19.最後の打ち合わせ
新橋の路地裏にある、喫茶店モナリザ。昭和を感じさせるその店は、公平の行きつけになっていた。いつもの席に座り、マスターから珈琲を貰う。ここで仕事をすることが多くなった。
ガタン
店の戸が開かれると、祐理が入ってきた。黒髪にすっぴん、白シャツとジーンズのラフな格好だ。出会った時の黄色とピンクの姿を思い出すと笑みが浮かぶ。
「お待たせ、待った?」
「いいや、ちょうどいい頃合いだよ」
公平はマスターに視線を送る。それを合図に飲み物の準備を始めた。
「いろいろとありがとう。君の協力のおかげで、石川親子を裁判に引っ張り出すことに成功したよ」
石川和磨は、殺人教唆と別件によるネット上の犯罪で訴追された。そして、その父は政治資金絡みで特捜に捜査され、こちらも訴追された。
「今回は公平の手柄なのに、名前出さなかったんだね。元の部署に戻れるって聞いてるよ」
公平は軽く笑った。
「いやいや、俺もいろいろ学んだからな。君から」
「?」
自分にとって何が目的で、何を大切にするのか。その見極めが人生において大切だということ。
それは、表に出て自分を知らしめることではない。解決という、その結果が欲しいだけだった。
「俺はまだ怪奇を受け入れてはいないが、縁はあると思うようになった」
「縁?」
「そう。石川議員を追いかけ、部署を飛ばされたこと。君と出会ったこと、あの事件に関わったこと。たまたま、俺の先祖が水晶という人の親友だったこと。それって単なる偶然だったのだろうか?」
祐理は心の中で笑った。そうだ、それが縁だ。
「今の部署にいるのも何かしらの縁。しばらくここで頑張ってみるよ」
「じゃ、また何かご要望がありましたら、橘家にお願いします」
祐理はニッコリと微笑んだ。
「そうだな、長谷川さんの言う通り、優秀な協力者だしな」
マスターが祐理の前に、ケーキと紅茶を出した。
「これは俺の奢りと言うことで、最後の打合せだし」
祐理は軽く笑った。