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14.雑用係の真実

 橘家の歴史は実に長い。それは平安時代に遡る。元々は貴族の流れにいたが、中央権力から廃された後は、影に隠れその血筋を繋げてきた。橘家の力は積み重ねられた情報の記録、技術の蓄積にある。


 雑用係と言われながらも、各部署を繋ぐことも多く。また、側にいて一流の知識、技能に触れることも多かった。地味で目立たない存在だったが、日々、コツコツと観察と記録、実力を積み重ね。それが後世への財産になった。


 彼等は決して劣った者達ではなかった。むしろ、その逆であった。しかし、時の寵児達を横で見届けながら、極めてシンプルな家訓を生み出した。


 出れば打たれる、出ずに才を発揮すべき。


 つまり、悪い言い方をすれば、打たれ強い者に出てもらい、裏方で能力を発揮すればいいというものだ。ちなみに、それとは真逆に生きた家系もある。


 白川家だ。古来より霊力が強い家であり、それ故に浮き沈みが激しい家だが。打たれ強い人達で、大きく沈まされても生き残り、次のチャンスで這い上がってくる。


「祐理、内藤家の件は解決してきたぞ」


 橘家のリビングで珈琲を飲まながら、白川貴仁は恩着せがましく微笑んでいる。ハクは主人から距離を置き、祐理の隣に座り、主人とは向き合っている。


「呪いの元はわかった?」


 ごく普通の一軒家のリビング、八畳ほどのその部屋は、テレビとテーブル、5人が座れるソファがコの字状に置かれている。名家しては普通すぎる家だ。


「時代は平安以降のものだな。あの家は分家だが、本家筋に都仕えがいたようだ。それも、文官ではなさそうだったな」


 貴仁は珈琲を一口含むと、さらに続ける。


「確かに呪詛だったな。不思議だが、人の怨みにしては力があり過ぎる。誰でもこんなことできるわけではない」


「霊力があった者を殺めたとか?」


「可能性は高いかもな、なにせ昔の話だから予想の範囲だが」


 貴仁は、報告書を祐理に手渡す。こちらからお願いした仕事は、必ず事後報告書を出してもらっている。


「あの家は怨みを買いやすいのか、呼び寄せるのか、何かいろいろ居たから、全部集めて話を聞いてやった。成仏した奴は黄泉に流し、反発した奴は滅した」


 つまり、滅するとは、力で存在自体を消し去ったということだ。どっちかというと、貴仁はこっちが得意だったが、祐理の依頼内容に今回は従った。


「平安の元々の怨みは縁が完全には切れなかった。そっちは引き続きだな。偶然にも別件に繋がっているからな」


「中原と後藤の件?」


「そうだ、あの桜ヤバいだろ?お前、気付いてたな?」


「あぁ、アレはただの桜ではない」


 貴仁は面白そうに微笑んだ。橘とは家同士は不仲だが、個人的には認め合っている。橘の当主を尊敬しているが、その娘の祐理の力も認めている。その兄は嫌いだが。


「同じ血筋が他にもいるのに、なぜ彼等が選ばれたと考える?」


「彼等に恨まれた昔の者達の御心が入っているのでは?」


「転生説か」


「そうとも言うが、先祖還りともいえるかも。より似通っていると言うのが正しいのかもしれない」


 しかし、それは証明できないことである。あくまで信じるか信じないかの話だ。


「五芒星の呪い、それはお前との同じ見解だ」


「後藤はまだ生きているけど、大丈夫?」


 貴仁は白い人形の紙を懐から出した。


「人型を使い、それに身代わりをさせ呪いを終わらせてやるつもりだ」


「なるほど。では、あと2人ということになるね。1人は目星がついているけど」


「へぇ、やるな。どうやった?」


「たまたま」


 ハクも隣で頷いた。


「もう1人は引っかからないな」


 もう既に完了し、事件として上がってきてないだけなのか。今も続いていると言うことなのか。


 祐理はポツリと呟いた。


「昔の怨みを晴らしたい人達が、たまたまその時に揃うものだろうか?そもそも、血筋が絶えず続くことはあるものか?」


「あ?そうだな。奇跡的かもしれないな」


 祐理はハクを見つめながら、口を閉じ、考え込む。その沈黙は意外に長かった。


 貴仁は暇を持て余し、周りをキョロキョロと見回し始めた。


「ちなみにさ、初音(はつね)さんは今日は戻らないのか?」


 祐理の父、橘初音をこれなく尊敬する彼は、久々に会えないかと期待してやって来た。会えれば僥倖というもの。


「初音は別件で出かけてるよ」


 ハクが事務的に答える。


「なんでお前が知ってるんだ?立ち位置そっち側だけど、違うだろ」


「言っていることわからない。僕は祐理のそばが心地いいだけ」


 ハクは祐理に身を寄せた。もう慣れてしまっているので、祐理は特に抵抗はしない。ハクは、願わくば、主人替えを望みたいところだった。それも仕方がないことかも知れない。その主人自身が好きな人達なのだから。




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