クリームソーダが飲みたいの
「何、笑ってんの」
不機嫌そうな声と眉間に皺を寄せた表情を見る限り、目の前にいる彼はご立腹だ。
それが本気で怒っている訳じゃない事は分かっているから、にこにこと懲りずに笑ってしまう。
ため息と同時に彼がストローに口をつけた。
綺麗なグリーンの液体と溶け、グラデーションを奏でるアイスクリーム。可愛らしく座るチェリーがアクセントとなっている。
「御影くん、クリームソーダ好きなんだね」
からかいを抑えて言ったつもりだが、ギロリと睨まれてしまった。誤魔化すようにコーヒーを飲むと、想像よりも苦味が強くてむせてしまった。
顔をしかめていると、御影くんが鼻で笑った。
「僕を子供扱いするわりには全然飲めないじゃん。理解あるお姉さんぶるからバチが当たったんだよ。大体貴方はミルクをたっぷり、砂糖を三つ入れたカフェオレじゃないと、」
「わぁ! 御影くん、よく知ってるね。私の好み」
わざとらしく指摘すれば、悔しそうに唇を噛んで黙ってしまった。
さっきまでの饒舌さはどこに行ってしまったのか。ただ目の前のクリームソーダを消費している。
二人でたまに来る喫茶店で御影くんは、いつもメニューの端にあるクリームソーダを見ては飲みたそうにしている。
私も好きだし、御影くんも遠慮せずに頼めばいいのに「子供が飲むものだから」なんて何度ひねくれた返答をもらったことか。
背伸びして頼んだブラックコーヒーを、何ともない顔──実際は嫌々いつも飲んでいるのを私は知っている。
(流石に可哀想だな)
御影くんがトイレに行っている間に、店員さんが持ってきたコーヒーとクリームソーダを入れ替えて置いた。
(びっくりするだろうな)
案の定、戻ってきた御影くんは自分の席の方にクリームソーダがあるのをびっくりしていたけど、素知らぬ顔をしていたらなに食わぬ顔でクリームソーダに手をつけた。
その時のきらきらした瞳をみたら!
「美味しい?」
「……普通」
まったく、素直じゃないな御影くんは。