5.魔女にアイテム「ロースハム(鬼肉)」を使用する?▼
ヤマト:「私がリスポーンした棺…」
魔女は、棺の隣にしゃがみました。
悪魔・レス:「そうだね、びっくりしたんだよ。」
ヤマト:「…。」
軽く俯いた魔女の横顔には、陰りが見えます。
悪魔・レス:「ヤマト、私達以外の前でそんな顔しちゃダメだよ。闇が降りてくる。」
ヤマト:「!」
魔女はハッとしました。悪魔が、後ろから魔女を抱き締めていました。
鬼・ショウ坊:「レス、お前本当にどうした?」
悪魔・レス:「…お前達、ゆ~っくりおいで。」
悪魔が低い声でつぶやくと、教会の壁やオルガンの奥からわらわらとぬいぐるみや小さい石像が降りてきました。
鬼・ショウ坊:「眷属呼ぶならそう言え!本気でおかしくなったかと心配しただろうが!」
ヤマト:「レスさんの眷属…」
悪魔・レス:「うん、そうだよ。普段は掃除とか教会の設備維持をさせてるだけだから危害を加える子達じゃない。」
眷属たちはそ~っと悪魔と魔女に近づいてきました。
羽の生えた子ザルのような小悪魔が、おそるおそる魔女に手を伸ばします。
悪魔・レス:「むしろヤマトを怖がっているね。レベル30だからかな。」
魔女が小悪魔の手を握ると、小悪魔はびっくりしたように飛び跳ねた後、自らの主を困惑したように見た。
悪魔・レス:「うん、ヤマトは特殊な子だね。仲良くしてね。」
ヤマト:「よろしく…」
魔女が反対の手も差し出すと、他の小悪魔たちがおそるおそるといった様子で集まりました。
悪魔・レス:「離すよ。」
悪魔が離れると、小悪魔たちは魔女に群がりました。
鬼・ショウ坊:「適応能力高いな、こいつら。」
悪魔・レス:「まあね、眷属には理性を保てるように同化しているから。」
鬼・ショウ坊:「理性?」
悪魔・レス:「むやみに人の魂を狩らないようにね。普通なら『赤信号皆で渡れば怖くない』理論で格上の相手であっても群がって食らいつくしてるよ。」
悪魔は奥の方へ向かい、棚を開けて何やらごそごそし始めました。
ヤマト:「…そういえば、ショウさんが倒れていよいよ第5戦に入った時に出て来るシスターさんがいますよね。出てきたり出てこなかったりする…」
魔女が小悪魔の中から顔を出します。
鬼・ショウ坊:「グレイスの事か?」
ヤマト:「確かそんなお名前だった気がします。体が透けていて、雷魔法を撃ってくる…」
悪魔・レス:「あ~…グレイスはね、修道女じゃないんだ。あれはコスプレ。」
ヤマト:「え…」
鬼と悪魔は苦笑いしました。
鬼・ショウ坊:「さっき、10人全員いると見せかけて五英傑のグリフォンは欠席、もう1名は人形が魔王様の隣にいただろう?」
ヤマト:「…フリフリのドレスを着たファンシーな人形がず~っと黙ってこっちを見ていましたね。」
鬼・ショウ坊:「あの人形は四天王の1柱の引きこもりの眷属で、目と耳の代わりだ。で、ヤマトが言ってるグレイスの本体。」
ヤマト:「本体?!」
悪魔・レス:「そう。勇者達が見たグレイスは、人形の溜め込んだ厄が霊体となって表れた形態。なぜグレイスが教会にいたのかというと、暴走しないようこまめに厄落としをしているから。そのメンテナンスの最中に勇者パーティーが来たらグレイスもそのまま戦ってくれるんだよね。あの雷は、溜め込んだ厄を魔力に還元して放出してるというだけで、尽きたら主の四天王の所へ自動送還される。」
人間界であんなに考察されている魔の出現理由が魔王軍側の大人の事情だと知って、魔女は反応に困りました。
ただでさえ第4戦ボスが残っている中始まる第5戦で、そこそこ強い敵が出て来るか否かはその勇者パーティーの命運を分ける重要な問題だとして、出現条件について魔女も血眼になって文献を漁ったものです。
