疾風
爽やかなか一陣の風が吹く。
濃厚な緑の匂いが鼻に運ばれてきて目を覚ます。
「んぁ?何してたんだっけか…。ああコレクトやってたんだった。ったく、びっくりアイテムでプレイヤー驚かしてどうすん…だ…よ?なんだここ…。」
そこは広がる草原の中の小高い丘のようだった。
遠くには木々が広がる森が見える。
「お、俺は自分の部屋にいたはずだったのに。
お、お、お、落ち着け!俺は神崎バクラ23歳 趣味はコレクト魂、よし!記憶に混濁はねぇな。」
ズキッ
「ぐっ!痛てぇ…なんだ?」
胸の中心から痛みを感じ服をめくる。
胸の中心には拳大の赤黒いガラス玉のようなものが埋め込まれていた。
「お?は?ん?なんだこれ…なんだこれ!」
胸のガラス玉は明滅を繰り返している。
「ガラス玉…宝玉…【魂狩りの宝玉】?」
その言葉がトリガーだったのか宝玉が眩く輝きだし中から球体に包まれた物体が飛び出してくる。
「これは、デスガチャで出たやつ…っぽいな。」
宝玉から出てきたものは、透明な箱に入った微妙に蠢いている顔ほどもある肉塊、丸いランプの中で揺らめく弱々しい炎、ピンポン玉位の金で修飾された緑色の水晶玉、黒に金の刺繍の入った編上げブーツ、真っ黒なメイド服とパンツ、そして…。
「殺戮人形…。」
着ているゴシックドレスはそこかしこにほつれ等がありボロボロで、体には所々ヒビや血の跡が見える。
手には錆びて欠けたナイフを持っており、狂気さを感じさせる。
「とりあえずこいつは置いておこう。安全そうな宝珠から調べてみるか。」
そういって生命の宝珠を拾った時、頭に情報が飛び込んで来る。
【R】生命の宝珠
生命の息吹を宿す宝珠
生物を蘇らせるには足りないが、命を吹き込むことは出来る
「おわっ、っとっと…やべっ!」
急に頭に飛び込んで来た情報に驚き、生命の宝珠を人形に落としてしまう。
すると、宝珠が人形に吸い込まれ人形の体が微かに緑色に光ながら脈動を始める。
「生命の宝珠が吸い込まれちまった!しかも変な反応してるじゃねーかよ!」
人形は脈動と共に体のヒビなどが消えていき、肌に赤みが差してゆく。
「今頭に入ってきた説明通りなら人形に命を吹き込んでるってとこか。」
脈動が収まるとそこには、もう人形には見えないボロボロの服を着た少女がいた。
「すげーな、なんか変なところに飛ばされてたとか胸に宝玉が埋め込まれてるとかそんなこと全部ぶっ飛んじまったぜ。」
少女は静かに目を開き、周囲を見渡してバクラを見つける。
「おはようございます。主様。
殺戮人形〈ルナティック〉と申します。以後お見知り置きを。」
「あ、えと、あんたは今の状況をなんか知ってるのか?」
「いえ、ワタクシは貴方様が主様であること、自らが殺戮人形であることしか知りません。」
「なんか進展あるかと思ったがなんもわからんか。まぁいいやとりあえず、アイテムに触ったら詳細が分かるってことだけはっきりしたから全部の詳細を確認してみるか。」
「では、ワタクシから…。」
「いや長そうだから、まずはこっちからだな。」
そう言って地面に転がっているアイテムに手をかける。
【R】再生の肉塊
切り取られても瞬く間に再生する肉塊
切り取られた肉にはほんの少し再生の力が残っており食べると傷が癒えやすくなる
【R】無限種火
常に消えそうだが絶対に消えない種火
この種火から移った火は普通に消える
【R】死の足音
静音、瀕死者に対して攻撃力増加
死の足音は死に際にしか聞こえない
【R】漆黒のメイド服
防刃、汚濁耐性
黒一色のメイド服
物理的な防御力には乏しいが精神異常に耐性を持つ
【R】漆黒のショーツ
汚濁耐性
黒一色の下着
特にそれ以上のことは無い
【R】血吸いの短剣
血液吸収、出血付与、刀身修復(血)
血を啜る両刃の短剣
