨は入れておいた。後で確認しておいてくれ。)
神様からもらったものを確認して。
(ありがとうございます。)
と光太は感謝を述べた。
(で、どうやって行けばいいんですか?)
と光太が尋ねると、神様は
(初めは自分が送ろう。今後、魔法やスキルを身に付けた時は自分で行き来できるようになるだろう。)
と言うと
(改めて君の力を、光太の力で別の世界を救ってほしい。)
そう言われ恥ずかしくなる光太。次の瞬間意識がなくなった。