やがて、ごそごそしていた悪魔はすっきりした笑顔で戻ってきました。小悪魔たちの集団の中から魔女を抱き上げます。
ヤマト:「どのアングルでもイケメンですね。」
悪魔・レス:「反応に困るけど、ありがとうね。」
悪魔はそう言って魔女を抱え直し、首にロザリオのペンダントを掛けました。
ヤマト:「これは?」
悪魔・レス:「少しの気休めだね。魔王城は魔がたくさんいるから、事情を知らないと襲い掛かったりパニックになったりする。逆十字で魔王軍の紋章が入っているペンダントをしていれば、とりあえず様子見はしてくれるはずなんだ。」
ヤマト:「そんな上手くいきますかね。」
鬼・ショウ坊:「まあ…納得しない奴はいるだろうな。四天王にも微妙な奴がいるし…」
鬼の言葉に、悪魔は困ったように笑いました。
悪魔・レス:「グレイスの主でしょ?魔王様が上手く説得してくださると良いのだけれどね。」
鬼・ショウ坊:「いや、さすがに魔王様でも今回は厳しいんじゃないか?」
ヤマト:「四天王で大反対しそうな方…もしかして、ゴーレムの…」
鬼・ショウ坊:「ああ、めちゃくちゃ強い奴だ。完全な魔族ではないんだがな。」
魔女は第9戦で歴代の勇者パーティーが苦しめられてきた相手の噂を思い出しました。なぜか他の幹部9名とは異なり、文献によって容姿が大幅に違うのです。だから実際に会うまで魔女は四天王のトリを務める相手の顔についてイメージが湧かないものだと思っていました。
ヤマト:「あの」
吸血鬼:「会食ですってよ!いらっしゃい!」
その時、教会のドアが開けられて吸血鬼が顔を覗かせました。
鬼・ショウ坊:「会食~?急な話だな。」
吸血鬼:「あらあら良いの?魔王様のポケットマネーで出前を取ってもらったのに。」
悪魔・レス:「なぜわざわざ出前…まあ確かに魔王城の職員食堂よりはマシだけど。」
鬼・ショウ坊:「そ、そうだな。」
悪魔と鬼がコソコソ小声で言います。何か事情があるようです。
ヤマト:「人質とか言う割に食べさせてはくれるんですね。」
吸血鬼:「だってヤマトは成長期じゃない。」
ヤマト:「成長期…」
魔女は自分が幼女であった事を思い出しました。
吸血鬼:「もっとも、人間って勇者パーティーを見るに不摂生な物ばっかり食べてるんだろうから、魔王城で良い物を食べさせてあげようという魔王様の優しさなのよ。」
ヤマト:「不摂生…」
吸血鬼:「そういう事!じゃあ、とにかく行くわよ!」
ヤマト:「はい!」
☆ロード中…☆
魔女は吸血鬼と手をつないで廊下を歩きます。その後ろを悪魔と鬼が歩きます。魔女を吸血鬼に独占されて、何だか悪魔と鬼は変にそわそわしています。
吸血鬼:「あなた達、自己紹介はしていて?」
悪魔・レス:「うん、したよ。イターシャはまだでしょ?今の内にしておく?」
吸血鬼・イターシャ:「そうね。私は吸血鬼のイターシャ。男くさい2~5戦と7~10戦の緩衝材であり目の保養よ。四天王の初戦を飾る華とでも言うのかしらね。」
鬼と悪魔は「出たよ」とばかりに顔を見合わせて苦笑いします。
ヤマト:「異議あり!」
悪魔・レス:「ヤマト?」
ヤマト:「レスさんは臭くないので、第5戦終盤から目の保養です!」
鬼・ショウ坊:「しれっと俺をディスるな!」
悪魔・レス:「そうだよ、ショウ坊も臭くないよ!」
吸血鬼・イターシャ:「似た者同士だわ。2人して稚拙な泥臭い戦い方するじゃない。薙刀振り回すわ、椅子振り回すわ…絶対軍服も司祭服も汗臭いはずよ。」
ヤマト:「レスさんからは良い香りがするんです、ショウさんと一緒にしないでください!」
鬼・ショウ坊:「ヤマト…それ、シンプルに俺は臭いって悪口だからな!」
ヤマト:「だってショウさん、煙草臭いですもん。」
