ガールミーツリアルガール
オヤシキにはブラックティーが必須であるらしい。それを誰が決めたかはもはや分かりようもない。この痕跡の山の中にだけ残された二足歩行の毛の少ない生き物の文明ではそれがごく一般的であるという推察を立てることができるというだけのことである。
「考古学は嫌いなんだけどなあ」わたしは仕事でこんなことをしている訳ではない。旧支配者の文明の中でも比較的古臭い文化について調べるなどという金持ちの道楽に付き合わされる哀れなナードになった覚えは毛頭ないのである。はやく母星のサーバーに戻りたい。それにしても、ここは何だろう。目の前にいる旧支配者(たしか生殖上の区分的には女とかいったか)はひたすらティーパーティーとやらの開催を迫ってくるし、話しかけてもなにも返してこない先ほどの女とやらよりは大きな体のもの
(こちらはたしか男)はひたすら大鍋をかき回している。いったいこれは何の痕跡なのだろうか。こんな気味の悪いいきものを見続けていると気が滅入る。こんなサーバー早く出てしまおう。はやく、はやく。そう願えば願うほど館の中の道は伸びていく。こんな時、TPO的な身体性を必要とするサーバーは嫌になる。
「この疲労ってやつも、すごくいやね」はやくこの恐ろしい世界から出たい。視覚も聴覚も触覚もなにもない、思念だけの飛び交う元の世界がいかに安心できるものであるかがわかった。いやというほど分かった。だから、おねがいだから
「ここから出して……」真ん中に突起のある大きな木の板にしがみついた。館の地下から沁みだしていた緑色の霧は、とても強い反応を嗅覚にもたらした。
「ここは……」まだ身体性が自分に存在することに落胆しながら辺りを見回す。大量の旧支配者たちがそこにはいた。異様な高さの建築物が不毛であろうとても固い大地からいくつも生えている。ふと、旧支配者のうちの一体と目が合った。思わず後ろにのけぞる。
「あれ、なんでこの個体ものけぞって……」好奇心からその旧支配者に向かって近づいていくと、見えない壁のようなものにぶつかった。