説明を受ける際には真剣に
「そのままですと、その憑いている存在に殺されて・・・しまいかねません」
荒見さんは今なんて言った?、付いている・・・いや、憑いていると今言ったのか?そもそも憑いているとはなんだ?急すぎて何が何だかわからない
「ちょっと待ってくれ。憑いている?何を言ってるんだ・・・?」
「・・・正直突然のこと過ぎてわからないと思います。ですが私の話を今は聞いてください、聞いてくれるだけでいいんです。どうか・・・」
しかし彼女の表情とその目は真剣そのもので、嘘を言っているようには一切思えなかった。まっすぐと俺の目を見て話そうとしている。突拍子もない話をされながら自分でもどうかとは思うが・・・そんな彼女を見て、話をしっかりと聞かなければならないと感じた
「・・・わかった。それで、俺はその・・・憑いている存在に殺されるって?」
「・・・いえ、あくまでもそうなるかも知れないという可能性の話です。正直現在のあなたの置かれている状況はいまいちわからないのです」
「なんで、わからないんだ」
「何者かに憑かれていることは見て分かりました・・・でもそれは巧妙に隠されていました。正直気づけたのも運がよかったくらいです。でも隠されているのは存在だけではありません、意図すら隠されています」
・・・なに?
「意図が隠されている?」
「はい・・・何のためにあなたに憑いているのか、あなたになぜ憑いたのか・・・どういう感情を元にあなたを選んだのか。それが全く分からないのです・・・普通であればそんなことはありません。」
そんなことはない?なぜそんな断言をするのだろう?
「それは、どうして?」
「憑くということは関係を結ぶことと同じです。その人と話したい、付き合いたい、ともに居たいという理由がなければ誰かと関係を結ぶことは私たちはありません、それは彼らにとっても同じです。関係が無い、興味がない相手に対して憑くという行為はする必要がありません。貴方に憑いている存在は貴方に特別な理由をもって憑いています」
確かに、ただ瞬間的に害を与えようとしたりするのであればわざわざそいつにずっと付きまとうようなことはしないだろう。
「だからこそ、意図が見えなければおかしいのです。執着ともいえる感情を込めて憑いているのですから、そもそも隠せるようなものでもありません。・・・今まで見てきた、憑かれていた人達はそうでした」
「だけど、俺の状況は違うと」
「そうです、先ほども言った通り見えないように隠されています。相手が何をしようとしているのか全く分からないのです・・・だから、殺されかねない可能性があると言いました」
「・・・」
「別に憑かれている人は皆危険な目に遭うわけではありません。運よく何も起こらなかったりもします。でも、憑いている存在が危険だった場合は、殺されてしまうか・・・殺されるよりも悲惨な目に遭うこともあります」
悲惨な目に遭う、その言葉を言う彼女の表情はとても暗い、思い出したくもないものを思い出したような色に変わっていた。・・・もしかしたら実際に荒見さんは今思い出しているのだろうか
「・・・だから」
しかしその暗い表情が、一瞬で切り替わった。強い決意を持つ強い瞳が俺を見つめる
「そんな目には絶対に遭わせません」
確かな覚悟を持った強い言葉だった。とても強い、荒見さんの在り方を見た
「お願いです、今は信じられないと思いますが・・・今日の午後4時にこの神社に来てもらえないでしょうか」
荒見さんは制服のポケットからメモ帳を取り出すと、その中の紙を一枚取って渡してきた。何やら文字と簡易的な地図が書いてある
「水光神社・・・?どうしてここへ?」
たしか水に関しての神様が祀られているというかなり大きい神社だ、よく年越しには俺も行ってお参りを行うのでお世話になっている
「ちゃんとした説明を果たす為です。流石にこの場で詳しく話すわけにはいかないので」
「・・・わかった。俺も説明を聞きたいから行くよ」
荒見さんの話を聞き、思いを聞いて、嘘ではなく本当に心配して言ってくれているのだと思えた。もしこれで怪しい勧誘を受けるようなことになったとしても逆に感心してしまうくらいだろう。信じてみるか、彼女を
「・・・たぶん、俺が話さないといけないことがあると思う」
それに、思い当たる節はあるからな
「話さないといけないこと?それは・・・」
「俺もこれは今話せることではないんだ。少し時間がいる、神社で会ったら話すよ」
流石にこのことは俺一人では判断できない・・・事情を話さないといけない奴がいるからな
「・・・かしこまりました。渡瀬さん、お待ちしていますので。失礼します」
荒見さんは綺麗に深く一礼し、教室の扉を開けてそのまま立ち去った。
教室には自分一人だけが残る。先ほどの異様な雰囲気がまだ部屋に残っているようだ、自然と緊張していた体を深く呼吸して解す。先ほど受けた説明を思い返してみるが衝撃が強すぎて考えがまとまらない
「・・・相談しなくちゃな」
ひとまず考えるよりは動く、まずは俺の家に帰ろう
「・・・あ」
そういえば賢哉のことすっかり置いて行ったじゃねえか!?