鬼・ショウ坊:「ぐっ…誤解が無いように言っておくがバカスカ吸ってるのは部下だ、俺じゃない。」
ヤマト:「別に煙草全ての匂いが嫌いというわけじゃないんですよ。貧民街で捌かれてるような粗悪品の匂いがして不快です。もう少し良い物を使わないと体に悪いと言っておいてくれません?」
鬼・ショウ坊:「…タバコは例外なく身体に悪いぞ。」
ヤマト:「でも粗悪品は危ないお薬とかでかさ増ししてあるじゃないですか。ヘビースモーカーとヤク中の境界線ってそこだと思うんです。」
鬼・ショウ坊:「まあ…うん。お前が言うなら境界はそうかもしれんが。」
ヤマト:「私、子供だからす~ぐヤク中になって理性失ってレスさんにおいたを働きますよ?」
悪魔・レス:「そうだね…身体も小さいし、毒が回るのも早くなるよね。ショウ坊の部署は…仕方ない所もあるけど、そろそろ私が軍事病院と一緒に保健指導に」
ヤマト:「村を襲撃するゴブリンの集落に武力を用いた交渉をしに行ったら、風通しの悪い洞窟の奥に集まってそれ吸ってたんですよ。何か頭痛いな~と感じてから後の記憶が無くて、気付いたら山積みになった白目むいたゴブリンの死体の上に胃の内容物を吐き戻してたんですね。」
鬼・ショウ坊:「どっちもキマってるな。」
ヤマト:「はい、明るい所に出てよく見たら左手首が半分ぐらい切れかけてました。よく痛くなかったなぁと思いながら、薬の作用が切れる前にヒールかけて治したんですけどね。」
吸血鬼・イターシャ:「よくパニックにならなかったわね。」
鬼・ショウ坊:「いや、そういう薬なんだよ。温室育ちのお嬢様には分からんだろうが、ヤバイ薬には変な興奮作用と気分が上がってそういうのがどうでも良くなる効果があるんだ。だから少数精鋭方式が始まる前の戦争で、最前線の兵士に配布されてたんだ。腕や足がちぎれても楽しそうに敵を狩り続け、目の前の相手を殺すのが楽しいと思いながら死ぬんだと。どんなヤバイ死に方してても、皆皆目を見開いて笑ってたらしい。」
悪魔・レス:「…。」
鬼・ショウ坊:「俺はその時代に生まれていたわけじゃないが、冥界に留まる爺さん達の話聞きながら思ってたよ、本当の地獄は冥界じゃなくて戦場なんだなって。」
鬼は忌々しい事を忘れようとするように、窓の外を見ました。
ヤマト:「…ショウさんは、どうしてそんな煙草を吸わないんですか?」
鬼・ショウ坊:「あ~?体に悪いからに決まってるだろうが。レスに迷惑かかるだろ。」
ヤマト:「…ショウさんって、10ボスの内で1番耐えなきゃいけないですよね?第1戦みたいに守ってくれる存在がいるわけでも、魔王様みたいに第二形態があるわけでもないですし。負傷しながら誘導しなきゃいけないって。」
鬼は「何だ、そんな事か」と笑いました。
鬼・ショウ坊:「鬼ってのは元々痛覚が鈍い種族なんだよ。傷付いてるのは目視や衝撃で分かるんだがな、他の奴らみたいに泣いたり叫んだりする程には感じない。心はその逆だがな。」
ヤマト:「ふーん…」
魔女は吸血鬼の手を離し、思いっきり鬼の脛を蹴りました。鬼はやれやれというように片眉を上げただけです。
悪魔・吸血鬼:「(ヒ~ッ!)」
※鬼とは対照的に、痛みに敏感な種族2トップ
鬼・ショウ坊:「痛みを感じにくい上にレベル差的に大丈夫だからって容赦なくやるのは道徳的にどうかと思うぞ。他の奴にはするなよ?特にこいつら2人は気絶するぞ。」
ヤマト:「ショウさんってメンタルはお豆腐なんですよね?正直に臭いと言ってしまってごめんなさい。」
鬼・ショウ坊:「お、おう…」
ヤマト:「言ったらダメだなぁと思いましたが、あまりに酷かったのでどうしても我慢できず」
吸血鬼・イターシャ:「もうそれ、わざとよね?」
☆ロード中…☆
