新学年と転校生と告白
「よし、ちょうどよく着いたな。流石に時間間隔は春休みの間で失ってなくてよかった」
家を出てから歩いて15分、俺の高校である|光陽≪こうよう≫高校の校門前へと辿り着いた。時刻は8時15分、ホームルームが8時30分に始まるのでちょうど良い時間だろう
「んじゃ、久しぶりに入りますか」
校門を超え、目の前の校舎を見れば綺麗な外見をしている。この学校は15年前に作られたかなり新しい進学校だ。進学校らしく教育にかなり力を入れているらしく、各地の優秀な先生を集め、さらに施設にもかなり金を落としたらしい
正面玄関から入り上履きに履き替え、今年の教室へと歩を進める。
「たしか・・・お、この教室か」
春休みの最中に送られてきたクラス分けの書類の記憶を思い出し、教室へと辿り着いた。自分がどのクラスになったかは送られては来たが、他の面子のクラス分けは連絡をよく取り合う友人以外わかっていない。少し入るのに緊張する
「すぅ・・・おっし」
一呼吸合間を開け、いざ教室へ。中に入ると外観と同じく綺麗な教室が目に移る。それからさらに周りを見渡すとドアを開けた音に反応してか、すでに中にいた十数名の視線が集中しているのを感じた、見れば顔だけは知っている奴、全く知らないやつもいるが・・・
「よお!望!」
どうやら知ってる奴もすでに来ていたらしい
「おう、賢哉。春休みは楽しかったか?」
「ほぼほぼ部活、あとは昼寝ってところだ。一瞬で春休みが消えちまったよ・・・もったいねえ」
「休みなんてそんなもんだ、これからは逆に長く感じるだろうぜ」
「うへえ、勘弁だ・・・まあお前と同じクラスで良かった!よろしく頼むぜ!」
「こちらこそよろしく」
こいつは早川 賢哉、俺が連絡をよく取り合う友人の一人。黒髪を掻き揚げた髪型にした陽気な奴だ。部活動として陸上部に所属しており、大会にも出場して賞を取るような実力を持っているらしい。
「大体他のクラスに行っちまったよ、あとで遊びに行こうぜ」
「せっかくだしな、休み時間にでも行くか」
「そういえば他の奴らにも話したいんだが春休み期間面白いことがあってよ、2メートル40センチくらいのめちゃでかいワンピース姿の女性が陸上競技場で爆走してた話なんだけど」
「なんだその気になる話???」
久しぶりに友人に会ったからか話のネタがどんどん出てくる。というか話を聞くとこいつなんか変な場面ばっか遭遇しているらしい。お前部活と昼寝で時間消えたんじゃないんか???めちゃくちゃ濃い春休み送ってんじゃねえか
そんな話を聞いているとあっという間にホームルームの時間になり女性の先生が教室に入ってきた。話の途中だったが切り上げて席に座る。・・・ん?
「あれ、隣の席開いてるな・・・遅刻か?」
俺の席は前から4列目、窓から2列目の席にいたが隣の窓側の席が一つ空いていた。もうホームルームが始まるのにまだ席に生徒は座っていない。このタイミングで来たら先生に注意されてしまうのではないだろうか。そう考えていると先生が口を開く
「・・・全員そろっているみたいですね」
「?」
全員そろってる?なんだ、隣の生徒は休みなのだろうか?