見た目は普通の短剣だが、出血させるための仕組みが盛り込まれている
「いくつか物騒な物があったがまぁ、まぁ…ってショーツってパンツの事だったのか…なんかの武器かと思ってたぜ。
「では続いてワタクシを観て頂けますか?」
「ああそうだな。そもそも詳細が見れるかもわからんが。」
【SR+】殺戮生人形〈ルナティック〉
スキル:暗殺、殺戮の妙技
生命の宝珠によって命を吹き込まれた殺戮人形
残酷で冷酷な人形らしさが消え、自己意思を持った
しかし、宝珠の力が弱く人形らしさは消えきっていないようだ
生き物を殺すことに特化している
所有者:神崎バクラ
「随分物騒だなこれは。てか、スキルがあるな。これってどんな効果があるかわかる?」
「はい、暗殺は動作消音、気配察知、隠蔽、見つかっていない状態での初撃強化などの効果があり、殺戮の妙技は敵対者の急所の可視化及びその急所に対するダメージが増す効果があります。」
「そりゃまた、物騒だな。状況が分からんから使えるかは確認できないけど、とりあえず身は守れそうだ。」
「主様は自分を見られないのですか?その胸の宝玉はアイテムなのでは?」
「確かにそうだな。見てみるか。」
【SSR】魂狩りの宝玉
M'sC獲得率100%
取得経験値-100%
ガチャアイテム格納・詳細確認
魂を吸収し凝縮する能力を持った宝玉
所有者は魂の証を確実に得る代わりに自らの成長を捧げる
【位階1】神崎バクラ
スキル:運勢の渦、魂狩り
※運勢の渦:M'sCを使ってガチャを引くことが出来る
新たなる死は運勢の渦を作り出した
「M'sCが確定ドロップ…だと…。
経験値無しとかレベルとか出てきたがどうでもいいぞこれ。
そもそもこれが『コレクト魂』と同じガチャならステータス永久増加アイテムも出てくるし、スキルオーブも出る。
確か『コレクト魂』の設定上では謎のエネルギーから湧き出す生命体っぽいエネルギー塊が魔物の正体だったはず、そんなとんでも生物がいるのか?」
「主様、まとまった気配が猛烈な勢いで近寄ってまいります。勢いからして獣の類かと。」
「え?そんなこと言ったって俺には何も。」
「ワタクシにご命令くださいませ。殲滅せよと。」
ダダダダダダッ
草原を四足が駆ける音が響く。
それは毛並みの色が鮮やかな緑色なこと以外は狼そのものだった。その狼モドキの群れは二手に分かれて包囲しようとしている。
「いきなり急展開過ぎる!」
「主様!」
もう猶予はほとんどなく目と鼻の先まで狼モドキが迫っていた。
「ああもう!なんか分からんが分かった!殲滅しろ!〈ルナティック〉!」
咄嗟に手元にあった血吸いの短剣を〈ルナティック〉に投げながら命令を下す。
「御意。」
血吸いの短剣と最初に持っていた錆びた短剣のふたつを両手に持ち二手に分かれようとしていた狼モドキに突っ込んで行く〈ルナティック〉の目は赤く輝き動きの軌跡を残していく。
迎え撃とうとしたのか先頭の数匹が〈ルナティック〉に勢いそのままに飛びかかる。
しかし、サッと身をかがめて両手の短剣を一閃。
瞬く間に2匹の狼モドキの首を両断する。
残りの飛びかかった狼モドキは着地の隙を狙い、これまた綺麗に首筋を斬り付ける。その一瞬の惨状に狼モドキ達も恐怖したのか進軍が止まる。
後ろにいた一際大きな個体が吠えると残った個体が〈ルナティック〉を包囲し出す。
包囲した狼モドキ達は次々に〈ルナティック〉に襲いかかる。
時間差攻撃、高低差攻撃など様々な攻撃を仕掛けるが、〈ルナティック〉はそれを機械のように首筋を狙い、斬り落としてゆく。
後ろにいた指揮個体らしい大きな個体はこの状況に痺れを切らし、標的をバクラへと変更しそばにいた2体の狼モドキを嗾ける。
「うわっ!こっちに来た!」
