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高野彩花と数多の駄作  作者: 東風祐久
2/2

高野律は夢を見たい

今回は主人公の弟くん目線です。


知識も何も無い人間が書いた小説です。それでも良い方はぜひお楽しみください。









誰かのようになりたいと思ったことはあるだろうか。


自分ではない、他の誰かになれたら、と。


あの人のようになれたら良かったと、思ったことはあるだろうか。

あの人が持っているものを、自分自身も持てたらと。


この僕、高野律の場合は自身の姉がその対象だった。



*




僕が小学4年生の頃の話だ。そのとき、歳がふたつ離れている僕の姉、高野彩花は小学6年生で小説家を目指していた。


その歳でもうなりたいものがハッキリしていた彩花は、勉強もそこそこに執筆作業に明け暮れており、両親は頭を抱えながらも嬉しそうに世話を焼いていた。




....僕を見ようとせずに。




両親は彩花の面倒しか見ようとしなかったのだ。



僕は、小学校に上がる頃に母方の叔父に預けられ、そこからは叔父と叔母に世話をしてもらっている。

小学校に上がるまでの6年間で、両親が僕を褒めてくれたことは一度もない。僕に笑顔を向けてくれたことも無い。



両親の笑顔を見たのは、彩花がなにかをした時だけだ。


やれ発表会が上手くいっただとか、

かけっこで一番をとっただとか、


...そんなように、彩花はやる事なす事全て褒め倒されていた。




両親の寵愛を注がれ続けた姉、彩花は小6ながら誰にでも好かれるような人物に育っていた。

さながら人格者のようだった。当時小4の僕は、彩花を見る度に反吐が出るような思いをしていた。




クラスメイトや友人であろう人物に向けるあの人懐っこい笑みも。


学校ですれ違う度に、


「調子はどう?」

「困ってることとかない?」

「何かあったらお姉ちゃんに言ってね」


とわざわざ話しかけてくる、その声すらも大嫌いだった。




兄弟間でよくあることだ。

姉のお節介が鬱陶しく感じていたのだろう。

今思えばバカバカしく感じるが。




...そのバカバカしく感じたきっかけは、随分大きなものだった。





*




僕が晴れて中学校に入学した春頃。



僕は小学校とは違う授業形態や部活動、委員会活動で少し疲弊していた。


慣れてきた通学路でいつものように歩いて叔父の家へ向かっていると、パタパタと誰かが走ってくるような音がした。


そんなに急いで帰りたい生徒がいるのか、はたまたランニングでもしている人がいるのかと思い軽く後ろを振り返ってみたら、




ー 彩花がいた。


走ってきていた。僕に向かって。


姿を見た途端、なぜ?どうして?という疑問が頭を埋めつくし、やがてひとつの言葉を導き出した。




嫌だ。




そう思ってしまえば、僕の身体はすぐに動いてくれた。

肩にかけた鞄を軽く持ち直し、ダッと走り出す。


後ろを見ず、

彩花の声であろう

「律!!」

と呼び止める声も聞こえないフリをして、


僕はただひたすらに走り続けた。



嫌だ。会いたくない。声も聞きたくないし、顔も見たくない。



散り損ねた桜の色が、こんなにも夕焼けと綺麗に合わさっているというのに、僕の心からはどす黒い感情がふつふつと湧き出てくる。


その感情も知らないフリをして走った。



あの人の声が聞こえなくなるまで。





ようやく撒いたか、と辺りを見渡し念の為遠回りをして帰ろう。


そう思った時だった。






車のクラクションが聞こえる。


普段聞き慣れない音に驚き、音がする方へと身体を向ける。



そこには、


僕目掛けて歩道へ乗り上げてくる車があった。



え、と声を上げる間もなく、僕の手は後ろに強く引っ張られる。



引っ張られた拍子に、誰かが前へ出る。




僕は思わずその人物の横顔を見た。

見てしまった。







直後に響く激しい衝突音。


人々の悲鳴、物が崩れる音。






僕の目に飛び込んできたのは、



赤、


赤、


あか。



僕の前に、誰かが血を流して倒れている。




あぁ、僕を引っ張ったのは、


僕を庇うようにして前に出たのは、



紛れもない。











彩花だった。







前に出る時見たその片手には、僕のバスケットシューズが入っている袋が握られていたのを、それはもう鮮明に覚えている。





そんな。


僕は貴方を邪険にしてしまっていたのに。


そんな人間に、どうしてそこまで優しくなれるのだ。











救急車のサイレンが遠くから聞こえてくる。

通行人の誰かが呼んだのだろう。


僕の足元に転がってきたバッシュの袋が目に入る。



あいにく、僕の記憶はそこで途切れていた。













そして、僕の姉は、昏睡状態になった。






*





いつも通り学校へ行き、いつも通り帰宅する。



あの事故から、僕が行うことは義務的になってしまっていた。

叔父さんと叔母さんからは、休んだっていいと言われたが、それでも学校は行くことにしている。ならせめて部活は休みなさいと言われたため、部活動だけは事情を話し休み続けている。