「ただいま」
家へ帰ってきた。あの後置いていった賢哉のことを思い出して連絡しようとしたのだがその前にあちらから、『そのままほっといておいた方が明日は面白そうだから別の奴誘って飯食ってくるわ(-ω-)/』との優しさなのか愉悦のためなのか分からない連絡が来ており、返信を返すのが億劫になりながら『すまんな』とだけ返した。明日学校行きたくねぇ
そんなことを思っているとリビングから足音がして、母さんが顔を出してきた。
「おかえりなさい望、久しぶりの学校はどうだった?」
「授業は、普通だったよ」
授業は、だ。それ以外が色々ありすぎてもうパンクしそうだ。新学年初日だぞ、なぜこんなにも疲れないといけないのか・・・そういえば廻の声が聞こえない、いつもなら同じように声をかけてくれるはずなのだが
「母さん、廻は?」
「廻ちゃんだったらあんたと入れ違いでどこかに出かけていったわよ」
「え?!マジで?!」
まずい、廻に相談しないといけないのに当の本人がいないんじゃ出来やしない!
「どこに行くって言ってた!?」
「別に言ってないわね、ただ『出かけてくるね』としか言われてないし」
「・・・マジかあ」
行き先がわからないんじゃどうしようもねえ、廻は携帯を持ってないからなあ・・・いつも大体一緒にいるから油断してた、廻には連絡手段を持ってもらったほうがいいなと思ったがこの状況だと今更な考えだ
「そういえばご飯は食べたの?」
「いや、・・・まだだけど」
「じゃあ今用意するからリビングで待ってなさい」
・・・とりあえず腹が減っている状態で深く考えるのもできやしないだろう。いったんお昼ご飯を食べよう。
玄関で靴を脱ぎリビングのソファーに座る。座った瞬間疲れがドッと出てきた、目を瞑り一息入れて疲れを抜くように息を吐く。そうしてゆっくりと目を開けると
「・・・ん?なんだこれ?」
ソファーの目の前にあるテレビと机、そのうちの机の上にメモ紙が小さな蛇の置物の下に挟まっていた。何やら書かれているようだ、置物を横に避けてメモを手に取り中身を見る。
『望へ、
4時の待ち合わせには別に行って構わない。話す内容も望が判断して良いけど
私たちが出会った時の詳細と私が与えたものに関しての話はしないほうがいい。
後で望たちが話す際に合流するので詳しいこと聞かれていたらそれまで誤魔化してね。
廻より
追伸:黒髪の女の子が好みなの?』
いや、別に黒髪が好きとかそういう話ではないのだが。というか何であいつ話の内容知っているんだ?、まさかこっそりついてきたのか?
