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第15話 ぜんぶセンパイのせい(結愛視点)

「はぁ……」


 もう何度目のため息かもわからない。

 家に帰って来てからずっとこの調子。


「これも美味しそうだし、あとこっちも……」


 制服のまま部屋のベッドに寝っ転がっていたわたしは、着替えるのも忘れてスマホに夢中になっていた。


 画面にあるのは、何となくで開いたディ〇ニーの公式ホームページ。グルメの写真やアトラクションの紹介など、魅力的な情報がたくさん載っている。


「ディ〇ニー……やっぱりずるい」


 見れば見るほど羨ましくなってくる。

 わたしだって本当は行きたいのに……なのにセンパイは、長い付き合いのわたしとじゃなくて、他の人と、しかもクラスの女子三人とディ〇ニーに行く。


 修学旅行だから仕方ない部分もあるけど……


「センパイも嫌なら嫌ってハッキリ言えばいいのに」


 あんなにも行きたくないって言ってたのに、それでも行くってことは……センパイだって少しは楽しみにしてたってことだよね。


 じゃなかったら、あんなにも熱心に雑誌を読み込んでた意味が分からないし。なんだかんだ言って、実はセンパイも乗り気なんだ。絶対そうだよ。


「あぁ……なんかまたムカついてきた」


 センパイが誰かとディ〇ニーを楽しむ。

 わたし以外の誰かと楽しそうに会話して、美味しいご飯を食べて、アトラクションに乗って……そんな姿を想像すると、胸の辺りがざわついた。


「女子とディ〇ニーとか、あの人絶対気遣うもん」


 もし本当にセンパイが乗り気じゃなかったとしても、他の三人に気を遣って独り行動とか、あの人ならやりかねない。


「それでもし迷ったりでもしたらどうするつもりだし」


 一応この間雑誌は買わせて、当人もそれを何度も読み返していたから、単独行動をしても大丈夫だとは思うけど。


「あの人ディ〇ニーみたいな場所とはとことん無縁だしなぁ」


 いざ現地に行ったら、場の空気に圧倒されて『陰キャ炸裂大パニック!』とか普通にありそう。それで誰かが助けてくれればいいけど、周りに期待はできないし。


「こんなことなら、行けとか言わなきゃよかったかなぁ」


 元々乗り気じゃなかったわけだから、背中を押したのが間違いだったのかも。


「でもだからって行かないでとは言えないよねぇ」


 せっかく行く気になったセンパイを止めるのもちょっと。それにわたしだって、センパイからのお土産楽しみだし……


「……ああもう! ぜんぶセンパイが悪イッ――ッタッッ!!」


 溜まりに溜まったイライラが爆発して、わたしは勢いよく寝返りをうった。


 その時ベッドすぐ横の棚にひたいをぶつけ、棚の上に置いていた麦わら帽子が、わたしの顔目掛けて落ちてくる。


「うぅぅ……」


 麦わら帽子の中で悶絶するわたし。


「ぜんぶセンパイのせいだもん……」


 あれもこれもぜんぶ。

 ぜんぶセンパイがお人好しなのが悪い。


 わたしがセンパイを意識し始めたのも、元はと言えばそれがきっかけだし。そのせいでわたしは今、こんなにもモヤモヤした気持ちにさせられてる。


 お人好しだから心配になる。

 それでいて努力家だから、誰かの力になる方法を知っているし、あの人自身も誰かを助けるためならなんだってする。それこそ自分を犠牲にもする。


「明日、部活休みかぁ」


 麦わら帽子を棚に戻しながら呟いた。

 壁に貼っていた予定表によると、明日の部活は休み。平日だからもちろん学校はあるけど、でもそんなのは仮病を使えばどうとでもなると思う。


「思い切って行っちゃおうかな、東京」


 日帰りで東京行くくらいなら、今まで貯めてたお小遣いで何とかなるし。モヤモヤするくらいなら、センパイの様子をチラッと見に行った方がいいよね。


結愛ゆあー。夕飯できたわよー」


 その声と共にガチャリと部屋の扉が開いた。

 立っていたのは、エプロン姿のわたしのお母さん――葉月はづき美百合(みゆり)。やがてお母さんは、わたしを見るなり眉を顰めて言った。


「ちょっと、まだ着替えてなかったの!?」


「え、あ、うん」


「制服しわになっちゃうじゃない、もう」


 そう言ってお母さんはため息。


「早く着替えなさい」


「今着替えようとしてたのー」


 わたしは言われるがまま、ブレザーのリボンを外した。そして部屋を去ろうとするお母さんの背中に向けて。


「ねぇ、お母さーん」


「んー?」


「明日学校休んでもいい?」


 着替えながら明日のことを確認してみる。


「どうしたの? どこか具合でも悪いの?」


「うーん。そういうわけじゃないんだけど」


 でもこういう時ってどう言い訳したらいいんだろう。『東京に行く』ってストレートに言うのもなんか違う気がするし。


「えーっと……なんとなく休もっかなって」


 結局出たのは、そんなフワフワした言い訳だった。

 これじゃ当然、お母さんが納得してくれるわけもなく。


「何よそれ。具合悪くないならちゃんと学校に行きなさい」


 って怖い顔で言われちゃった。


「えぇー、別にいいじゃん1日くらい」


「ダメです。おサボりは許しません」


「明日部活もないしさ」


「ダメです」


「むぅぅ、お母さんのケチッ」


 何とか説得しようとしても、お母さんは断固として揺るがなかった。


 まあ最初からこうなるとは思ってたけど。

 でもどうにかお母さんを説得しないと……。


「そもそもあんた、学校サボれるほど成績良くないでしょ」


「中間はそうだったけど、期末ではちゃんと頑張る予定だし」


「なら今の内から頑張って勉強しなさい。補修になったら夏休み大変よ?」


「わかってるよもう……」


 成績の話をされると、わたしは弱い。

 中間テストは全体的に赤点ギリギリだったし。もし次の期末テストで赤点とか取っちゃったら、多分わたしの夏休みは補習から始まることになる。


 それだけは絶対にイヤだ。


「とにかく、元気ならちゃんと学校に行くこと。いい?」


「はぁーい……」


 わたしがしぶしぶ返事をすると、ガチャリと扉が閉められた。その頃にはもう着替えも終えて、わたしはため息と共にベッドへと腰を下ろす。


「もうっ、わたしのバカッ……」


 枕を抱き寄せながら独りごちる。

 こういう時に上手く丸め込まれちゃうんだよね、わたしって。


「東京、行きたいなぁ……」


 それでもやっぱり諦めきれない。

 わたしがそう思ってしまう原因はあの人にある。不安に思っちゃうのも、それで胸がモヤモヤするのも、お母さんに怒られたのも、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜぇぇぇぇんぶ。


「……センパイのせいですからね」

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