13.「お下がり」を装備できるようになった!▼
魔王城にある職員寮の一室。今日新しく出来た部屋で、ボロボロの服装をした屈強な男の鬼と高齢の悪魔が床に正座させられています。
吸血鬼・イターシャ:「【鉄の火車鬼】ショウ坊、【白黒を問う悪魔】レス、何か言いたい事は?」
鬼・ショウ坊:「…俺達がヤマトを襲っていると思ったのなら誤解だ。」
人魚・イブキ:「それは未遂だったから?」
悪魔・レス:「未遂というか…」
ヤマト:「2人がかりで教え込まれていました。」
鬼・悪魔:「(言い方!)」
吸血鬼・イターシャ:「へえ~…ふぅ~ん?」
吸血鬼が空中で手のひらを広げると、そこにぱっと書類が現われました。
鬼・ショウ坊:「いっ、いや!あの!待ってくれ!」
悪魔・レス:「ヤマト、省略しないでちゃんと説明して!」
ヤマト:「ええと…」
人魚・イブキ:「怖かったよね、大丈夫。私達から話を通してこの2人が近づけないように部屋を変えてもらうからね。正直に話してほしい。」
ヤマト:「(『怖かった』…あ、そっか!)」
人魚がベッドまで行き、魔女の背中を撫でます。
ヤマト:「レスさんの主張を結論から言うと。」
鬼・悪魔:「(頼む…)」
ヤマト:「レスさん達(魔族・魔物)は恐ろしい存在なので、ちゃんと怖がって軽率な言動は控えましょう、って事です。それを教えたかったみたいd」
吸血鬼・イターシャ:「その方法で恐ろしさを教える必要なんてあって?第一、私達は魔王軍幹部で暗黒領域の軍事的代表なのよ!強さという誇りをこんな卑劣な方法で貶めるのかしら、五英傑最強さん?ヤマトの言う通り、『五英傑最強』ではなく『魔王城最弱』と名乗ってはいかが?」
悪魔・レス:「いっ、いやっ!だから違うんだって!」
吸血鬼に詰襟をつかまれ、悪魔は首を左右に振ります。
人魚・イブキ:「ショウ君も何で止めずにレス君を手伝ってたの?お友達が間違ってる事してたら止めなよ!」
鬼・ショウ坊:「いや、だからレスはお前達が思ってるような事は」
ヤマト:「そうですよ、ショウさんは『死んだらお姫様みたいにキスして起こさないと』って言ってました!」
鬼・ショウ坊:「タイミングがおかしいだろ!」
吸血鬼・イターシャ:「冥界にも報告するわよ!」
鬼・ショウ坊:「だから誤解だって!ああっ、ペンを下ろせ馬鹿!」
☆ロード中…☆
そうこうして鬼と悪魔は何とか誤解を解く事に成功しました。
鬼・ショウ坊:「まったく、一時はどうなる事かと思った。」
悪魔・レス:「そうだねぇ、ああまだ動悸が…」
悪魔は心労でぐったりとベッドに上半身を預けています。魔女がチャンスとばかりにその白い腕をつんつんしていますが、それに抵抗する程の気力はなく、されるがままになっています。
鬼・ショウ坊:「レスはまだ良いだろ、蘇生資格を持ったヒーラーは魔王城にお前1人だけだし、減給程度で済みそうだが…俺はいくらでも替えが効くからな。」
悪魔・レス:「そんな事は無いと思うけどな…不死鳥の防災車をあれだけ速く乗り回せるのってショウ坊ぐらいじゃない。大会で何度も優勝してるんでしょ。」
鬼・ショウ坊:「大会2位の副長、盗撮疑われて冤罪だったけど1回でも警察沙汰になったってだけで信用問題だからって治安悪い所に左遷されたらしい。」
悪魔・レス:「うわぁ…」
鬼・ショウ坊:「あの後俺はしばらく電車に乗らずに砦までワープ使ってた。酔うから嫌いなんだがな。」
悪魔・レス:「あ~あの時ねぇ…」
鬼・悪魔:「世知辛い世の中だ…」
人魚・イブキ:「その副長さんには同情するけど、さっきのレス君とショウ君は黒だって言われても文句言えないよ。イターシャちゃんとヤマトちゃんに感謝しなきゃ。」
人魚が大きな紙袋をどすんと置きます。
鬼・ショウ坊:「何だ、その大荷物。」
吸血鬼・イターシャ:「ヤマトのためにお下がりを持って来たの。巨人族サイズだったり臀部に風穴が空いてたりしたら可哀想でしょ。お胸とお尻は人間にとって大事な部分なのよ。」
鬼・ショウ坊:「そう…だな。」←巨人族サイズのS着てる鬼
悪魔・レス:「そう…だね、うん。風穴、か…」←尻尾用の穴空いてる服着てる悪魔
ヤマト:「お尻を出した子1等賞!」←???