空気が少し明るくなった所で、食堂に着いたようです。ドアを開けると、様々な料理が所せましと並べられたテーブルがどんと現れました。
鬼・ショウ坊:「これまた色々と用意してもらったんだな。良かったな、ヤマト。」
魔王・インペリアル:「だって何を食うのか知らんからな。」
ヤマト:「基本的に毒が無くて消化できる物は食べますよ。」
魔女は部屋を見回しました。
ヤマト:「ちなみに、この中で食べた事があるのは…人魚・竜・グリフォン・鬼・悪魔・吸血鬼・魔獣・狼肉ですね。」
※1~6戦・8戦ボス。
まさかの五英傑制覇に、魔王軍幹部が震えあがります。
魔王・インペリアル:「わ…我輩たちは料理ではないぞ。」
ヤマト:「はい。料理されていないという事は、今は食べちゃダメという事ぐらい分かりますよ。」
鬼・ショウ坊:「判断基準そこか?!」
ヤマト:「安心してください、鬼のロース肉がダントツで1位だと思います!知ってます?鬼って首から上と腰から下、両手首を切り落として胸をえぐった状態で後ろ手に縛り上げてロースハムにして売られてるんですよ。あれがすごく美味しくて」
鬼・ショウ坊:「その情報のどこに安心要素があるんだよ?!」
ヤマト:「燻す事で独特の肉の臭みもとれるんですよ。ショウさんも良い香りになりますよ!」
鬼・ショウ坊:「だから俺は食い物じゃねぇぞ!なっ?」
鬼は魔女から距離を置きます。それなのに、魔女はニコニコしながら鬼に近づきます。
ヤマト:「人間界近くに住む鬼って、倒すのは大変ですけど他の魔よりはるかに良質で安全性の高いお肉を得られて高コスパなんですよ。吸血鬼は血液感染を引き起こす場合がありますし、人魚・竜・グリフォン・魔狼ってデトリタス食の性質を持つ個体もいますし、食用として出回る低級悪魔に関しては毒を体内で生成する個体が半分近く占めているんですよね。そうだったら、毒を持たずちゃんと肉を加熱調理して食べる鬼がどれだけ安全かというお話ですよ。毒素濃縮の問題はありますが」
鬼・ショウ坊:「分かった!分かったから、もうこれ以上近づくな。」
~黒魔女の魔族図鑑④~
●【吸血鬼】イターシャ(吸血族/吸血鬼-悪魔族/淫魔)
・魔王軍の四天王の1柱で、第6戦ボス。女性幹部の1人。
・吸血鬼の要素を色濃く受け継いでいるが、少し淫魔の血も入っているハイブリッド。魔界にある名家のお嬢様で、身に着けている物は全てブランド品。おしゃれや美容といった自分磨きにしっかりと時間をかけており、勇者パーティーという人間代表に「魔=強い」というより「美しい」というイメージを持たせる事が真の役割だと思っている節がある。靴のヒールと意識は高め、自己顕示欲は強め。
・とある事故のせいで「四天王最弱」と人間界で噂されているが、侮ってはいけない。美しい女は強く、賢く無駄の無い戦い方をする。レスの魔法攻撃が相方と一緒に「暴れる」タイプだとしたら、イターシャの魔法攻撃は洗練された「芸術志向」タイプ。
・上から目線の「お姉さん」な振る舞いをするが、実は魔王軍幹部の中では人魚のイブキ・鬼のショウ坊に次いで若い。
(ヤマトめも)
・一般によく言われているものの大半が弱点として当てはまるはず。日光には確定でダメージ受ける。ただ聖水は「ただの水じゃない」「レスが施設維持費のために捌いてる液体でしょ」と言っていたので多分効かない。逆十字のロザリオが揺れて上下逆の十字架になった瞬間も動じなかったので、そこまで効かないと思う。
・香水がちょっときついけど、割と好きな香りではある。
・しっかり巻かれたブロンドヘアに白い肌、すっとした鼻筋にぱっちりしたオッドアイが羨ましい。秘密結社幹部の愛人っぽい見た目なので、暗に魔王とか他の幹部メンと出来てるか聞いたら「公私は分けるタイプなのよ」と濁された。