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何でもかんでも拾ってはいけないと思います

ジリリリ! ジリリリ!


「・・・ふぁあ、朝かぁ」


心地よい眠りから強制的に目覚めさせてくるやかましい音、自身で設定した目覚まし時計を止めるため目ぼけた頭を起こしてベットから抜け出す


「こんな時間に久しぶりに起きたな、まだねみぃ・・・」


目覚まし時計を見れば午前七時、昨日まで春休みでのんびりと過ごしていた自分にはかなり早い起床だ


「・・・早く用意するか」


残っている眠気を絞り出すように軽く伸びをして、二階の自分の部屋から出て階段を下りる


「お、いい匂い」


リビングへ行くため階段を降りる際中、肉が焼ける音と優しいみそ汁の匂いを感じた。キッチンでは母親が朝ごはんを作ってくれているのだろう。お腹が減った、いますぐにでも食べたくなる

階段を下りて数歩歩けばリビングの扉が目の前に、そしてご飯も扉を開ければ目の前だ。扉に手をかけて、開けた


「母さんおはよ・・・う?」


開けたらそこはいつも見慣れた光景のリビングとキッチン、そして母親がいた。しかしその中に強烈な違和感を感じさせる物が一つ・・・いや、者が一人


「やあ、おはよう。(のぞみ)


「・・・なんで此処に居るんだ、めぐる


我が物顔でソファーを占領する、不思議な春休みで出会った少女がそこにはいた








歯磨きをして、湯気が立つ朝ごはんが置かれたテーブルに着くと片側の席は既に埋まっていた


「ご飯の用意はできてるわよ、早く座って食べなさい」


いつもの俺の定位置の席の斜め向かいには母親が座っている。俺と同じ黒髪を長く垂らし、少しつり目になっている眼を俺に向けている。俺の目の形は確実に母親の遺伝だろうな


「そうだよ、望も早く座りなよ。一緒に食べたほうが美味しいでしょ?」


「・・・へい」


・・・そして正面の席には淡い紫色の綺麗なセミロングの髪を前に三つ編みにして二束垂らした廻がいた。服装は白に緑のラインを入れているパーカーと黒いインナーを着ている。目の色は髪色と同じは淡い紫色の美しく煌めく目をしていて、その目を俺に向けて優しく急かしてくる。俺と母親とは全く似てもいない顔と髪色、だったら先ほども疑問を口にしたが


「廻、お前何で毎回朝から家にいるんだよ、朝飯くらいお前の住処で食わんのか?」


廻は別に家族ではない、春休みで出会って以降こうしてちょくちょく俺の家に来て遊びに来るただの友人だ。友人にしてもづけづけと家に入り込んできて挙句の果てに俺の部屋に勝手に入って平然とベットで漫画本を読んだりしてる厄介な友人というところ。それにしたって今回はなぜ朝ごはんを廻と一緒に食べる状況になっているのか・・・


「廻ちゃんは私が入れたのよ」


「母さんどうして・・・」


「食卓に息子だけじゃなく可愛い女の子がいることで華やかになってご飯が上手くなる。それだけで理由は十分よ」


(あおい)お母さん本当にありがとうございます。というわけだよ、望」


「んな無茶苦茶なぁ」


母親によって正式な侵入をされてしまっている、おかしい。この状況は普通の青少年にとってはかなりまずいのではなかろうか、廻の前では絶対言わないがこいつはとにかく顔は良い、ついこの間一緒に街を歩いていたらやたら周りの視線を集めるわ、何だったらスカウトが寄ってくるわでめんどくさいことになるくらいは。さすがにそんな少女が俺の部屋まで入ってくる状況を許容するのはいかがなものか


「母さん流石にこの状況が続いてるのはおかしくないっすかねえ、家族じゃない女の子が家で平然と男子高校生と朝ごはんを一緒に食べてるの駄目だと思うんですよ・・・」


「あんたが元々拾ってきたんでしょ、拾ってきた者は最後まで面倒見るのが責任になるのよ。ちゃんと世話してあげなさい」


「別に拾ってはいないが???」


「そーだそーだ!ちゃんと世話しろ~」


「お前はいいのか?実質母さんにペットと思われてるんだが」


間延びした声でこちらに微笑んでせがんでくる廻の姿が。なぜなのか、腑に落ちぬ。何を間違えたのでしょうねえ・・・


「ふう、ご馳走様」


「ご馳走様でした~」


「はい、お粗末様です」


そうしてちょっとの会話を挟み食事は終わった、いつものことながら我が家のご飯は美味しい。満足だ


「さて、俺は着替えて行くよ」


「・・・ああ、そうだったわね。行ってらっしゃい」


「あれ?望、朝からどこかに行くの?」


「前から言ってただろ、学校だよ、学校」


長いようで短い春休みが終わり今は4月1日、俺は高校二年生へと上がった。これから久しぶりに学校での生活がまた始まるのだ


「これからしばらくは学校に行くからな」


「・・・はーい、学校には私は付いていけない。そうでしょう?」


「・・・そうだ、廻はうちの学校の生徒じゃないからな、申し訳ないけど付いてきても授業に参加できないからな」


廻はとある事情で学校には行っていない・・・正しくは今まで学校という概念を知らなかった(・・・・・・・・・)。今までの過ごし方が過ごし方だからなあ、仕方がないだろう


