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0.プロローグ(後)

(前回のあらすじ)

・主人公・ヤマトは黒魔女の判決を受けた▼


・異端審問官「君は悪魔と深く通じてしまったようだね」▼

・異端審問官のセクハラ!ヤマトの乙女心に100のダメージ!▼

・ヤマトは状態異常【悪魔が初めての相手だという激しい思い込み】を起こした!▼


・ヤマトは悪魔を召喚した!▼

・ヤマトは処刑台で死んでしまった!▼


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 ??:「おお、ここで死んでしまうとは情けない。」


 何やら爽やかなイケメンボイスが聞こえたので、彼女は目を開けた。

 パイプオルガンの音が響く切り取られた空間に、色とりどりの澄み切った色が照射される。


 ヤマト:「教会…」

 起き上がり、彼女は自分が棺の中で寝ていた事に気付く。


 ??:「えっと…待って、君は…人間じゃないかな?」

 声のした方…というより、不自然に発生した噴き出しの出所を向くと、黒山羊の角と耳の生えた塩顔青年が困ったような顔をしていた。眉をハの字にさせながらも柔和な笑みを崩さない所が、彼の温和な性格を表しているようだった。


 ヤマト:「え、人間ですよ?」

 コスプレでなければこの白い神官ローブに身を包んだ青年は悪魔という事になる。


 ヤマト:「え、もしかしてあなたは悪魔ですか?」

 悪魔:「うん、そうだよ。私はこの教会の主の悪魔なんだけど…えっと、普段は魔族の蘇生が仕事で、いつもみたいに魔族がケガして来たのかなぁと思って蘇生したんだ、け、ど、な~?」


 悪魔が困る反面、彼女はこう思っていた。

 ヤマト:「(神引き来た!)」


 塩顔・細身・神官(穏やかな笑顔オプション付き)は、彼女の中でモテる部類の男、つまり魅力的な男性なのである。この悪魔はそれを十分すぎる程に満たしている。異端審問官という神官にレイプされる前に、彼に身も心も捧げたのだとしたらそれは人生の出来として問題無いはずである。

 人生というか、もう彼女は一度死んでいる。が、前世にやるべき詠唱は完結させていたので、今世最初に彼女の前に現れた悪魔族の男こそがランダムに選ばれた者である事は確実だ。


 ヤマト:「そうか、私の相手は神官なのか!」

 神官は普通、神に仕え全てを差し出す者。そんな者に手を出したという事は、人間の神にも魔族の神にもケンカを売っている事になるのだから、あのような裏切りと処刑の最期を迎えるのも決しておかしくはないのだ。


 悪魔:「えっと…えっ、どういう事、か、な?」

 ヤマト:「私、記憶に無いけどあなたと通じて黒魔女になりましたっけ?」

 傍から見れば「うざい」と言われかねない勘違い系の質問である。


 悪魔:「…え?やっ…私はこの魔王城に仕える公務員だからそういう民間企業の営業職じゃな、い、か、な~。法律違反になっちゃうんだよね。」

 ヤマト:「公務員ですって?!」

 これは彼女の中でさらに好感度が上がってしまう要素である。濡れ衣ではあるが、自らが公務職にして兼業で不当収入を得ていたと糾弾された彼女から見て、堅実な生き方をしているこの悪魔は尊敬にも値する。


 悪魔:「えっ…うん。あれ、人間界にも公務員っているんだよね?」

 ヤマト:「はい!」


 悪魔:「うん、だよね…ああ、私は今何をしてるんだろう。そもそも人間が魔界の教会、しかもよりによってゴールである魔王城の敷地内にリスポーンするというあり得ない事が起きてるんだよなぁ…落ち着け、私。」

 悪魔は数十年ぶりの困惑に動揺し、制帽から垂らした横髪をいじった。髪と合わせた色の爪は、悪魔にしては短く切り揃えられている。魔女はそこも見逃さなかった。乙女ながら相手の見るべき点は抜かりなく、ちゃっかりしている。


 ヤマト:「ここ、魔王城なんですか?」

 彼女は、そういえば彼は魔王城で働いていると言っていたなと思い出した。

 悪魔:「うん、そうだね。」


 ヤマト:「あ~…それで、いきなり話者の言葉が名前と一緒に空間に浮かび上がっているんですね。これが噂に聞くRPG仕様…」

 魔女は、そろそろ噴き出しが邪魔に感じてきた。

 悪魔:「そういう事。」

 魔女は、自分が目覚めてから地味に気になっていた事が解決してスッキリした。悪魔はさして気にしていないようなので、慣れなのだろう。


 ヤマト:「あなたは『悪魔』とだけ表示されていますね。」

 悪魔:「君には名乗ってないから、お互い相手の事は『悪魔』か『人間』って表示だろうね。私は魔王・四天王に次ぐ五英傑の1人として一応フロアボスをしてるから勇者パーティーからは名前が見える仕様なんだけどね。」


