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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コン太と私【改稿版】

*江戸時代風の疑似世界です。


 **********


「コン太、どこぉ?」

「クーン」


 呼び声に答える鳴き声。そちらを見ると、1匹の子狐。 

 会えたことに安心して近寄ると、向こうからもトテトテと歩いてくる。可愛い。


 いつもなら、笑顔全開で抱き上げてギュッてするけど、今日は出来なかった。



「コン太、ごめんね。お(やしろ)、無くなっちゃう……。」

「……。」


 かすかに 微笑(ほほえ)んで、そっと抱き上げて軽く(ほお)ずりをすると、目を合わせる。



「古くなったし、誰も来ないし、お(やしろ)()らないから(こわ)すんだって……。あそこはコン太のお(うち)なのに……。」

「……。」


 なんか、泣きそう……。



「やめてってお願いしたけど、ダメだって。古くて危ないし、最近うろついてる悪い人が隠れたり住みついたりすると困るから、って……。」

「……。」


「お(やしろ)無くなったら、コン太は、どこに住むの? 居なくなっちゃう? もう会えない?」

「……。」


「……ウチに来る? ごめんね、無理だよね。 あんなにひどい怪我(ケガ)してて、その手当ての間だけって言ってもウチに来なかったんだから……。」

「……。」


「私が大人だったら、新しく、大人が(はい)れない小さなお(やしろ)を作るのに……。」

「……。」


「そうか。作ればいいんだ。今みたいなお(やしろ)じゃなくてもいい? 木と石で、雨や風が入って来ないくらいのなら作れるかも……。そしたら、そこに住んでね?」




 (あたし)(ウチ)は小さな(いおり)

『お稲荷(いなり)さんの森』に入って少ししたところに有る。

祖父(じい)ちゃんが森の木を切ったり小動物を狩って、(あたし)が木の実を拾ったり(たきぎ)を集めたりして生活してる。

祖母(ばあ)ちゃんとお父さんとお母さんは病気で天国に行っちゃったんだって。


 森をさらに奥に入ると綺麗な池が有って、その(ほとり)にお稲荷(いなり)さんのお(やしろ)が有る。

ここがコン太との出会いの場所で、今、(あたし)が居る場所。




 ある日、奥は危険な(けもの)が出るかもしれないからダメだと言われていたのに、薪拾(たきぎひろ)いに夢中になってたらお(やしろ)の前まで来ていた。 

 その横で、お(なか)怪我(ケガ)して(うずくま)ってたのがコン太。

見つけた時にはビックリした。

だって、お稲荷(いなり)さんのお(やしろ)の横に狐だよ? 神様の化身(けしん)御遣(みつか)いだと思うじゃない。 

 驚いて、でも可愛くて思わず近寄ったら怪我(ケガ)に気付いて、またビックリ。

神様の化身(けしん)御遣(みつか)いが怪我(ケガ)してるなんて……!

だから、普通の子狐として扱うことにした。


 近づいても逃げなかったから、抱き上げてウチで手当てしようとしたら、思いっきり暴れられた。

傷口が開いたのか、止まってた血が流れるのにも構わず暴れるから、絶対イヤだって気持ちが伝わって、連れて帰るのは(あきら)めた。

池で血を落として傷を洗って、持っていた傷薬を塗って、手拭(てぬぐ)いを巻く。

すると、コン太がお(やしろ)の階段を上がるから、ドアを開けると奥で丸くなる。


 『ココに住んでるんだなぁ』って分かって、『ココに来ればまた会える』って嬉しかった。

だって、友達が居なくてさびしかったから……。

近くには同じ歳や年下の子供は居ないし、少し上の子は村で仕事が忙しかったり街に奉公に出てたから。

 『コン太と仲良くなれたらなぁ』って思った。 

『コン太』って名前は(あたし)が考えた。怪我(ケガ)の手当てで話し掛けるときとか、名前が無いと呼びにくかったから。



 それから、毎日、怪我(ケガ)の手当に来た。

稲荷(いなり)さんみたいに油揚(あぶらあ)げを食べるか分からなかったし、油揚(あぶらあ)げは高価だとかで(あたし)たちでは手に入らない。だから、オカラとお肉を少し持って来た。 

 回復したころには、お祖父(じい)ちゃんが心配するから毎日は無理でも、時々会いに来た。迷うことも(けもの)に会うことも無かったけどね。


 コン太は池の浅瀬で小魚やカニを捕って食べてた。やっぱり普通の狐なのかなって思った。

でも、コン太は池の深いところには絶対に入らなかった。小魚は、口先か爪で岸に飛ばしてから捕まえてた。時々、尻尾(しっぽ)の先を水に入れて()すって、食いついた魚を岸に飛ばしたりもして、賢いなぁと思った。


