【別】 その頃、勇者たちは…
今回も短めのお話です。
その頃、勇者達は各国の王・首脳の会議に参加していました。参加者の皆の顔は険しく曇っています。
それもそのはず…。
「さすが勇者パーティーにいただけの実力者…悪魔を召喚するフリをして自らの死体を悪魔の前にテレポートさせるとはな。」
勇者:「申し訳ございません、皆さま。俺…いえ私達が不甲斐ないばかりに!」
剣士:「せめてヤマトが闇落ちする前に説得出来ていたら…!」
聖女:「いいえっ、ヤマト姉様が闇落ちする予兆に気付いて私が声を掛けていれば…!」
賢者:「ここしばらく1人行動をしたがっていた時に、ずっと尾行すれば良かった…異性だからって遠慮していたんだ。」
各メンバーは虚偽の涙を今にも流しそうな勢いで言います。一部の権力者たちは、某魔女の濡れ衣が勇者たちと異端審問官によって作られた虚偽の事実だと知っていますが、楽しんでいた自分もいる以上黒魔女であった事が事実だったという設定のまま黙秘を決め込んでいます、
「死体を悪魔の前に転送したとして、その悪魔が彼女を蘇生またはアンデッドとして使役し、人間に害を及ぼす事は?」
賢者:「あのコスト系呪文の長さからするに契約相手は上位悪魔…ともなれば魔王軍のポスト的立場である可能性は高く、おおむねあり得るでしょう。それに悪魔は人間の情というものを理解しています。私達の前にかつての仲間を出し、攻撃を躊躇させている間に攻め入るという卑劣な手も使ってくるかもしれません。」
そうは言いつつも「ヤマトを見つけた時には口封じのために確実に仕留めなければならない」と勇者たちは心に決めていました。
「そうか…心苦しいとは思うが、容赦なく殺ってくれ。相手はもう黒魔女で、しかも理性が無い状態なのだから。」
勇者一行:「はっ!」
そのニュースは、人間界中に広まりました。新聞やポスター、掲示板などあらゆる場所でお知らせが出回りました。
それは、人魔戦争に関して中立を貫いてきた人魔が共生する集落にも届いたのです。
「黒魔女ヤマト…って、あのヤマト様?!」
「えっ、えっ?!勇者パーティーって事は、確実にあのヤマトの姉さんだろ?!」
「そもそもあのお方は白魔女だったはず…何で黒魔女なんかに?!」
「悪魔の力なんか借りなくても十分強いのに?!」
その集落のある勢力は様々な理由でその魔女の事を大事に思っていたからさあ大変。
「絶対に人間軍は何か勘違いをしている!」
「ヤマトが悪魔なんかの力を借りるメリットなんて無い!」
「でも人間がヤマト姉様を処刑し、姉様の深いお怒りにより上級悪魔が召喚されたらしいです!それと同時に姉様が絶命された…だから姉様が悪魔の前にスポーンなさったはずです!つまり悪魔が姉様のご遺体を所持している絶望的状況!」
「許すまじ!ヤマト殿を冒涜するような人間界・暗黒領域は、共に制裁を受けよ!」
そして今、ここで勇者パーティーを中心とする人間軍・暗黒領域以上の進出を目論む魔王軍に加え、今まで傍観を決め込んでいた第3の勢力が変な方向に動き出してしまうのです。
その第3勢力の名は…。
☆ロード中…☆
「お忙しい中お集まりいただきました皆様…我々は今まで人魔戦争を嫌い中立を貫いてきた平和主義者でございます。しかしながら、我らの誇りであるヤマト様の尊厳が今、失われている!諸悪の根源たる人間界とヤマト様を良いように操ろうとする暗黒領域を赦すわけにはいきません。よって、結成せし我らは!」
「『ヤマト救出パーティー』!」
怪しげな会合に集まった者達は、グラスを高く掲げて宣言します。
「既に手はずは私の方で整えてございます。両陣営にバレぬよう、順番が回りました時ご本人のみに私がお伝え致します。」
