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第1話 運悪くモブは鬼とペアる

「いいかー、全員集まったなー」


 上からは脳天を焼くような猛烈な日差し。

 下からは短パン越しにじんわりと伝わる地熱。


「今日はテニスだ。暑いけど元気出してけよー」


 日付でいえば、今日はまだ6月の頭のはず。

 にもかかわらず、なんなんだ、この狂ったような暑さは。

 

「水分補給だけはこまめになー。具合悪くなったらすぐに言えー」


 校舎横にあるテニスコート。

 日陰もクソもない、チャージ時間ゼロでソ◯ラ◯ビームを連発できそうなこの場所に、集合させられた我ら1組男子は、全員が一様に半袖短パンをチョイスしていた。


 その光景ときたら、もはや夏日のそれ。

 いつもは寒がりを自称している女子たちですら、全員が全員半袖だった。隣のコートで暑さに恍惚としている様が妙に色っぽい。てかエロい。


(女子も体育テニスなのかよ)


 同じクラスとて男女で競技が被るのは珍しい。

 これにより僕のやる気ゲージが10上昇したことをお知らせします。


「そんじゃ今からペアを発表するから、名前呼ばれたら返事しろー」


 とはいえ、暑いのには変わりない。

 この炎天下で元気なのは、体育教師の小田原くらいだった。薄地のランニングにグラサンとか、一人だけやる気の度合いが違う。


 てか筋肉えぐいなおい。


「ん?」


 と、ここで。

 俺の視線は偶然にも、とある人物のそれと重なった。


「あいつ……」


 小田原の筋肉を超えたその先、コート向かいの教室の最後方さいこうほう。そこからこちらを覗いていたのは、俺がここにいる原因となった小悪魔だった。


 そいつは俺が視認したことに気づくと、一瞬ハッとしたように目を丸くした。そして握り拳をひょいと突き出すと、お得意のしたり顔を浮かべる。


『センパイファイトです(笑)』


 とでも言われているような気分だった。

 あの感じからして、完全に俺をおちょくっている。


(いいからお前は授業に集中しろ)


 という意味も込め、俺は眉間に力を込めた。

 お前のやっすい応援など断じていらん――





 

「井口《、、》、おい、井口(、、)。聞こえないのか」


「……」


井口(、、)悠!」


「はいっ——!」


 脳に直接響くようなその声に、俺は思わず肩を弾ませた。慌てて返事をすれば、やがて眉間にしわを寄せる小田原と目が合う。


「名前を呼ばれたら返事くらいしろ」


「え、あ、はい。すいません」


 名前? 誰の? 俺の?


「暑いからってぼーっとするなよ」


「は、はぁ」


 そのあまりの筋肉圧を前に俺はついつい首を折る。


 てかさこの人、今俺のこと井口(いぐち)って呼んだよね?


井口いぐち鬼塚おにづかとペアになってもらう」


「……!?」


 追加で飛んで来たそれに、俺は絶句した。


 俺と鬼塚がペアだと……? 冗談だろ……?

 あと俺の苗字は井口(いぐち)じゃなくて井口いのぐちなんだが!?


「ちっ」


 予期せぬ事態の連鎖にこんがらがっていると。今度は背後から耳を刺すような舌打ちが飛んで来た。


「こいつがペアかよ。ハズれじゃねぇか」


 おまけにそんな言葉まで。


「せんせー、ペア替えたいんすけど」


「バランスを考えてのこの組み合わせだ」


「だからってこいつとペアとか嫌っすよ」


「わがままを言うな。今日だけだから我慢しろ」


 やがて舌打ちの主——鬼塚大雅おにづかたいがは、遠慮も迷いも一切無しにそんな身勝手な要望を口にしたが。当然それは受け入れてもらえず。


 どうやら俺と鬼塚がペアを組むのは確定事項らしい。


「ちっ」


 そんな露骨にアピールしなくても、お前が俺と組みたくない気持ちはよくわかる。なぜなら俺も、お前とだけは組みたくなかったからな。


 俺と鬼塚はいわば犬猿の仲。

 中学からの付き合いだが、一度たりとて仲が良かったことはない。


 とはいえ、最初から険悪というわけでもなかった。中学で同じ演劇部だった頃は、ちょこちょこ会話はしていた。


 しかし高校に上がってからというもの。鬼塚と俺の関係は日に日に悪化していくばかり。目が合う度に睨まれるのは、もはや日常茶飯事になっていた。


 どうしてこんなにも鬼塚に嫌われているのか。

 その理由は——なんとなくだが察してはいる。


「試合の組み合わせはここに貼っておくから、各々確認するように」


 小田原の言葉で全員が一斉に立ち上がった。

 俺も遅れて立ち上がり、尻に付いた砂を両手ではらい落とす。


「おい」


 その際に聞こえた威圧的な声。

 振り返れば鬼塚は、嫌悪感丸出しで俺を睨んでいた。


「俺の足引っ張ったらただじゃおかねぇ」


 何を言われるのかと身構えれば。

 そんなもん、知ったこっちゃねぇよ。


 そもそもお前とペアな時点で、俺のやる気ゲージは0に等しいんだ。陸上部のエースなら、脇役モブの一人くらいキャリーしてみせろや。

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