その速度は〈ルナティック〉の戦いに見惚れていたバクラに躱せるものではなく、飛びかかってきた狼モドキに驚いて腰を抜かせて尻もちを着く。
あわや殺されると思ったその時、風が吹いたかと思えば〈ルナティック〉が音もなく眼前に立ちはだかり、飛びかかってきた個体を斬り落としていた。
〈ルナティック〉を包囲していた狼モドキ達はいつの間にか全て倒されていた。
「お怪我などはございませんか?主様。」
「あ、ああ大丈夫だ。」
「では、殲滅の続きをして参ります。」
何事も無かったかのようにバクラに軽くお辞儀をして駆け出す〈ルナティック〉。
不意を着いたはずの襲撃も複数で包囲した状況も事も無げに処理され、1匹になってやっと力の差に気付いたのか狼モドキのボスは背中を向けて逃げ出す。
「背中を向けて逃げる相手は2番目に殺し易い相手です。」
そう言うと手に持った短剣を投げつけ足を止めさせて、もう一方の短剣で首を突き刺して倒した。
「1番はワタクシに気がついてない相手ですね。」
「すげー、さすがデスガチャで出ただけはある。」
その時、倒した狼モドキ達の体が紐が解けるように光となって散っていき、その光がバクラの前に集まっていく。
「お?なんだこりゃ…いやもしかしてこれは。」
バクラの目の前に出現したのは狼の横顔が描かれた緑色のコインだった。
「見たことない柄だが、これは間違いなくM'sCじゃないか!やばい狼もいるもんだと思ったがあいつらが魔物だったのか。」
目の前のM'sCを手を皿にして受け取ると、また情報が頭に流れ込んでくる。
M'sC
グラスウルフガチャを引くために必要なコイン
グラスウルフガチャは草原を駆け巡るグラスウルフのような素早さがメインのガチャとなっている。
「よっしゃー!!やっぱりM'sCだったぞ!」
「早速ガチャを引きましょう。主様。」
「そうだな!えーと、確か運勢の渦だったか?」
すると目の前に虹のような混色の渦が出てくる。
「この渦に入れればいいんだな?持ってるM'sCは合計1…2…お!ちょうど20枚だ!あれ?確か狼モドキ達は10何匹ぐらいしかいなかったはずだが…ってことはこれ複数枚ドロップすることもあるってことかよ!最高だな!そうと決まれば早速ガチャるぞー!」
20枚のM'sCを渦に投げ入れる。
すると渦の中から狼が現れ、空に昇っていく。
それと共に光の球体のようなものが次々と渦から出てきて、バクラの周りを囲んでいく。
「おおっ!すげー!」
「主様。大丈夫ですか?」
「ああ、特になんともない。」
そして20個の球体がで終わると、全ての球体が宝玉に吸い込まれてゆく。
「レア演出っぽいのは無かったな。でも、いくつか金とか銀のレア度高そうな光の玉があったし上々だな!」
吸い込まれ終わると脳内にリストが上がってくる。
〈グラスウルフガチャ〉
【R治癒草 R狼の牙 SR疾風の靴 R狼の毛皮 R治癒草 R治癒草 R狼の牙 SR疾風の短剣 R活力草 R狼の爪 SR体力の指輪 SSR草狼の風槍 R活力草 R狼の牙 SR草狼の鉤爪 R狼の大牙 R狼の艶毛皮 R治癒草 R活力草 SSR草狼の風魂】
「いやー、これがコレクト魂と同じ様式なら最高レアは引けなかったみたいだが装備品っぽいのが出て最高だな!」
「ええ、これで主様の身を守るものが増えました。」
「ほんとにルナティックがいて良かったよ。
もう、死ぬかと思ったぜ。」
「ルナ…とお呼びくださいませ主様。」
「え?あ、うん。じゃあその主様ってのもやめてさ、バクラって呼んでくれよ。」
「はい、では、バクラ様とお呼びさせていただきます。」
「や、様もなくて…「バクラ様とお呼びさせていただきます」…あ、そう。ならそれでいいや。」
〈ルナティック〉の圧力に屈して、様付けを許すバクラ。
「はい、そうさせていただきます」
ルナティックは満足そうな雰囲気だった。