第15話 個別指導①
前回のあらすじ
『八英雄』は変人しかいない
全員昼飯を食べ終わったので、俺達はトレイを返却口に返していく。
その途中、俺はリースに耳打ちをする。
「……リース。今日の放課後、第一修練場に来てくれ。魔術の個別指導を今日から始める。何か予定が入っているなら別の日にするが……」
「……いえ、今日は何も予定はないですよ。放課後に第一修練場ですね、分かりました」
「……ああ、よろしく頼む」
俺はリースから離れると、レクスとシオンの二人に声を掛ける。
「俺は次の授業の準備とかあるから、職員室に戻るな。また機会があったら誘ってくれ」
「了解っす」
「その時はまたぼく達の方から誘いますね」
「ああ、よろしく。それじゃあな」
俺はひらひらと手を振り、職員室へと戻って行った―――。
◇◇◇◇◇
そして放課後。
俺は第一修練場の真ん中で、リースと対面していた。
リースはというと、どこか緊張した面持ちをしている。
「リース、そんなに緊張するな。センセイみたいな無茶振りはしないから」
「そ、そうですか? なら一安心……ですかね?」
俺の言葉を聞き、リースはホッとあからさまに大きく息を吐く。
……そんなに不安だったのか……。
内心ほんの少しだけショックを受けつつも、俺は意識を切り替える。
「それじゃあ指導を始めるが……その前に一つ確認だ」
「なんですか?」
「リースが使える雷属性魔術ってどれくらいある?」
俺がそう尋ねると、リースは指を折って数えていく。
「え〜っと……《雷鳴》、《雷槍》、《雷壁》、《雷槌》、あとは……そうそう。《雷弾》くらいですかね」
「ふむ……まだまだ種類は少ないが、入学したてだと思えば十分か」
「それで……今日は何を教えてくれるんですか?」
リースは俺から早く魔術を教わりたいのか、少し前屈みになりながらそう尋ねてくる。
そんな彼女を窘めるように、俺は努めて冷静に答える。
「今日はまだ、何かを教えようとかは思っていない。今日はリースが雷属性魔術をどの程度使いこなせているかを確かめるくらいだ」
「そうですか……」
俺の言葉を聞き、リースはあからさまにガッカリとした表情を浮かべる。
彼女の態度に苦笑しながら、俺は彼女にフォローの言葉を掛ける。
「ただまあ……次の指導の時にはきちんと教えるから、その時を楽しみにしておくんだな」
「はい!」
リースは満面の笑みを浮かべて頷いた―――。
◇◇◇◇◇
そして先生の指導が始まる。
と言っても、先生と模擬戦をするだけだけど……。
この模擬戦にもルールがあって、雷属性の魔術しか使っちゃいけないことと、先生はあたしが言った魔術しか使わないということだった。
あたしの今の実力を測るから、そうしないと正確に測れないとのことだった。
そして早速模擬戦を始めたんだけど……。
「《雷槍》!」
「《雷壁》」
あたしの放った雷の槍は、先生が発生させた稲妻の壁に悉く阻まれる。
槍は一本たりとも先生の下には届いていない。
そして先生はカウンターとばかりに、《雷弾》を無詠唱で放ってくる。
あたしはそれをなんとか避け、先生に向かって再び《雷槍》を放つ。
だけどさっきと同じく、《雷壁》に防がれる。
「どうした、リース! そっちが来ないなら俺から行くぞ!」
次の一手のことを考えていると、先生からそんな声が掛かる。
そして先生は、あたし目掛けて《雷槍》を放ってくる。
だけどその数が尋常じゃなかった。
あたしは同時に展開出来るのはせいぜい五本が限度だったけど、先生のソレは軽く十本以上あった。
「くっ……!? 《雷壁》!」
あたしは先生がやったのと同じように稲妻の壁を生み出すけど、二、三本が壁を貫通してきた。
それらはあたしの腕や足などを掠っただけだけど、防ぎ切れなかったことには変わりない。
あたしは次の魔術を発動させようと身構えたその時、先生は持っていた杖をゆっくりと下ろす。
「今日はここまでにしよう」
「え? なんでですか?」
あたしがそう尋ねると、先生は無言で上を指差す。
それにつられるようにして空を見上げると、空が茜色に変わり始めていた。
空から視線を移し、先生の方に再び目を向ける。
すると先生は口を開く。
「リースの実力はだいたい把握出来た。今度からはちゃんとした指導をする」
「はい、お願いします。それと……今日の指導、ありがとうございました!」
あたしはそう言って、ペコリと先生に向かってお辞儀をした―――。
勇者直々に指導されたリースの成長をお楽しみに。
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