「ではホームルームを・・・という形が本来の物でしたが、その前にやらないといけないことがあります。・・・荒見さん、入ってください」
先生がそう言うと教室の扉が開き、そして長く綺麗な黒髪の少女が姿を現した。その少女は教卓の隣まで歩いていき、そして自分たちの席へと顔を向けた。
「・・・おぉ!」
誰かが感嘆の声を上げた。それもそのはず、少女は少女でも"美"が付く少女だったからだ。すらりとした足に細い腰、長くそれでいて繊細な細さを持つ指。胸は控えめであるが、だからこそスラリとしたモデルのような美しさを持っている。そして何より魅力的なのはその顔であった。優しくもどことなくキリっとした印象を抱かせる茶色の目と綺麗な形の鼻が彼女の美しさを作り出していた。そんな美少女がこの場にいるのだから声が上がるのもわかってしまう
「じゃあ荒見さん、自分で自己紹介して」
「はい、・・・私はこの度、家庭の事情でこの学校へ転入してきました、荒見 命と申します。まだ引っ越してきたばかりで慣れない処があるかと思いますが、皆様何卒よろしくお願いいたします。」
「・・・というわけで彼女は今年から新しく君たちと同じ学校の仲間として転入してきました、みなさん仲良くしてくださいね」
荒見さんの自己紹介を聞いて、教室から拍手が上がる。2年生からの転入か、他の学校ではもしかしたら結構あることかもしれないが自分の周りで転入生が来ることは初めてだ。珍し気に見てしまう・・・
「・・・っ?!」
「・・・え?」
気のせいだろうか、荒見さんが俺を見て一瞬目を見開き驚いていたような
「じゃあ席は・・・窓側の空いている席、渡瀬 望君の隣の席が荒見さんの席になりますので、其方に座ってください」
「・・・はい」
荒見さんが俺の隣の空いている席に向かって歩いてきた・・・その間にもなぜか見られているように感じる。
「初めまして荒見さん、俺は渡瀬っていうんだ。これからよろしくね」
荒見さんが席座った後、せっかくだからと挨拶をするが
「・・・初めまして、よろしくお願いいたします」
かなり反応が悪い。これは・・・警戒されてる?なぜだ、荒見とは初めて会ったはずだし、パッと見て服装を確かめるが別にめちゃくちゃ変な制服の着方になっているわけではない。だからこそ、なんで警戒されてるかがわからない・・・
「あいつ・・・何したんだよ・・・」
少し離れた席で賢哉がそんなことを言っているのが聞こえた。俺にもわからないのだが?
そんな場面があったがホームルームは通常通り先生は進めていった。連絡事項の中身は普通の内容で、今日は4限だけの授業であること、それ以降の日から通常の授業になること、これからのスケジュールなどを伝えられホームルームは終わった。
その後は休憩時間を挟みながらの授業が始まった、最初の授業だからか先生の自己紹介と簡単な内容の授業を受ける形になり、余裕をもって授業を受けることができた。授業終わりの休憩時間には賢哉と一緒にクラスが別々になってしまった友人に会いに行き、適当な話をした。やはり久しぶりに会って話すと会話が弾む。・・・それはよかったのだが
「・・・ちら・・・ちら」
「(めっちゃ見てくる・・・)」
授業を受けていても、休憩時間でも荒見さんが少しの間見てきて、その視線にこちらが気付いて荒見さんの方向に顔を向けると慌てて顔を背けてしまうという状態がずっと続いている・・・そんな状態だから周りの皆にも怪訝な視線が突き刺さってくる始末だ。正直その周りの視線が痛い・・・。さすがにこのままだと精神が持たないので休み時間になぜこちらを見てくるのか聞こうとしたのだが・・・
「荒見さん、ちょっといいか・・・」
「ねえ荒見さん!もともと何処に住んでいたの?」
「・・・え、えっと」
「家庭の事情って言ってたけどどうしてここに来たの?・・・あ、ごめん!言いづらかったら全然言わなくていいよ!」
「いえ、別に言いづらくはないのですが・・・」
美人な転校生ということで興味津々なクラスの女子が荒見さんを囲んでしまい話しかけるのが出来なかった・・・流石にあの女子たちの話に割って入るのは無理だなあ、明日にならないと駄目そうだ・・・
そうこうして結局荒見さんに話を聞けずに授業を受けていると4限も終わってしまい、帰りの時間になってしまった。帰る準備をしていると賢哉が手招きしてこっちに来いと伝えてくる。それに従い賢哉に近づくと小声で話しかけてきた。
