第1話 初出勤
本編スタート!
十月一日、月曜日。
今日が、俺の王立魔術学院の教師としての初出勤日だった。
俺は先週言われた通り、最初にセンセイがいる学院長室を訪れる。
コンコンと部屋のドアを軽くノックすると、中から返事が返ってくる。
「失礼します」
「ああ、シン! ちゃんと来てくれたんだね! アタシは嬉しいよ!」
僕がドアを開けるや否や、机の前に立ってスタンバっていたセンセイが、両手を大きく広げてややテンション高めにそう言ってくる。
なので俺は、開けたドアをそっと閉めた。
すると、バタン! と大きな音を立てながらドアが内側から開けられる。
「何で閉めるんだ、シン!!」
「いや、だって……関わりたくないと思ったので、本能的に。それともう帰っていいですか?」
俺がそう言いながら踵を返そうとすると、センセイは俺に泣きついてくる……物理的に。
具体的には、俺の腰にしがみついてきた。
「ああああ! 待って! 待ってくれ、シン!! お前がいなくなると、またイチから新しい教師を見つけなきゃいけなくなるんだ! だから帰らないでくれ! なんでもするから!!」
「……なんでも? 今、なんでもするって言いました?」
俺がそう聞き返すと、俺の腰にしがみついたままのセンセイはコクコクコクコク! と何度も首を縦に振る。
「ああ、言った! アタシに出来ることならなんでもする! だからどうか帰らないでくれ!」
センセイの必死過ぎる態度に、俺は軽く引く。
「はあ〜……なら、俺が教師をやるのは今学期だけでいいですか? その条件を呑むんなら、ちゃんと教師やりますよ」
「ああ、呑む!」
するとセンセイは即答してきた。
余程切羽詰まっていたらしい。
「さ〜て、と! シン、アタシについてこい!」
気を取り直したセンセイはそう言いながら立ち上がり、先程までの態度が嘘のように意気揚々と廊下を歩いて行く。
そのゲンキンなセンセイの背中を見ながら、俺はやれやれと首を左右に振る。
そしてセンセイの後を、早足で追い掛けて行った―――。
◇◇◇◇◇
センセイに連れられて(先導されて?)やって来たのは、この学院に勤務する教師達が集まる場所、つまり職員室だった。
教師達の目が、職員室に入ってきたセンセイの方に向けられる。
若干だけど、俺の方に向けられる視線もある。
「これから朝の職員会議を始める! アタシからは一点だけ連絡だ!」
センセイの透き通った声が、室内に響く。
「今日から我が学院の教師として勤めてもらうことになった、シン・メテオライトだ! ……シン、自己紹介を」
「はい」
俺は頷き、一歩前に出る。
「シン・メテオライトです。もしかしたら皆さんには、『勇者』と名乗った方が分かりやすいと思います」
俺が勇者だと名乗った途端に、教師達がざわめき出す。
そのざわめきを半ば無視するように、俺は自己紹介を続ける。
「諸事情により本業を休業中のところに、学院長から教師の話をいただきました。教師としては若輩者ですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
俺はそう締めくくり、深々とお辞儀をする。
するとまばらだけど、パチパチと拍手する音が聞こえてくる。
頭を上げると、センセイが僕の前に出る。
「シン……メテオライト先生には、先日退職なされたワイズマン先生が担当していた、一年F組の担当教師をしてもらう」
センセイがそう言うと、一人の女性教師が恐る恐るといった感じで手を挙げる。
その女性教師は愛嬌のある顔立ちをしていて、男女問わず生徒人気が高いことが窺い知れる。
「あの、勇者様……メテオライト先生が赴任していきなりクラスを受け持つのは、かなりの負担があるのではないですか? それにどうせ受け持つなら、F組ではなくもっと上位のクラスだって……」
「いいや。誰が何と言おうと、彼には一年F組の担当をしてもらう。それに負担にはならないと思うぞ? なあ、メテオライト先生?」
センセイはそう、俺に問い掛けてくる。
この学院では、教師の名前はファミリーネームで呼ぶらしい。
俺は肯定するように、無言で首を縦に振る。
「……だ、そうだ」
「でも……」
「まだ不安なら、しばらくの間はアタシがメテオライト先生の授業のサポートをする。それでいいか?」
「そう言うことでしたら……」
女性教師はそう言うと、それ以上何かを言うことはなかった。
「彼女の他に意見がある者は?」
センセイはそう尋ねるけど、誰一人として手を挙げる人はいなかった。
その後いくつかの小さな連絡をした後、職員会議は終了した。
「メテオライト先生はアタシに付いてきてくれ」
会議が終わると同時にセンセイにそう言われ、彼女の後を付いていく。
センセイに連れて行かれたのは、教師用の更衣室だった。
近くのロッカーから、センセイが黒い服を取り出す。
「本学院に勤める教師が着用するローブだ。勤務中はコレを必ず着用するように」
「分かりました」
俺はそう言ってセンセイからローブを受け取り、それに腕を通す。
サイズはぴったりだった。
「さて……それじゃあ教室に行くとするか」
センセイはそう言って、更衣室を出る。
俺も彼女の後に続く。
俺達が向かうのは、俺が受け持つことになった一年F組の教室だ―――。
オリビアからほんのりと漂うポンコツ臭。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。