8匹 条件をのむわ
「謝られたら・・・な、殴れないじゃない・・・」
夏流は息を整えた。
キスされたこと。
最初は当然親だ、と言い聞かせればだいぶマシになった・・・ような気がする。
実際、男の人にそういう目で見られるのには慣れている。
「・・・ねぇ、あんた誰なのよ。そろそろはっきりさせたいんだけど」
おおかみにそう言うと、おおかみは夏流を見る。
その整った顔は、困ったような表情を作っていた。
「それ、絶対言わなきゃダメ?」
「ダメ」
おおかみはめんどくさそうに言ったが、夏流は即答。
おおかみは大きく溜め息をついた。
「あたしから見て・・・年は結構近そうね」
「ああ。俺18」
「あたしは16歳。高二だけど、あんたは高三かな?」
「ノーコメント。てかさ、今俺のほうが年上だってわかっただろ?なんでタメなんだよ」
「敬語を使うに値しないわ」
「・・・そうかよ」
おおかみは不機嫌そうに口を尖らせてそっぽ向いた。
なんだかその姿がかわいいと思うのは、絶対気のせい!!
「でさ、名前は?あたしは双葉夏流っていうんだけど。てかなんで神社にいたの?どこに住んでるの?」
夏流は一気に問い詰めた。
するとおおかみは、顔をしかめる。
「何よ、その顔。言いたくない理由でもあるの?もしかして・・・家出?」
その言葉に、おおかみは小さく反応した。
もしかして、図星?
「・・・仕方ねぇな。勝手に変な想像されたって困るし。教えてやるよ」
おおかみは溜め息まじりに言った。そして一言付け足す。
「おい、双葉夏流。教えてやる代わりに条件があんだが、いいよな?」
「う、うん。いいけど、どんな条件なの?」
夏流は聞く。
そしておおかみは、あっさりと、恐ろしいことを言った。
「お前の家に世話になんだけど」
「・・・え?」
耳を疑う。
お前の家で世話になるってことは・・・。
「あたしの家に、住むの?」
恐る恐る聞くと、おおかみは「文句あんのか」と言ってきた。
「だってよ、あの一軒家に一人で暮らしてんだろ?一人増えたってかわんねぇよ」
おおかみはごく普通に、顔色ひとつ変えないで言う。
おおかみは気付かないのか。気付いたって別にどうでもいいのか。
―― 一つ屋根の下で・・・うあああ!!!!??
「そんなの関係ないわ!!文句もなにも、ありまくりじゃないの!!!」
誰がこんな男と!?
頭に血が上っていくのが、自分でもわかった。
そんな大慌ての夏流を見て、おおかみはにやりと笑う。
「なんだお前、もしかして・・・。そういうイベント想像してんのか?」
図星をつかれた。
「ちっちちちち違うもん!!!それはあんたでしょーが!!!!!!」
それでも否定。否定。否定。
おおかみは大きな溜め息をつく。
「あのな、お前全然説得力ねぇぞ?・・・それは置いといて。俺がここにいる理由、聞きたいのか聞きたくないのか。はっきりしろ」
「うっ・・・!」
夏流は迷う。
この神社の管理者として、聞いておくべきだろう。
でも、男の人と・・・二人きり。
自分に、そんなことがたえられるのだろうか。
・・・・でも。
おおかみが、悪いやつじゃないっていうのは、なんとなくだけどわかる。
それに、一人より、こんなのでもいたほうが。
温かそうだ。
夏流は悩みに悩んだあげく、一つの結論を出す。
「どうしてここにいるのか、教えて」