「待たれよ、黒子殿。」
「はい。」
男性の低い声に、それまで場を取り仕切っていた女性が少し不機嫌そうに返事します。
フードを目深に被っていますが、女性の灰色に塗られた唇はぎりっと噛みしめられている事から、男性との関係はかなり険悪なものだと伺えます。
「それでは少々貴殿の責任が重くは無いだろうか。」
「…何を仰るかと思いましたら。」
「落ち着いて、レンジョウ。私も…思う所はあるけれど、事実黒子が1番ヤマト姉様の事を分かっているし、計画も上手いし手引きする力だって信用できるじゃない。」
隣の若い女性が「レンジョウ」と呼ばれた男性に言いますが、「黒子」と呼ばれた女性はなおの事苛立ちを募らせました。どうやらこの女性ともあまり仲は良くないようです。
「…ご不満でしたら、ご勝手にどうぞ。そのせいでヤマト様に危険が及ぶ事だけは絶対に赦しませんから。」
「シュバルツ、落ち着いてくれ。レンジョウ、君は言い過ぎだ。」
別の席に座っている若い青年が両方をなだめます。どうやら女性には「黒子」と「シュバルツ」という2つの呼ばれ方があるようです。
「すまないね、シュバ。続けてくれ。」
またも別の席にいる若い女性が言うと、少し落ち着きを取り戻したのか、シュバルツは話し出しました。「シュバ」と親し気に呼ばれている事からするに、「シュバルツ」が本名のようです。
「…順番ぐらいはお話しておきましょう。」
「ごめんねぇ、シュバ。気を遣ってもらって。」
「いえ、全てはヤマト様のためでございますから。」
シュバルツはすぅと息をつくと、青年を示しました。
「まず、この中の面子としましては1番…」
次に、なだめてくれた若い女性を示します。
「2番。」
そして最後に、険悪な関係の2人を示します。
「3番、です。」
「…ほら見た事か。」
「随分と嫌われてしまったようですね。」
「憎まれ口を叩くんじゃないよ、レンジョウ、リンカ。自業自得じゃないか。」
2番目の女性が言うと、2人は黙ります。
「気になったのだけれど、シュバルツ自身は良いのかい?」
1番目の青年が聞くと、シュバルツはゆっくりとうなずきました。
「さすがのヤマト殿も黒子殿の力には抗えないぞ。」
「…良いのです、私は。」
「そうは言っても…君はこの中で1番ヤマトの傍にいるべきじゃないのかい?」
青年の言葉に、シュバルツはふっと笑いました。
「ヤマト様は仰いました。私に『自由に生きてよ』、と。ヤマト様のいない世界で、幸せになってほしいと。ヤマト様に頼る事が無い時に、ヤマト様のお傍にいてはきっと足枷になってしまいます。」
「そんな事は無いと思うけどな~、よっぽどあたしの方が足枷だろ。」
「…私がどんなにお慕いしようと、この気持ちは全て契約故のものだとヤマト様は仰います。それに私は醜い存在でございます。本心かどうかも分からず理性を貫き通せずに、私は無意識に能力を使ってヤマト様をどうにかしてしまいそうなのです。」
自嘲の笑みを浮かべるシュバルツに、その場は重い空気のまま解散しました。
シュバルツ:「ヤマト様は高貴なお方…俗にまみれた人間界・暗黒領域への報復など望んでいらっしゃらないのです。そこまでの関心が向けられるなど笑止…しかし、共通の敵を作って煽らなければあの面倒な集団はまとまらないのです。」
シュバルツがフードを取り払うと、艶やかな黒髪から長い褐色の耳が現われました。
シュバルツ:「どうかこの不器用なダークエルフをお許しくださいませ。」
彼女は何やら呪文の描かれた指をパチンと鳴らしました。
シュバルツ:「すべてはヤマト様の幸福のために。」
固有名詞は現段階で別に覚えなくても良いです…というか、忘れた頃にやってくるようにしますね。