 ヤマト:「私の名前、ヤマトです。黒魔女です。」

 悪魔:「教えてくれてありがとう…と言って良いのか分からないけど、一応私側からは『ヤマト』って表示されるようになった。」

 随時更新されるんだなと魔女は学んだ。


 ヤマト:「良ければあなたの事も教えてください。」

 悪魔:「私?そう…だね、私を倒せば四天王・魔王戦になる存在…第5戦のエリアボスだよ。知って…る?」

 魔女は自らの記憶の中からこの悪魔の正体を特定した。


 ヤマト:「(人魔戦争の第5戦ボス【白黒を問う悪魔】レス・キュー…五英傑最強にして、第4戦ボス【鉄の火車鬼(パンデモニックオーガ)】ショウ坊とタッグを組み歴代勇者を苦しめてきた悪魔。悪魔でありながら白魔法も使い、またヒーラーでありながら攻撃魔法も容赦なく撃つ、2つの顔を持つ。これまでの分析から、弱点は腰から下への連続した物理攻撃で、体勢を崩した所で魔器官の核を破壊し倒すというのが正攻法だとされている…まあ、近づければ、だけどね。)」


 ただ、それはあくまでも敵として見た視点である。

 今の彼女にとって、目の前の悪魔は「男」でしかないのだ。だから、正攻法として彼女は「褒め殺す」事にした。


 ヤマト:「へ~、お兄様はとても強いのですね!」

 悪魔・レス:「(あっ、分からなかったんだ…まあそうだよね、最後に勇者が来たのって数十年前の話だし、この子かなり若いし。)」

 ※かなり詳しい所まで特定されています


 悪魔・レス:「お兄様…というより君からしたらお祖父ちゃんのずっとお祖父ちゃんなんだけどね。」

 ヤマト:「え~、全然見えません!爽やかなお兄様じゃないですか!」

 悪魔・レス:「悪魔は歳取らないからね。」

 魔女が慣れぬ事をしているせいなのか、はたまた年の功というやつなのか、悪魔は動じない。なるほど一筋縄でいかない相手である、と彼女は思った。


 ヤマト:「じゃあ私は範疇外だと」

 悪魔・レス:「範疇って…君は悪魔との闇契約を恋愛結婚か何かだと思ってないかな。」

 悪魔はツッコミを入れながらも「いや、そうじゃない」と思い直した。


 悪魔・レス:「ところで君はなぜこんな場所にリスポーンしたんだい?」

 彼女は自分の目論見を話した。



 ~ ~ ☆ロード中(悪魔教会/魔王城/魔界)☆  ☆☆ ~ ~



 悪魔・レス:「…つまり、君は悪魔と契約を交わした黒魔女で、自覚は無いけど純潔を捧げた相手を探していた。そして前世、処刑前に君が詠唱した悪魔族の男性という条件の下ランダムスポーンする呪文で私が選ばれたわけだね。」


 ヤマト:「はい!だからお兄様が私の契約相手であってくれれば良いんです。」

 悪魔・レス:「いや…無理、だよ?悪いけど…他を当たってくれないかな。」

 ヤマト:「…。」


 悪魔・レス:「追い打ちかけるようで悪いけど、魔界の法改正で人間との契約事業は自営業として申請が必要になったんだよね。数とか質によっても納税額が替わる事もあって、『はい、自分が力貸しました!』って虚偽の申請をした時に力を貸してない事がバレたら後でかなり大変な事になるから、最近は話を合わせてくれる悪魔なんていないかも。昔はそういうのが横行してたけど。」

 ヤマト:「…。」


 答えが返ってこないので悪魔は魔女の方を見た。

 ヤマト:「…。」

 魔女は頬を膨らませていた。


 悪魔・レス:「いや!だから民間事業じゃなくても私は勝手に人間と契約」

 ヤマト:「…。」

 悪魔・レス:「あのね…私にも事情というのが」

 ヤマト:「…。」


 悪魔は長年魔王城でヒーラー兼司祭として多くの信者を癒し寛い心で見守ってきたため、たとえ人間であったとしても情がわいてしまった。聞けば彼女は、疎まれ嵌められてきた不遇な人生を送っていたというのだからなおさらだった。