 コン太は呼ぶと出てくるし、(あたし)の隣にちょこんと座って話を聞いてくれる。

それだけで嬉しかったし楽しかった。




 さて、お(やしろ)の取り(こわ)しが決まって、(あたし)はコン太のお(うち)作りを始めた。


 お稲荷(いなり)さんにお祈りして、周りの崩れた石垣の石を使わせてもらった。お(やしろ)が小さかったから、石垣の石も子供の(あたし)でも運べる大きさだった。

 運ぶ場所は、近くの(ほら)の有る木の横。ここなら、お(うち)が壊れても(ほら)避難(ひなん)できる。


 石を並べて、そこに池の泥を乗せて上に石を積む。

祖父(じい)ちゃんが(かまど)を作っていた時の様子を思い出して作る。

床にも石を敷いて小枝を敷いた上に木の葉を敷き詰める。

木の葉は、いい香りのと虫除けと湿気取りのと、少しだけ傷を直すものも混ぜる。

 屋根は石では無理だった。(あたし)の力が足りないし、どうやるのがいいのか分からなくて……。

だって、お祖父(じい)ちゃんの(かまど)には屋根なんて無いんだもの。

 だから、左の壁の上から右の壁の上に太い枝をびっしり渡し、その上に交叉させるように細い枝を乗せて、大きな葉っぱを敷き詰めた上に最初のと同じように太い枝を渡して、壁の上に重石(おもし)の石を並べて乗せた。

近所の鶏小屋がそんな作り方をしてあった気がしたから……。



 近くとは言っても子供の足にはそれなりに遠く、子供の力では一度に運べる石も少なく、枝や葉を見つける時間も必要だった。(あたし)、なんで、まだ7歳なんだろう……。

大変だったし時間もかかったけど、楽しかった。

子供(あたし)でも出来ることが有る、それが友達(コン太)の為になる、完成すれば友達(コン太)が居なくならない……。

 それに、コン太は何も出来ないけど、いつでも(そば)に居てくれた。

(あたし)の横をテトテト付いて歩き、ちょこんと座って作業を見てた。

それだけで(うれ)しかった。




 そして、とうとう完成。

 やったぁ! ってことで、今日はお稲荷(いなり)さんに報告とお礼に来た。

油揚(あぶらあ)げは無理だから、オカラを持って……。取り(こわ)しは3日後だから、最後のおまいりになる。

 石を運び出すのが終わって、久しぶりのお(やしろ)

そこには、知らない人たちが居た。大きな、怖そうな大人の男の人たち。

なんとなく、近づいちゃ危ない気がして、近くの木に隠れる。


 お(やしろ)の中から1人がお(そな)え用の台を持ち出して、そこに何やら乗せるとお酒を飲み始める。大声で騒ぎ、お稲荷(いなり)さんの石像を蹴飛ばして(こわ)して盛り上がってる。

信じられない! 

 思わずコン太を見ると、(あたし)の横に座ってじっと見てる。

そっと抱き上げて、『ごめんね』と(つぶや)く。だって、あんなことになってる。

それだけでも苦しいのに、(あたし)には何も出来ない。怖くて震えて身体が動かない。 

『どうして、そんなことするの?』

『どうして(あたし)は子供なの?』

『どうして(あたし)は何も出来ないの?』

悲しくて悔しくて、頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられなくて……。


 そんな時、風が吹いた。

突然の強い風にられて、子供の体は簡単によろめく。

 そして、『あ……』、男の1人と目が合った。

慌てて逃げようとするも大人の足には(かな)うはずもなくて……。

 あっさり捕まったと思ったら、『邪魔だ』と放り投げられて、落ちた先は池。

その瞬間にコン太の鳴き声が聞こえた気がする。


 とぷんと池に落ちた後は、ゆっくり沈んでいく。

 初めは何も考えられなくて、このままじゃ(おぼ)れると気付いてもがこうとしたら、足に水草が(から)んで動けなくて、水草を(はず)そうとしたら息が苦しくなって……。

 一瞬、今は池に沈んでいるというお稲荷(いなり)さんの昔のお(やしろ)が見えた気がした。




 ……ココはどこだろう?

青い空に一面の花畑。そよ風に揺れる花の音しか聞こえない。

なんとなくボーっとして立ち尽くす。



『クーン』


鳴き声? まさか、コン太? 見回すけど居ない。

足元に触れる何かを見下ろすと、コン太が居た。

抱き上げると温かくて、ホッとする。



「コン太、ここはどこだろうね。きれいだね。でも、お花畑しか無いよ。」

「……。」


「だれか居ないかな。私はどうすればいいのかな。お(うち)に帰れるのかな。」

「……。」


 その時、少し強めに風が吹いて、コン太が(あたし)の腕から(すべ)り降りる。そして、いきなり走り出すから思わず追いかけた。



「待って! どこに行くの? 置いていかないで!」

「……。」


 泣きそうになりながら追いかけるけど、コン太は止まってくれなくて……。

やっと追いついたと思ったらコン太の体が浮き上がって、(あたし)より少し上に居るコン太に手を伸ばすけど捕まえることができない。


 そのまま、(あたし)まで、何かに吸い寄せられるように上に上がっていく。手を伸ばし続けてるのに、コン太との距離は埋まってくれなくて……。 



 『コン太!』 (あたし)の叫び声に、『コーン!』とコン太にしては珍しく大きな鳴き声が返ってきた気がした。




 *** 完 ***




 コン太の正体もエンディングの真実も、作者は敢えて考えてません。

吸い寄せられるようにして浮かんでいった、その先に有るものは……?

自由に想像してくださいね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] むずかしいところもありましたが、主人公の女の子がコン太を想いやっているところが良かったです。 [気になる点] あのあと、女の子とコン太はキツネ耳少女の妖怪として生まれ変わり、一心同体となっ…
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