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7.いわくつきの家

 事前に仕入れていた情報ではあったが、ここまで歓迎されていないとは思わなかった。昔ながらの屋敷だからか、その広さと疎外感が半端ない。


 20畳はある和式の客間に通され、今、公平はポツンと高級な座布団の上に座っている。目の前にはこの家の奥様とその息子、二人とも青白い顔をし、こちらを睨んでいる。


(俺一人でここまで最悪なら、祐理を連れて来ても変わらなかったな……)


 せっかくなら、連れてくれば良かったと非常に後悔していた。


「東京の警視庁の方がウチに何の用です?岩手県警には全てお話しましたよ。何度も何度も。こうやって来られると、ご近所の目もあるんです。あの子は事故死です。それで終わりましたでしょ?」


 夫人は胸に溜まったうっぷんを吐き出す。近所では呪いの家だとか言われている。息子の奇行に長年悩まされ、最後にはこんな結果になった。ただ悲しむことすら与えられない。


「菅原さん、申し訳ないですが。当家には落ち度はないかと思われます。SNSの投稿も、兄が趣味でやっていたことです。投稿内容も特に問題ないのでは?」


「いえ、ご子息に落ち度があったとは思っていません。ご子息の生前の様子をお伺いしたいのです。なぜ、被害者であるご子息に対し、ご近所が変な噂をたてるのか?そして、遠く離れた場所にある【あの桜の木】をご子息がどうしてご存じだったか」


 【あの桜の木】という言葉に、母親の口元が僅かに歪んだ。それを公平は見逃さなかった。


「たまたま、ネットで検索して見つけただけでしょう」


 弟は平然と答えた。それに、内心、公平はほくそ笑む。やっと話に乗って来た。


「あの桜は山奥の人が住んでいない場所にありました。西日本の方です。ネットの情報を全て検索しましたが、ヒットするのはお兄さんの投稿のみ。お兄さんがネットで見つけた可能性はゼロに近いですね」


 母親の目が少し彷徨った。弟は表情を強張らせる。


「そう思った、というだけです。実際にどうかなんて、本人にしかわからない。本人が死んでいるので、僕にはわかりませんよ」


「ご近所の噂話を集めましたが。失礼ながら、この家には祟りがあるとか」


 母親は思わず口元に手を当てた。手が小刻みに震えている。


「警察がそんなオカルトを持ち出すのですか?」


 弟は公平をもの凄い目つきで睨む。


 ガタン!


 客間に飾られた掛け軸が下に落ちた。


「きゃっ!!」


 母親が悲鳴を上げた。息子も体を強張らせる。


「え?」


 公平は落ちた掛け軸に目をやった。引っかけいていた紐が切れたようだ。上に残った紐をよくよく見ると、鋭い何かで切られたような切り口に見えるが……。


 ゾワリ


 公平は柄にもなく、背中が寒くなるのを感じた。自分は何かを本能的に畏れている。


 たまたま物が落ちただけだ。それなのに、この親子は何かを異様に恐れてる。それも自分以上に。きっと、今が初めてではない。きっと習慣的なものだ。彼等のあの反応はそんなものだった。


 後ろを決して振り向かなかった。


「なにか、話すことはないですか?私の部署はあらゆる可能性を調査する部署ですから」


 何を言わんとしているのか、自分が一番嫌いな分野に踏み込もうとしている。しかし、この嫌な感じを公平は無視することはできなかった。頭ではわかっている、目に見えないものを予想するのは馬鹿げていると。


「あの……連れの女性は、なぜ入ってこないのです……」


 弟は気まずそうに、躊躇いがちに口を開いた。


「もしかして、ド派手な女子のことを言ってますか?」


「はい。あの人KAMIですよね?」


「KAMI??」


「はい、最近、SNSでやり取りをしてる子です。こっちの世界では有名です」


「SNSでですか?」


「ごく一部のコミュニティでですが……少なくとも、僕とはやり取りをしてます。今日もここに来てくれるという話でした」


(だったら、言えよ……)


 公平は心の中で悪態をついた。


【今日はこの格好でいい】


(朝に言っていたあの言葉は、ここに繋がるわけ!?わかりにくいだろ!言えよ!!)


「彼女とは親しいのですか?」


 弟はチラリと母親を見た。


「母さん、ほら、前に話していた女の子……」


 母親は口をパクパクとさせた。それは良い方の反応だった、顔の血色が良くなっていく。


「あの、呪符を送ってくれた子?」


 弟が大きく頷く。


「きっと、直接見に来てくれたんだよ……」


 母親はジワリと涙を浮かべていた。


「どこに相談してもダメだったに……」


「そうだよ、母さん。KAMIなら解決してくれるかもしれない」


 話が見えず、公平は呆気に取られていた。


(呪符?SNS?KAMI??何のことだ……)


 わかることは、この親子が自分とは違う世界のチャネルを見ているということだろうか……。頼むから、自分を置き去りにしないで欲しい。


「菅原さん、お連れの女性に会わせてください。彼女になら……全てをお話しできます」


「え?」


 がっくりと公平は両手で頭を抱えた。何だか自分は踏みつけられ、その上に祐理がのし上げって来た感覚を感じる。捜査官として積み上げてきた実績が……目の前に脆くも崩れ去る。


 しかし、祐理のSNSに「今すぐ家に入ってこい」とメッセージを送るしかなかった。


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