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5.隠されていたものは

 早々に弁当を食べ終えると、ビニール袋にゴミをまとめ、PCを再び開いた。例の桜の記事を開く。


 パチパチ カチ カチ カチ


 軽快なその音と共に、投稿画面が開かれた。編集画面にし、写真の下の大きな空白に目を凝らす。マウスで囲み、設定を変更する。


「これは………」


 真っ白だった空白にたくさんの文字が表れた。そして、それは記号のような文字だった……。


梵字(ぼんじ)だ」


 祐理は画面を覗くと、その文字を瞬時に判別した。


「ボンジ?知っているのか?」


「インドから伝わった、元々はサンスクリットを表記するものだった。そして、呪文やお守りに使われることもあった」


「何だか気味が悪い文字だな。文字の色を白にし、目に見えないようにしていた」


 祐理の表情が強張っている。どうやら、この文字が読めるようだ。表情からするに、あまり良い内容ではなさそうだが。


「読めるなら読んでくれ」


 祐理は頭を横に振った。とんでもない、という目をしている。


「これは呪術を使ってる。口に出すことはできない、言霊になってしまう。文字に書き表すことも控えた方がいい」


 公平は不思議な気持ちになる。この派手な現代の女子高生が、(いにしえ)のまじないを語っている。それが本当に存在し、現在においても有効な力だというように……。


「たかが文字ではないか?言葉で表したことが現実になるなら、願いはもっと簡単に成就できるだろ」


 しかし、そんなに簡単なことではない。大抵は叶わない。


 祐理は真剣なまなざしを向けた。


「言葉や文字には力がある。そして、それを発した者の力量により効果は大きく変わる」


 軽く息を吐くと、再び口を開く。ずばりその言葉を発するのは危険だが、解説くらいなら大丈夫だろう。


「恨んでいる者に対する(まじな)いだ。多分、対象者がこれを無意識に見ると術式が展開されるようになっている」


「では、対象者でなければ大丈夫だろう」


「いえ、対象者が誰かこの内容からは絞れないから控えた方が良い。対象者が全国民ということだってあり得る」


 公平も画面をじっと見つめる。


「人の脳は不思議だ。色に紛れて見れない文字も、脳の知覚の部分では認識される。意識の部分ではなく無意識の領域に刻まれる。呪いが有効かどうかは別として、脳の機能を考えると恐ろしいことをしている」


 祐理は公平をじっと見つめる。ただ単にお勉強ができるエリートではないようだ。この男は勘もいい。


「もし、呪いが有効なら、桜の木で起こった殺人事件の被疑者が言っていた供述は本当に思えてくる」


 ポツポツポツ


 PCに触れていないのに、画面のカーソルが動き始めた。勝手に再表示させた文字が削除されていく……。公平は慌てて、キイボードに触れ、削除の動きを止めようとする。


 パッ


 しかし、文字は全て消去されてしまった。それは、中原一樹の友人、タクのスマホが誤作動したという現象に似ている。


「PCがウイルスに感染したのか?もしくはハッキングされているのか?」


「違うと思う」


 PCのメモ帳が勝手に開かれる。そして、文字がひらがなに切り替えられた。


「おい。誰かが勝手に操作している。乗っ取りだ」


 パチ パチ パチ パチ


 メモ帳にメッセージが一文字づつ表示される。この様子は「タク」が述べた供述によく似ている。


【じゃまをするな    すでにじゅつははつどうされた  いのちはない】


 プチン!


 最後の一文字が打たれた瞬間、画面が真っ黒になった。


「菅原さん、パソ逝ったわ」


 静かな祐理の言葉が響いた。


「え????」


 公平の手の中には、熱を放出したPCが残されるだけだ。あとは始末書くらいだろうか。


「最期のメッセージ、エグかったね」


 祐理は憐れむ視線を向けると、すぐに手元のスマホに意識を移した。


「え?そんだけ??今の現象について話もしないのか?」


「誰かのメッセージがアレでしょ。乗っ取りか何か、方法は別として、警告があった。終了」


 あっさりした祐理の態度。


 ここは怖いとか、気味悪いとか、普通の女子なら騒ぐところではないか??勝手にPCが動いたぞ?気味悪いだろ?それにあのメッセージの文字、もっと気味悪くないか?相手が人間だとしても、そうでなかったら、なおさら……。


 ハッ!


(何を考えようとしている…… まるで人間ではない存在が語り掛けてきたと思いかけたのか?実体がないものの仕業だと??)


 遠隔操作?ウイルス?投稿画面に仕掛けられていた?誰が?亡くなった少年が?


(こちらの今の動きに合わせたメッセージなら、亡くなった少年には無理だな?)


 別の誰かが関わっている?そもそも、何の目的で誰が始めたことだ?


「しかし……酷いな……」


 手の中の熱くなったPCを見つめる。今回支給されたばかりの新品だ。公安の持ち物だからセキュリティは高い。コストをかなりかけている。


「そもそも、何らかの攻撃を受けたら自己破壊するもんじゃないの?気にしなくても良くない?」


 祐理の言葉に、公平は彼女を見返す。相変わらずスマホから視線を外さないその少女。


(こいつ、どこまで我々のことを知っているんだ……)


「あ、あと10分で到着するよ、準備大丈夫?」


 目的地の岩手県は目前だった。






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