「お前なんか荒見さんになんかしたのか・・・?めちゃくちゃお前のこと見てたぞ・・・」
「何かしたっていっても完全に初対面だぞ、何もしようがないだろ」
「いや!あれは絶対お前のことを知ってる素振りだったって!自己紹介の時にもお前を見て驚いていただろうが!」
「だから知らねえって!マジで心当たりがないんだ!」
「・・・じゃあ何であんな反応を?」
「さあ?・・・なんでだろうな・・・」
小声で荒見さんには聞かれないように話す俺と賢哉、荒見さんを見るとまだ女子たちに囲まれ話の中心になっている。話をしている最中で女子たちが俺のこと見ながら話しているので同じようになぜ俺に荒見さんが反応するのか気になって質問しているみたいだ。・・・どうやら荒見さんも回答に困ってる様子ではあるけども。
「あの様子じゃ俺も荒見さんに今日は聞くことができない、また明日話しかけてみて聞いてみるわ」
「・・・それもそうか、じゃあ俺らは帰るか。久しぶりに飯でも食いに行くか?」
「お、いいね。そうするか」
俺らはそう言って荷物を持ち教室を出ようとする。
「!、待ってください!」
突如教室で声が響き渡った。中で話していた生徒の声が止む。廊下に出ようとした足を止め振り向く、とそこには驚いている女子たちとこちらを、俺を真っすぐ見つめている荒見さんの姿があった。時間が止まったような教室の中で荒見さんは俺の下へと歩いてくる。そして、俺の目の前で止まった。
「・・・な、なんでしょう?」
「・・・」
近い、顔が近い。彼女の身長は俺よりも少し小さいため、見上げる姿勢で俺の顔をじっと見てきている。・・・いや、また別の何かを彼女は見ているような・・・
「渡瀬さん・・・すいません!」
「・・・ぅえ!?」
突然謝られたと思ったら荒見さんが俺の手をつかんできた。待て、何事???
「突然で申し訳ありませんが話したいことがあるので来てください!」
「ちょ!?ま、待っ」
そのまま荒見さんは俺の手を引きながら廊下に出てどこかに連れ去ろうとする。一瞬の出来事だったので反応もできない。遠くなりつつある教室からは女子の甲高い悲鳴と男どもの驚愕の声が聞こえる。・・・これ明日間違いなく詰め寄られる奴だ!?
どんどん手を引かれ廊下を荒見さんと一緒に走る。彼女は走っている間に場所を探して顔を右へ左へ動かしていたが、ちょうどいい場所が見つかったようだ。誰も使っていない角にあって目立たない空き教室、鍵も開いていて中に荒見さんと俺が入った。
「ぜえ、はあ・・・あの、荒見さん?」
「はあ・・・はあ・・・ちょっと息が・・・申し訳、ありません」
二人しかいない教室の中、しばらく息遣いの音だけが聞こえる。・・・なんだこの状況、突然入ってきた美少女転入生に連れられて教室に二人きり?ドラマのシーンか?・・・にしても何で二人きりになろうとしたんだ
「・・・ふう、お待たせしました。まずは突然こんな強引なことをしてしまって申し訳ありません・・・」
「あぁ・・・まあいいけど」
「・・・どうしても、二人きりで、渡瀬さんに伝えたいことがあったのです」
「・・・え?」
な、なんだこの展開・・・
「今日はとても気になってしまったと思います、私があなたのことを気にしすぎて、何回か見てしまっていたから」
「い、いや全然かまわないよ・・・」
本当に、もしかして本当にドラマのような
「渡瀬さんを一目を見た時から伝えたかったのですが・・・タイミングが合わず、こんな状況に・・・」
「・・・」
「でも、この場だったらやっと伝えられます」
それも、恋愛的な状況が!今ここで!
「渡瀬さん」
「は、はい!」
荒見さんが一呼吸を置く。二人の声以外聞こえない教室で荒見さんが口を開き、その言葉が・・・
「あなたは今・・・人知の及ばない存在に憑かれています」
「・・・ん?」
あれ?なんか雲行きが怪しく・・・
「現状のあなたには特段、身体的・精神的な影響は出ていないと見受けられますが」
「・・・んん???」
「そのままですと、その憑いている存在に殺されて・・・しまいかねません」
「・・・ええええ?!?!?!」
新学年最初の日、俺は美少女転校生からの告白を受けるというドラマのような展開を味わった。
・・・ただし恋愛的なものではなく、ホラー&サスペンス的な告白を