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6.最初の投稿者

 盛岡駅に到着すると、祐理はてきぱきと動いた。レンタカーの予約は済ませていたようで、すぐに受付に向かった。そして、公平には、駅を出て指定の車乗降り場で待つように指示する。


 15分ほどそこで待つと、白色のアクアが公平の目の前に停まった。


「菅原さん、乗って」


「え?君が運転??」


「早く乗って、後ろがつかえている」


 公平は渋滞する後方を目にすると、急いで助手席に飛び乗った。アクアは軽快に走り始める。


「君、免許持ってたの?」


「はい、日本では最近取りました」


 前と後ろには若葉マークがついている……。


「あのさ、代ろうか?初心者だろ?」


「いえ、失礼ながら、菅原さんよりは慣れてるかと」


 確かに、東京にいたら移動に困らないから、車は所有していない。最近では、仕事でも部下が運転するためハンドルが握っていないが、初心者よりはましだろう。


「車の運転は14歳からしてますから、慣れてます」


「は?免許は18からだろ?」


「アラスカでは14歳から可能で、アメリカでは16歳で取れます」


 公平は絶句する。国際免許持ってるってこと??


「運転はウチの仕事なので、お気になさらず。一関市には1時間ちょっとで着くと思う」


「君、雑用係といいながら……ちょくちょく凄いの挟んでこない??」


「別に、普通。世界的には、ごく普通」


 普通じゃないだろ、公平は心の中で呟いた。アラスカ?14歳でそんなとこにいて、免許を取っている日本国民は何人いるだろうか?


「菅原さん、新しいPC後ろに用意してあります。スペックはほぼ同じ、セキュリティも確か。しかし、公安のシステムには入れないので、そこはご勘弁を」


 公平が後ろの席を覗くと、真新しいPCが置かれていた。


「いつの間に用意した?」


「菅原様があのサイトを開いた時に、念のために用意させました」


 PCが壊れることを予想していた?スマホをずっと操作していたのは、手配をしていたのか?


(てっきり、ゲームをして遊んでいたのかと思っていた……)


「父なら、普通にこうしています」


 進行方向を真っすぐに見ながら、祐理は平然と話した。


(その父親、普通じゃないだろ……)


「内藤侑について、調査部から報告が届いてる。長谷川さんが菅原様のメールに送ったとのこと」


「ありがとう。あのさ……」


「はい?」


「菅原様はもういいよ。事件解決までそう呼ばれると、やり辛い」


「では、なんと?」


「君のことは橘と呼ぶから、様はやめてくれ」


「では、公平と」


「いきなり馴れ馴れしいな」


「ミスター公平の方が?」


「なんか違うと思うぞ」


「では、ボスで」


「公平でいいわ…」


「では、私のことも祐理で。橘を表には出したくないので」


 表に出したくないか……。まだ半日しか一緒にいないが、この娘に何らかの事情があるのはわかる。それを隠したいことも。橘、特に聞いたこともない名前だが……。


「内藤侑の母親と弟に会う約束をしている。父親は仕事が忙しいようでダメだった。相手は息子の事故のことで、周辺に変な噂をたてられているようだ。今回の訪問も歓迎的ではない」


 祐理の派手な格好に目をやった。やはり、相手にいい印象を与えないだろう。


「君は車で待機していたほうがいいだろう。失礼だが、その恰好では……」


 祐理は黙って運転している。特に何の反応もしない。祐理の仕事は、あくまで公平のサポートをすること。事件を解決するのは本分ではない。対象者に不要と言われればそれまでだ。


「悪いな」


「気になさらず、問題ないので」


 祐理は本当に何も気にしていない。公平にはそう見えないとしても。


「先ほどの呪いですが」


 公平がピクリとした。実際にどんな呪いか、聞けずにいたことを思い出した。


「五芒星の呪いではないかと……」


 祐理の口が僅かに震えたが、公平はそれには気付かなかった。


(いにしえ)の書で見たような気がする」


「だとしたら、その裏には人間がいるはずだな。それを願う人間がいなければ成立しない。実際にそのまじないが成就する可能性が無かったとしても」


 祐理は喉の奥が詰まる感覚をおぼえた。体がその事実を話すことを拒否している。防衛本能だろうか。しかし、協力者としては必要と思われる情報は全て提供しなければならない。


「もし、五芒星の呪いなら、被害者は増えるはず。少なくとも、あと3人以上は」


「五角形で、5人ということか?まぁ、俺は正直まじないとかは信じないがな」


「もし、呪いなら、もう一人協力者を用意すべき」


「もしかして、本物の陰陽師とかいうなよ」


「そのもしかして。陰陽師の末裔、白川家を頼るべき」


 何だかオカルトの方に話が向いてきている。公平には歓迎できる流れではない。事実と証拠の積み重ね、現実に即した捜査、それが自分の本分だ。それに、その白川家も聞いたことはない……。そもそも、陰陽師は滅びているはずだが??


「もしかして、仲間なのか?」


 少々、公平は呆れていた。そして、胡散臭そうな視線を祐理に向ける。呪いで人が殺せるなら、この国に官職として陰陽師が残されているだろう。無くなったということは、必要がないということだ。信じるのは自由だが、国家機関に持ち込むのは歓迎できない。


「とんでもない、犬猿の仲です」


「え?」


 思わぬ返答に、公平の頭は捻じれる。話がぶっ飛ぶうえに、ややこしくないか?


「白川家とウチは古来から、仲は最悪。でも、白川家はそっちの専門家なので薦めてみました」


 きっと、協力者として自分にあらゆる情報を提供してくれているのだろう。それは何となくわかるが……。自分には現実味がない話で、しっくりはこない。


「ありがとう。必要になったら、もう一度その話を頼むよ」


「はい」


 カーナビを見ると、目的地まで、あと5分だった。

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