第17話 リースの成長
前回のあらすじ
シンがリーナと邂逅した
クラス対抗戦を来週頭に控えた、十月二十九日月曜日。
この四週間で、一年F組のクラスメイト達だけでなくリース自身も、俺がクラス担任になった時とは比べ物にならないほど飛躍的に成長していた。
と言うのも、リースには俺が愛用する魔術を教えたからだ。
彼女はとても呑み込みが早く、その魔術もたった一週間ほどでモノにしていた。
そして今、リースの成長度合いを確認するために彼女と一対一の模擬戦をしていた―――。
◇◇◇◇◇
「《雷撃》!」
「《雷壁》!」
リースに向かって稲妻を放つと、彼女は雷の壁を生み出して俺の攻撃を防ぐ。
今日の授業が終わり、俺達はいつも通り第一修練場にやって来ていた。
そしてリースの成長度合いを確認するために模擬戦をしているのだけど……。
「《雷槍》!」
リースが反撃とばかりに稲妻の槍を三本生み出し、杖を振って俺目掛けて射出する。
槍の内二本はひょいひょいっと軽い身のこなしで回避し、直接ダメージとなる一本だけは《雷壁》で防ぐ。
「避けないでくださいよ、先生!」
「俺だってダメージを負いたくはないんだよ」
「そうですか……なら、コレだけは大人しく喰らってください!」
リースはそう言うと、杖の先端を俺に向ける。
そして先端付近に雷の球が生み出され、そこにリースの魔力がどんどんと収束していく。
それを見て、俺は慌てて《雷壁》を無詠唱で多重発動させながら、無駄だと思いつつ彼女に声を掛ける。
「ちょっ、待っ……!?」
「待ちません! 喰らえっ、《雷撃砲》!!」
リースの言葉に呼応するように、雷の球から一条の極太の稲妻を纏った光線が放たれた。
この《雷撃砲》という魔術は、俺が『勇者』に任命される以前から愛用している魔術だった。
この魔術は一直線にしか放てないという欠点はあるが、威力と射程は雷属性魔術でもトップクラスだった。
そしてこの魔術は、威力の割りに消費魔力が少ないという利点もあった。
だからリースにも扱えると思って彼女に教え込んだけど……今ほんの少しだけ後悔している。
俺の張った雷の壁にその光線がぶち当たると、瞬時に五枚もの壁を消し飛ばした。
……コレ、リースのほぼ全力なんじゃ……。
そんなことを思っていると、リースの放った光線は六枚目、七枚目……と順調に(?)雷の壁を消し飛ばしてゆく。
壁が残り三……いや、二枚となった所で、俺は慌てて更に十枚ほど壁を追加するが、それでも光線の勢いを完全に殺すことは出来なかった。
威力を半減させつつも、二十枚もの雷の壁をぶち抜いた光線はそのまま修練場の壁に向かう。
修練場の壁には魔術障壁を発生させる魔道具があり、いつもは装置を切っていた。
けれど今日は念のために、装置を発動させていた。
装置はきちんと作動していたらしく、稲妻を纏った光線が壁にぶつかる前に、ゆらゆらと不可思議な光を放つ障壁がソレを受け止める。
ホッと安堵の息を吐いているのも束の間、パキン! という音とドカン! という音が同時に聞こえてきた。
恐る恐る音のした方に目を向けると、障壁に穴が空き、壁にクモの巣状のヒビが入っていた。
「あ、あわわ……せ、先生。ど、どうしましょう……?」
リースの方に目を移すと、彼女は見るからに動揺しまくっていた―――。
◇◇◇◇◇
「……という訳で、『俺が』魔術障壁を壊しちゃいました。反省も後悔もしてます。どうもすみませんでした」
その後俺はリースを連れて、学院長室にいたセンセイに素直に謝っていた。
俺が魔術障壁を壊してしまった、ということにして……。
「あ、あの……あたしからも。どうもすみませんでした」
そう言ってリースも、センセイに向かって頭を下げる。
「ああ、アウローラ君が頭を下げる必要はないよ。全てはメテオライト先生がやらかしたことだ。そうだな、シン?」
頭を上げてセンセイの顔を真っ直ぐに見据えると、センセイは何もかも分かっているといった風な目をしていた。
センセイには一生敵わないかもなぁ……と思いながら、センセイの言葉に頷く。
「ええ、そうです。ここにいるリースは関係ありません」
「……だ、そうだ。良かったな、アウローラ君」
「いいえ、違っ――!」
「リースも気が動転してるみたいです。それじゃあ俺達はこれで失礼しますね」
何かを口走りかけたリースの口を咄嗟に塞ぎながら、俺はセンセイに向かってそう言う。
「ああ。障壁の修繕の方はアタシに任せておけ」
「お願いします。それじゃあ俺達はこれで。失礼しました」
俺はセンセイに向かって一礼してから、リースの身体を引き摺って学院長室を後にした―――。
《雷撃砲》のイメージはレールガン。
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