第16話 個別指導②
前回のあらすじ
リースの実力を把握した
外が暗くなりかけてる中で女の子一人を出歩かせるのは危ないからと、あたしの家までメテオライト先生が送ってくれることになった。
先生と……と言うより若い男の人と並んで表通りを歩くという経験がないから、どうしても緊張してしまう。
そもそも男の人と並んで歩くこと自体、お父さんや屋敷の使用人を除くと、全くの経験値ゼロだった。
「どうかしたか?」
「ぴゃっ!?」
突然先生に声を掛けられ、あたしは思わず変な声を上げてしまう。
そのことを恥ながら、あたしはしどろもどろに先生に聞き返す。
「え、ええと……な、何がですか?」
「いや……すごく緊張した面持ちをしてたから気になってな。もしかして……俺と並んで歩くのが嫌だったとかか?」
「いえいえいえいえ! そんなことはないですよ!」
「そうか……ならいい」
先生の言葉を両手をブンブンと振って全力で否定すると、先生はホッと安堵の息を吐く。
その表情を不覚にもあたしは―カワイイと思ってしまった―――。
◇◇◇◇◇
しばらく先生と並んで歩き、ウチの屋敷の鉄門扉の前までやって来た。
ウチの屋敷に限らず、貴族の屋敷は王国の首都であるメイオリアの一等地に建っているのがほとんどだった。
この辺り一帯も、他の家の屋敷が建ち並んでいる。
鉄門扉の前であたしは先生の方を向いて、ペコリとお辞儀をする。
「先生、ウチまで送ってくれてありがとうございました」
「教え子に何かあったらいけないからな。これくらいならお安い御用だ。……ああ、そうだ。次の指導は明日でもいいか? というか、平日の授業がある日は毎日でいいか?」
「はい! それと、是非毎日でお願いします!」
あたしははしたなくもやや興奮しながらそう返答すると、先生はフッと表情を緩める。
「そうか……分かった」
「あれ? リース?」
そんな声が耳に届き、声のした方に目を向けると、今日のお仕事を終えて帰宅したらしいお姉ちゃんが立っていた。
お姉ちゃんはカツカツとヒールを鳴らしながら歩いてきて、あたしの前までやって来る。
「お帰りなさい、リース。今帰って来たところなの?」
「ただいま、お姉ちゃん。うん、そうだよ。それとお姉ちゃんもお帰りなさい」
「うん。ただいま、リース……それで、こちらの男性は?」
お姉ちゃんはそう言って、先生の方に目を向ける。
先生はと言うと、右手を左胸に当てて、お姉ちゃんに対して恭しくお辞儀をする。
「お初にお目にかかります。私はリース様のクラス担任を務める、シン・メテオライトと申します。もしかしたら、『勇者』と名乗った方が分かるかもしれません。以後お見知りおきを、リース様の姉御殿」
先生の口調の変わり様に、あたしは驚きを隠せずにいた。
……先生って、こんな丁寧な口調で話すことが出来たんだ。
そんな失礼なことを思っていると、お姉ちゃんも先生に対してお辞儀し返す。
「これはご丁寧にどうも、『勇者』様。わたしの名前は、リーナ・アウローラと申します。リースの姉で、この国の魔術師団に勤めております。そしてアウローラ家の次期当主でもあります。妹がお世話になっているようで……それと口調は普段通りで構いませんよ?」
「そうですか。では遠慮なく……堅苦しいのって全く慣れる気がしないから助かった」
お姉ちゃんが微笑みながらそう提案すると、その提案に乗っかって先生はいつも通りの口調に戻す。
先生の言葉を聞き、お姉ちゃんがクスクスと笑う。
「そうなんですか?」
「『勇者』とは呼ばれていても、俺はただの平民なんでね。堅苦しいのは肌に合わないんだ」
「……それにしては完璧な所作でしたけど」
「立場上、お偉いさんと会う機会が多かったからな。そういう作法を学ばなきゃいけなかったんだよ……面倒臭いことにな」
先生はそう言い、肩を竦める。
「……まあ、世間話もこれくらいにして。それじゃあ俺も帰るわ。また明日な、リース」
「はい。今日はありがとうございました」
「いつでも当家に遊びに来てください。歓迎しますわ」
「その時は是非。それじゃあ」
先生はそう言い残して、あたし達の前から立ち去って行った―――。
シンとリーナの初邂逅。
この出会いが物語にどう関わってくるのか、お楽しみに。
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