第7話 模擬戦 後編
前回のあらすじ
模擬戦開始!
ついいつものクセで、魔術を無詠唱で発動してしまった。
俺が発動したのは《雷槍》だけど、威力の方も少し調整をミスっていた。
こんなのを喰らわせたら、生徒達が大怪我を負ってしまう。
なので次からはちゃんと詠唱することを告げたんだけど……生徒達の顔には、何言ってるんだコイツ? とでも言いたげな表情が浮かんでいた。
そんな中、学級委員長でもあるリースが魔術を放ってきた。
「《風刃》!」
リースが放った不可視の刃が、俺に向かって飛んでくる。
狙いは俺の右太腿、左肩、それと右頬のようだ。
「《雷壁》」
俺は今度はきちんと詠唱して、雷で出来た壁を目の前に作り出す。
そしてそれで、リースの《風刃》を防ぐ。
彼女の刃は、俺の身体に届くことはなかった。
俺に防がれることを想定していたようで、リースは毅然とした態度でクラスメイト達に発破を掛ける。
「相手はいくら勇者と言っても、あたし達相手に油断してくれてるわ! みんな、この隙に本気でメテオライト先生を倒すわよ!」
……手加減はするけど、油断は一切していないぞ。
そう言いかけたけど、生徒達がやる気になっているところにそう言うのも野暮だと思って、口を噤む。
それにしても……。
言葉だけでクラスメイト達にやる気を出させるとは……。
リースは指揮官向きの人物のようだ。
「《風刃》!」
「《炎槍》!」
「《岩砲》!」
そんなことを考えていると、生徒達から無数の魔術が放たれてきた。
風の刃は雷の壁で防ぎ、炎の槍と岩の砲丸は身体を捻ることでそれらをかわす。
するとその攻撃の合間を縫って、ウルフェン兄妹が俺の左右から接近して来ていた。
俺の右からガルムが、左からライカだ。
二人は身体強化の魔術を使っているらしく、俺の強化されていない目では二人の姿を追うのがやっとだった。
「先生、覚悟!」
「先生を負かせるのは、私達です!」
そう言ってさらにスピードを上げて、とうとう目では追えなくなる。
だから――カンで迎撃することにした。
俺は一歩下がり、右足をちょこっとだけ前に出す。
「なっ!? どわあああっ!?」
俺の足に引っ掛かり、ガルムはゴロゴロと地面を転がっていく。
「お兄ちゃん!?」
彼の妹であるライカは足を止めて、兄の安否を心配する。
そのせいで、俺から意識を外す。
俺は足音を殺して、ライカの背後を取る。
そして――彼女の頭に軽くチョップを叩き入れる。
「痛っ! ……えっ?」
ライカは俺に叩かれた場所を押さえながら、俺の方を振り向く。
その顔には、俺に背後を取られたのが信じられないといった表情が浮かんでいた。
「ライカ、それとガルム、アウト。修練場の隅に行ってろ」
「はい……」
俺の言葉に素直に従い、ライカはとぼとぼと修練場の隅へと向かう。
途中、地面に伸びている兄を拾っていた。
俺は残った生徒達の方へと向き直る。
「ほら、どうした? 攻撃の手が休んでるぞ?」
◇◇◇◇◇
メテオライト先生にそう言われても、攻撃を仕掛けようとするクラスメイトは一人もいなかった。
手加減してくれているとはいえ、ほぼ全速力だったガルムを事も無げに無力化してしまった。
ライカも、彼女が隙を見せたとはいえ、簡単に背後を取られていた。
……後で先生にポンコツだって言ったこと謝ろう。
「……そっちからは仕掛けてこないのか? なら……俺から行かせてもらうぞ」
そんなことを思っていると、あたし達が攻撃してこないことに痺れを切らした先生の姿が――かき消えた。
そして次の瞬間、あたしの目の前に先生の姿があった。
どうやってあたしの前に現れたのか分からないけど、そんなこと今はどうでもいい。
あたしはダメ元で、至近距離で魔術を発動させる。
「ひょ……《氷刃》!!」
アウローラ家の人間が得意とする氷属性の魔術を発動させる……けど、氷の刃は生み出されなかった。
先生は驚いた様子で目を見開くけど、それも一瞬のことで、彼は杖の先端であたしのおでこをコツンと小突く。
「いたっ」
「リース、アウト。修練場の隅に行ってろ」
「はい……」
文字通り手も足も出なくて、あたしはおでこを押さえながら肩を落として、先生に言われた通りに修練場の隅に向かう。
その直前、先生はあたしの耳元に口を寄せて、耳打ちしてくる。
「……さっきの魔術で聞きたいことがある。後で職員室に来てくれ」
「……はい、分かりました」
メテオライト先生の言葉に頷いて、あたしはウルフェン兄妹が控えている場所に向かう。
そこから他のクラスメイト達の戦う様子を眺めていたけど、結局先生に一撃を入れられたら人は誰一人としていなかった―――。
リースが氷属性の魔術を発動出来なかった理由とは……。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。