何かやっていないと、あの時の光景が頭に浮かんでしまうから、出来ることなら部活も休みたくなかったが、叔父さんに




「こういう時だからこそ、君には時間が必要なはずだ」




と真剣に言われため、了承せざるを得なかった。




軽食を摂り、部屋へ続く階段を上る。

扉を開け、鞄を乱雑にベッドの上へ放り投げた。


制服のブレザーを脱ぎ、勉強机に向かう椅子の背もたれにかける。

その椅子に座り、天井を見つめ、僕は深くため息をついた。




静かな部屋で、壁掛け時計がカチカチと時を刻んでいる。


その音だけに集中し、目を閉じようとした時だった。




ピコン♪と、メッセージアプリの通知音が響く。

誰だろうと思い、充電していたスマートフォンを手に取った。


パスワードを入力し、アプリを開く。



メッセージの送り主は、『坂本裕二』と表示されていた。

彩花の小説を見ていた遠い親戚で小説家の、坂本おじさんである。



「親御さんから話は聞いたよ。いま電話出来るかい?」



と、僕宛てに送られていた。

僕は慣れた手つきでメッセージを返す。



「ちょうど今帰ったところなので、大丈夫ですよ」




そう入力し送信すると、すぐに電話がかかってきた。

通話ボタンを押し、スマホを耳に当てると、坂本おじさんのあの優しい声が聞こえてきた。




『もしもし、律くん?急にごめんね』



「いえ、大丈夫です。お久しぶりですおじさん」



『うん、久しぶり。彩花ちゃんのことを聞いてね...色々あっただろう、大丈夫かい?』



「...はい。僕はなんとか。学校にも行けてます」



『そうか...無理してないかい?きつかったら休んだって良いんだよ?君の叔父さんも言ってると思うけどね』



「ありがとう、ございます」




....坂本おじさんと話すと、言葉に詰まってしまう。

優しくて良い人なのは間違いないのだが、どんなことも見透かされてしまいそうで、息がほんの少しだけ詰まってしまう。



もしかしたら、おじさんは姉が僕を庇って事故にあったのだと、見抜いているのではと思ってしまう。


...いや、まさか。


僕は、誰にもあのバッシュのことを話していない。

突然引っ張られて、気がついたらああなっていた、と。


方々にはそう説明している。


だから、


『...律くん?』



「...っあ、ごめんなさい。少し、ぼーっとしてました」




『ふむ...そうか』


『本当に、それだけかい?』




...本当に、この人には一生敵わない気がする。

そう思い、僕は深く深呼吸をして口を開く。





「...ひどい、話ですよ。聞いてくれますか?」



『相手が僕でいいなら、なんでも話しなさい』




僕はおじさんのその言葉を聞いて、少しづつ事故が起きる前のことを話し始めた。



・彩花は僕の忘れ物を届けようとしてくれていたこと

・僕はどうしても顔を合わせたくなくて逃げていたこと

・彩花が、身を呈して僕を庇ってくれたこと



叔父さんたちにも、両親にも、友達にも言えなかった事実。

ようやっと誰かに吐き出せたことで気が楽になったのか、目に涙が溜まり始めた。


視界が滲んでいく。

それでもおじさんの声は聞こえてくる。



『....そうか。つらかったね、律くん。』



「...彩花は、僕のせいでっ......」



『.....』



あぁ、ダメだ。


そう思った頃にはもう遅く、大粒の涙が僕の目からこぼれ落ち、まだ1年も着ていない制服のズボンを濡らしていた。



涙が止まらない。



知らないうちに、随分と泣くのを我慢していたらしい。

僕は、おじさんに泣きながら、



あの時こうしていれば、


あの時こう返していれば、



と、もう行く場のないタラレバを喋り続けていた。









これが夢なら、どれほど良かっただろうか?


目を覚ませば、学校へ行くと姉が居て、またおはようと言ってくれるのなら、どれほど良かっただろうか?




今ではそれが幸せなことだと分かる。








あぁ、もしこの現実が夢であったなら。


もしこの世に夢を食う獣がいるのなら。


早くこの夢を食って欲しい。









ここまで読んで下さりありがとうございます。

まだまだ続きます。

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