時計仕掛けの暗殺者・ゲイル
俺は激威流。時計のように精密な暗殺者。半分機械、半分人間のこの俺は眉一つ動かさず冷徹に人を殺せる。感情などない。ジャージ姿は人の目を欺く為だ。
「ちょっとユーちゃん。牛乳買ってきてー」
階下で仮の母親なる人物が、俺の仮の名前を呼んでいる。だが俺の名は激威流。そう呼べ。
「なんかブツブツ言ってるねぇ。いるんでしょう? お駄賃あげるから」
フッ。報酬付きの仕事か。ならば行こう。階下に降り母親から金を受け取ったその刹那、俺の目が光る。
「心窓開明」
説明しよう。これは暗殺16の技の一つ。母親の心を見るに今日の夕食はグラタンのようだ。
「あらグラタンがいいの? じゃタマネギも買ってきて」
ふふ。心理操作だ。思う壷だぜ。
警戒しながら無事に買い物終了。だがこの店にはまだ用事がある。なんと言っても今日はカードゲーム勇士王の新パック発売日だからな。
目玉のSSSレアは『佇むアポロバロン強怖』。およそ800分の1の確率。売り場に来てみると、残り二つしかない。さすが発売日。問題はこの二つにアポロバロンが入っているかどうかだ。
「苦楽写読取」
遂に出た。暗殺16の技の一つ。透視能力だ。むむむ。レアが入っていると感じる! 右側が重い。ホロ加工しているものが入っていると見た! 右で決まりだ。
店から出てパックを開ける。やはり! ノーマルばかりか。思った通り。ちょうど欲しかったのだ。
ぬ? 店から小学生らしきものが最後の一つのパックを買って出て来たぞ?
「当たった! アポロバロン!」
はぁ!? クッソー! なんだとガキ? 感情を今思い出したぞ。これが怒りか! 俺の究極暗殺剣は瞳の洞窟に封印してある。でなきゃお前は今頃300億回は死んでいる!
はっ! まさかこのガキ、かつての聖戦で戦った知竜巫か? 生まれ変わっても俺を追い詰めようとしているんだな。しかしどうやらまだ覚醒はしていないようだ。
「あれ? 内藤クン?」
「あばばばば」
同じクラスのマドンナ野々原花恋。部活の帰りらしい。まぁ感情のない俺は花恋に特別な思いなどないがな。
「どうしたの? 下向いちゃって。あ。そーだ。クラブでクッキー作って余っちゃったんだ。少しあげるよ」
「ぁりgぁt……」
「え? んふふ。じゃまた学校でね」
家に帰るようだな。空を見上げると、星が瞬く。
フッ。神よ。この俺に暗殺を捨てて愛に生きよと言うのか?
「チッ。しょうがねぇ。この激威流さまも年貢の納め時か」
花恋は俺が守れ……か。それが新たなる使命。