「俺の部屋で寛いでいいから、お留守番してろよ」


「わかったよ・・・待ってるからね」


朝ごはんまでのテンションから一気にふてくされてしまった、しょうがないから帰ったら構ってやるか・・・


「うっし、着替え終わり!準備オーケー!じゃあ行ってきます!」


「・・・いってらっしゃーい」


廻はリビングからひょっこり顔を出して送ってくれた後、すぐに戻ってしまった。まったく。

さて、靴も履いたし外へ出るか・・・


「ちょっとお待ち」


「・・・?何?母さん?」


ドアに手を掛けた状態から振り向けば、そこには真剣な表情の母さんの姿


「さっきの朝ごはんでした会話、覚えてる?」


「・・・食卓に可愛い女の子がいるとご飯が美味しい?」


「違う」


違ったらしい


「助けたら最後まで責任を持つっていう話よ」


「あぁ」


確かにそんな話していたな


「あんたが廻ちゃんを家に連れてきた時、めちゃくちゃびっくりしたわよ。二人とも泥んこで、あんたに至っては擦り傷だらけ、さすがに心配したわ」


「その節はどうもすいません」


確かにそうだなあ、突然美少女を傷だらけで連れてきたのだから誰でも心配するよな・・・マジで申し訳ない、でも連絡できる状況じゃなかったしなあ・・・


「で、その話が何なの?」


ただ母さんはあの時の心情を述べに来たわけではなさそうだ


「まあ、あの時のことはもういいわ。あんたは別に暢気そうだし、廻ちゃんも前よりも楽しそうだし。でも望、あんたに言っておきたいことがあんの」


「何さ」


「正直言って廻ちゃんと望の馴れ初めとか、どういう状況なのかとかあまり把握できてないわ。そこについてとやかく言うこともない。ただし」


「ただし?」


「あんたは廻ちゃんを助けたんでしょ、ちゃんと見てあげなさい。助けたら途中で投げ出さず、どんな時でも支えてあげなさい。わかった?」


「・・・わかってるよ、投げ出したりなんて絶対しない」


それはわかっている。もう心に決めてるから。あの日、あの寂しそうにしていた顔を見てしまったから。もうそんな顔をさせないという思いは途切れはしないだろう


「・・・じゃあいいわ、行ってらっしゃい、廻」


「行ってくるよ」


ドアを開け、外に出る。すると太陽の光は俺を迎えた。新しい日々の予感だ









「・・・子供はすぐ成長しちゃうわね、嬉しいのやら、少し寂しいのやら」


玄関で送った後、息子の成長を感じて何とも言えない気持ちになった。まあ、喜ばしいのだろう


「さて、食器を片付けますか」


玄関からリビングへ、足を向け中に入ると


「・・・あれ?」


てっきりソファーにいると思っていた廻の姿がなぜか窓に移っていた、窓を開け、床に座り足は外側投げ出している


「どうしたの?そんなところにいて?」


「・・・ああ、葵お母さん。少し日向ぼっこをしてようかと思ったんですよ」


「あらそう?まあ、今日は天気がいいものね。ゆっくりしてね」


「そうします」


「じゃあ私は食器を洗ってるわ」


そして葵はその場を離れた、その場には廻だけが残る


「・・・まあ私は一緒に行けないらしいけど」


廻は右手を真っすぐ出し、手のひらを地面へと向けた。その時、影、細長い影が廻の右腕に巻き付いた。太陽の光を受けているにも関わらず、光を飲み込むような、あまりにも暗い影


この子は別に行けない(・・・・・・・・・・)とは言われてない(・・・・・・・・)


その言葉の後、影がボトリと手のひらから落ちた。するとその影は次の瞬間うねりだし、形を作った。蛇だ。立体感のない、のっぺらとした影の蛇。今その蛇を廻は生み出した


「行って、ちゃんと見ておきなさい」


その蛇はその言葉に反応して廻に顔を向けた後、まるで地面に沈むように消えた


「・・・さて、とりあえずこれでいいかな。本当は一緒に廻と行きたいけど」


消えた影の蛇がいた地面を見つめる。あの子はすぐに彼の影に入るだろう。これで彼を視られる


「いったんはこれで我慢しよう、まあでも」


ああ、笑ってしまうな、抑えられない


「どうせいっしょに行けるようにするから別にいいか。・・・望、君は本当にやさしいね、本当に」


君が愛おしい


「君は私をあの場所から連れ出して、此処に居場所を作ってくれた。これだけでも良かったんだ。けど・・・もっと嬉しいことをしてくれる」


なんて幸せだろう、なんて愛おしいのだろう


「君は私を救ってくれる、君は私を見てくれる、君は私を想い続けてくれる」


だから


「じゃあ私はそれ以上を君に与えよう。私はすべてを捨てても君を助けよう、私は君だけを見ていよう、私は君だけを想おう・・・永遠に」


「だって、拾われた(救われた)

「君を愛してる・・・壊れてしまうくらいに」


もう壊れてるのだろう、あの時に

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