 悪魔・レス:「…そんな顔をしないでほしいな。」


 ヤマト:「せっかくお兄様の元に来たのに。」

 悪魔・レス:「君が来た、というより私が君の魂の前に現れたという事が起きたんじゃないかな。この棺、死後に魂が強制転送される空間にある出口の1つだもの。君がその呪文を唱えた事によって悪魔の存在しない天界(天国)と人間界の出口が封鎖された。ちょうど私は棺の前にある祭壇の掃除をしていたから、他の出口から最も近い悪魔として消去法で選ばれた。そんなものだよ。」


 確かに、と彼女は納得した。

 ヤマト:「お兄様が私を選んで」

 悪魔・レス:「話聞いてた?」


 ヤマト:「運命が私達を引き合わせたのですね!」

 悪魔・レス:「いや、まあ、うん…そうとも言えるけれども。」

 悪魔は頭を抱えた。そして、思い出した。

 魔王軍幹部として人間は憎き存在。長きに渡り戦争をしてきた敵だからこそ、彼が今まで歴代の勇者パーティーに対してそうしてきたように殺すか、スパイである可能性などを考えて捕まえて魔王に引き渡すか…彼は処理に困っていた。


 ??:「レスいるか~?」

 その時、ドアが開き、燃えるような赤髪の男性…オーガが現われた。


 普通、鬼と言えば2メートル程の筋骨隆々で肌の色が赤褐色~深緑色、そして頭部に角・口元に鋭い牙という目立った特徴だが、彼は大柄な体格と角・牙以外はそこまで人間と変わらない容姿である。

 というのも、彼は人間を襲う魔王軍に属するタイプの鬼ではないからだ。魔界と冥界(地獄)を合わせた暗黒領域の内、人間が一般に鬼と呼ぶのは前者に生息する種。彼は後者に生息する種に分類されるため、特徴が異なるのである。


 鬼:「お~いるな。レス、暇なら飲みに…」

 鬼はずかずかと近寄る。2メートルを優に超える彼と並ぶと、細身の人間とほぼ同じ体格の悪魔は子供に見える。


 ヤマト:「(魔界の鬼とは違う…もし間違ってなければ、彼は【鉄の火車鬼】・ショウ坊。悪魔レスの前に出くわす五英傑の1柱。)」

 魔女の視線に気づいたのか、鬼と魔女は目が合った。


 悪魔・レス:「あ~えっとね、今は」

 鬼・ショウ坊:「ん?何だこの女…人間か?!」

 ヤマト:「(あ、やっぱり第4戦のエリアボスだ。)」

 名前が表示された。魔女の読みは当たっていたようだ。


 悪魔・レス:「そ、そうなんだよ…」

 悪魔が言うと、鬼は魔女の顔を覗き込んでから赤子のように持ち上げた。

 鬼・ショウ坊:「なぜだ!俺の所には来てないぞ!」


 悪魔・レス:「それが、ここにまっすぐリスポーンして…」

 鬼・ショウ坊:「はあ?!」

 悪魔より先に人間と闘う役目であるこの鬼が反応するのももっともな話である。


 ヤマト:「リス地がここに設定されました、人間の魔女です。どうも。」

 鬼・ショウ坊:「あり得んだろ!おい!他に伏兵がいるんじゃないのか?!」

 鬼が片手で魔女の襟首をつかみ、反対の手で抜刀して辺りを見回す。


 鬼・ショウ坊:「…いない、な。気配を感じない。」

 悪魔・レス:「ショウ坊が言うならそうだろうね。私も彼女や他から全く敵意を感じない。」

 悪魔は「教会の中だから」と鬼に剣をしまうよう、手を載せた。


 ヤマト:「敵意なんてありません!私、レスさんと契約したいです!強いし、公務員だし、塩顔でカッコイイし、イケボだし!」

 悪魔・レス:「(ショウ坊が呼んだせいかもしれないけど、私の名前知ってるじゃん…)」

 鬼・ショウ坊:「強い以外全くもって強調する意味が分からんな。人間なら俺達を見て怯えろよ。」

 鬼は至極最もな言葉でばっさりと切り捨てたので、悪魔は色んな意味で相方的な存在であるこの鬼に感謝した。


 悪魔・レス:「ショウ坊、良い所に来てくれた。魔王様に報告を。」

 鬼・ショウ坊:「ああ、そうだな。」



ここまでお読みいただきありがとうございます。

次から本編なので、ナレーター交代して敬体に、台詞表示の仕様も変更になります。

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