鬼・ショウ坊:「レスの顔の前にケツを出すな、ケツを。」
悪魔・レス:「もう良いよ、好きにして。」
顔の近くで丸まられても、悪魔はぐったりしたままです。
それを良い事に、人魚までも悪魔の上にぽいぽいと服を投げていきます。
人魚・イブキ:「イターシャちゃんの服も私の服も基本的に背中が開いてるんだけどねぇ、それは上着を買えば隠せる事だから。さ~て、パジャマどこに入れたっけなぁ…断捨離したの、数年前の話だし忘れちゃったんだよねぇ。」
鬼・ショウ坊:「上から引き出すにしても探し方が雑過ぎないか?!あとレス、少しは抵抗しろ!」
悪魔・レス:「…。」
服が積み重なった下から弱弱しく悪魔の手が挙げられます。
鬼・ショウ坊:「ああもう!しっかりしてくれ!」
鬼が悪魔の腰をつかんで引っ張り出します。
人魚・イブキ:「ちゃんと分類しながら投げてたのに。ショウ君、レス君を避けたらこっちもお願い。」
鬼・ショウ坊:「お前がレスを避けて投げるべきだったんだがな。」
そう言いながらも悪魔を椅子にもたれかけさせ、鬼は紙袋を受け取ります。
吸血鬼・イターシャ:「黒魔女の服と言えばゴス系。女の子だからロリィタの甘い要素も入れてゴスロリ。ゴスロリと言えば重ね着。ベストなりボレロなりで隠せば良いのよ。」
吸血鬼がブラウスを魔女の身体に当てます。悪魔も椅子にぐったりと顔を載せながら見ています。
悪魔・レス:「なるほどね、人間にとっては肌寒いだろうし、温かい上着は絶対着るものね。」
吸血鬼・イターシャ:「そうね。アクセントとしてこのリボンタイとか逆十字ロザリオのペンダントとかどう?レスと一緒なら、シスター風のお洋服でも聖歌隊風の制服でも良いと思うのよね。」
悪魔・レス:「ロザリオは護身用の物を既に持たせてるんだけどね。ほらそれ。」
吸血鬼が魔女の首にかかっているロザリオを持ち上げます。逆十字のモチーフなので、人間が吸血種狩りに使っているような十字架とは異なり吸血鬼には効きません。
吸血鬼・イターシャ:「あら、長さを何とかなさいよ。長いばっかりじゃださいわよ。」
悪魔・レス:「応急処置に私が普段使いしてるやつだからね。そもそもそれは実用向きなのであって、オシャレ目的じゃないよ。」
鬼・ショウ坊:「普段着か?何かそれらしくなってるじゃねぇか。」
その時、紙袋をあらかた探し終わった鬼と人魚が来ました。手にはもこもこのパジャマが握られています。
吸血鬼・イターシャ:「そうよね!普段は教会にいるんでしょうし、色を抑えているのよ。」
鬼・ショウ坊:「一時期、冥界でこういう服装が流行ってたぞ。顔真っ白・口真っ赤で目の周りをどぎつく黒で囲う化粧して…ええと、ゴスパンクって言ってたな。」
吸血鬼・イターシャ:「パンク要素は無いわよ。」
鬼は「それもそうだな」と納得しました。
吸血鬼・イターシャ:「それにね、ほとんどのお下がりはさっき実家から使い魔に転送してもらったお洋服だから、一般市民の女の子が全身揃えるにはお小遣いじゃ足りないわよ。」
鬼・ショウ坊:「ハッ、誇り高き吸血鬼一族とやらのご令嬢がどうのこうのって言い出すんだろ!多数派の一般市民に見分けつくわけないだろ。ほぼ同じなんだったら安い方が良いじゃねぇか。」
鬼は肩をすくめました。
吸血鬼・イターシャ:「はいはい。」
ヤマト:「そんな大事な物を私なんかが貰っても」
吸血鬼・イターシャ:「良いわよ、私は兄妹の紅一点だもの。あげる子なんていなくてよ。」
鬼・ショウ坊:「姪が欲しがっても知らないぞ?」
吸血鬼・イターシャ:「お兄様たちが甘やかすから、姪ちゃんはお下がりなんて嫌がるような子なのよ。」
鬼・ショウ坊:「とんでもないガキだな。俺なんか5人兄妹の3番目で、『お前が最後の息子だから』って黄ばんだシャツ使い回しだったからな。4番目の妹は新品なのに。」
人魚・イブキ:「それは普通に可哀想。」←一人っ子
人魚は心から鬼に同情しました。
鬼・ショウ坊:「俺もレスの所みたいに兄と歳が2世紀離れてたら良かった。」
ヤマト:「レスさん、兄弟がいるんですか?」
悪魔・レス:「うん、弟が1人。」
ヤマト:「確かに長男って感じがします!」
鬼・ショウ坊:「2世紀も開いたら長男の感覚じゃないと思うがな。」
悪魔・レス:「そうだね、私も社会人だったし、多忙な両親に代わって私が保護者をしていたかな。弟が自律するまで実家から出なかったし、実の親より親をしていたと思う。」
ヤマト:「ちょっと今ので弟さんに嫉妬した私は末期かもしれないです。」
悪魔・レス:「本当にね?!」
(ヤマトめも)
・イターシャさんは、魔王城の事務全般のお仕事をやっていて、四天王という事からも人事においてもすごい影響力があるみたい。だからレスさんもショウさんも逆らえないね。
・ここで出てきたレスさんの弟…もし次章もその次章も無事に続いていれば出てくるはず!
・イターシャさんの兄とかショウ坊さんの兄妹は今のところ未定。