だが廻に伝えずにそのまま4時に荒見さんと会って話してしまうことになる状況は避けられたな、別の問題として廻が意味あってなのか何処かに出かけてしまったのはあるが・・・後で合流するというのであればとりあえずであるが大丈夫だろう
「にしてもどこに行ったんだ廻は、危ないことしてないだろうな・・・」
廻に出会ってから廻の様々なことを知り、理解し、そして想いを聞いた。今は廻は明るくなり、俺に小さい悪戯を仕掛けてくるようになってきた。家に馴染んできてるのだろう。嬉しいことだ。出会ったあの日、今の彼女のようになるなんて想像できなかったはずだ。
あの日を思い返す。長い春休みに入ってすぐのまだ肌寒い日、不思議と迷い込んだあのリンゴの木がある場所で、廻はいた。
透き通るような薄紫色の髪をたなびかせて、無表情ながら儚く、とても美しい顔を神々しいリンゴの木に向けていた廻の姿に思わず見とれてしまい惚けてしまった。あまりにも本当に綺麗だったんだ
だけど、俺に気づいた廻がリンゴの木から目をこちらに向けてきた時、その目は輝くように美しくはあったがあまりにも寂しそうで、悲しい表情を浮かべているのがわかってしまった。
その目を見てしまった俺は自分でもわからないけど居ても立ってもいられなかった。そんな目をしないでほしいと強く思ったんだ。だから俺は廻に近づいて話したんだ。
最初は近づいたにしてもどう話せばいいか分からなかった。でも必死になって悲しそうな眼を変えようと躍起になって話しているうちに口を閉ざしていた廻が話し始めてくれて、俺たちの関係ができていった。廻のことを知って、俺のことを知ってもらった。そして廻の目からどんどん寂しさと悲しさが抜けていったときにはとても嬉しくて、一段と見惚れてしまった。このままずっと居たいとさえ思った。
いつの間にか寂しさと悲しさが目から消えかけ、俺に対して別の表情を見せてくれることも多くなった。俺は廻をその寂しさと悲しさを無くすことができたと思った。「よかった、これで笑う姿が見られる」と思っていたのだ。
それからあのリンゴの木の下で出会うのが最後となった日、廻は言った。
「望、あなたが嫌いなの。だから死んで消えて」
何が何だか分からなかった。どうして、何で?
廻は手をこちらに向け殺意と嫌悪を浮かべた目で俺を見てきた。
そんな状況で俺は、俺は・・・
「・・・・おーい、おーい、お昼ご飯だよ」
「・・・今行くよ」
思い出すのをいったんやめてテーブルに着く、とりあえずは目下の荒見さんとの話し合いのことを考えるべきだ。そのために腹ごしらえと行こう。
「お待たせ、・・・待たせてしまったかな、荒見さん」
「いえ、むしろ来ていただいてありがとうございます。・・・渡瀬さん」
時間は4時少し前、日が落ちてきてオレンジ色染まりつつある神社にて俺と荒見さんは再度顔を合わせた。夕暮れ時の神社の風景は幻想的で不思議な雰囲気を持っている。俺らも同じだ、不思議で緊張感が張られている空気が出来つつあるのを感じてしまう。
ふと、荒見さんから目線を外し、横にいる人物も見る
「・・・あなたは?」
「私は須藤 遠谷と申します。荒見さんとは一種の仕事仲間でして、今回荒見さんから連絡を受けて私も今回の場にいたほうが良いと判断させていただき、この場に居させていただきます」
横にいたのは黒いスーツを着たメガネをかけている男性だった。年齢は二十代後半から三十歳前半当たりだろう、礼をしてきたので俺も礼を返す
「勝手ながら私だけでは力不足になるかと思いましたので渡瀬さんのことを説明して須藤さんを呼びました。何も伝えずに勝手なことをしてしまい申し訳ありません」
「いや、大丈夫・・・それじゃあ、本題を話そうか」
「・・・はい」
これから、俺は知る。俺が知りえなかった世界のことを