11.鬼の洞察力が2上がった!▼
魔王を先頭に、魔女、悪魔・鬼の順で4人は廊下を歩きます。
魔女は自分が勇者達に「用事があるから来てほしい」と裁判所まで案内された時を思い出しました。あの時は聖女だけが裁判所で待っており、勇者・剣士・賢者の男性3人に、まさにこの並びで連れ出されたのです。
ヤマト:「(あの子が前を歩くのはいつも通りとして、あの2人が私の後ろを歩いていたのは、私が何かを察した場合に逃げられないよう囲んでいたんだろうな。今なら分かる。)」
魔女が我ながら鈍すぎたと苦笑いしているのに気づき、魔王が振り返りました。
魔王・インペリアル:「何を笑っている?」
ヤマト:「いやぁ?…私の敗因は勇者パーティーを見くびっていたのかもしれないなと思って。」
魔王・インペリアル:「それ、我輩たちが負けた時の台詞だからな?って、いや負けるつもりはないが。」
鬼・ショウ坊:「何か…あれだな、初戦で主人公に負けた自称実力者ポジが作者の都合のために解説させられてそういう事言うよな。」
悪魔・レス:「それだ!」
魔王と悪魔は鬼の言葉にいたく同意しました。
ヤマト:「どうも、勇者パーティー初戦敗退モブです。」
鬼・ショウ坊:「初戦つってもやり口が卑怯すぎるけどな。まあ、勇者パーティーがストレスのはけ口のために民衆と一緒になって仲間を見捨てる奴らだっていう事は分かった。」
悪魔・レス:「そうだね、変な言い方だけどいつもより殺意は高め。」
魔王は興味深そうに片眉を上げます。
魔王・インペリアル:「レスがそのような事を言うのは珍しいな。大体留めはショウ坊に任せるのに。」
悪魔・レス:「ふふっ、仲間割れしやすい集団ってデバフを1人にかけても、他のメンバーがその1人に気を取られにくいからするだけ無駄ですね。私の戦績は平均2キルですが、今回は対戦回数を増やしてでも4キルを目指します。」
鬼・ショウ坊:「おう、じゃあ俺も5キルを目指す。」
魔女はそんな3人をキラキラした目で見ていました。
やがて、魔王は足を止めました。
魔王・インペリアル:「こっちがレスの部屋、で、こっちがショウ坊の部屋だ。」
各ドアの前にプレートがかかっています。
ヤマト:「2人の部屋は正面じゃないんですね。斜向かいなんだ。」
鬼・ショウ坊:「ああ、俺の隣が転移室だからな。」
悪魔はしげしげと自分の部屋の前のドアを見ています。
悪魔・レス:「…転移室のダイヤルが増えていますね。」
鬼・ショウ坊:「ホントだ。この黒いダイヤルがヤマトの部屋に行くための?」
魔王・インペリアル:「ああ、そうだ。お前達の部屋の奥に内ドアを造ってあるから、ヤマトの部屋に行く時は、その内ドアのダイヤルもこれと同じに設定してくれ。」
ヤマト:「分かりました、レスさんとショウさんの部屋からはこれと同じに設定」
鬼・ショウ坊:「なぜお前が俺達の部屋にいる事前提なんだ。」
魔王はため息をつきました。
魔王・インペリアル:「内ドアは、お前達が非常時にヤマトの部屋へいつでもアクセスできる、つまりヤマトを常に監視できる環境にするために設定してあるのだ。だから私室にヤマトを入れるんじゃないぞ。」
悪魔・レス:「承知しました。」
魔王・インペリアル:「ヤマト、お前はここから私室に出入りするのだ。絶対だ!」
魔王は転移室を指します。
ヤマト:「トイレとお風呂が別々で、完備されてるならそうします。」
魔王・インペリアル:「…お前は自分の立場を分かっているのか?」
ヤマト:「もしかして今更イターシャさんかイブキさんの部屋の近くにしなかった事を後悔してます?」
鬼・ショウ坊:「俺達の部屋に風呂・トイレ借りに来るつもりかよ!」
悪魔・レス:「えっ…そういう事?!」
魔王・インペリアル:「(鬼族は魔族の中でも危険察知に秀でた種族だが…この情報で察せるのはショウ坊ぐらいだろう。)」
ヤマト:「安心してください、大の時は公共の方に行きます!」
鬼・ショウ坊:「そういう問題じゃないんだが?!」
ヤマト:「魔王様、入っても良いですか?」
魔王・インペリアル:「ああ。黒に自分で合わせてみろ。」
魔女は色分けされたドアの円盤を回し、指針の先を黒に合わせました。
魔王・インペリアル:「で、円盤の穴に針を刺して固定してノブを回して押すのだ。」
魔女が言われた通りにすると、ドアの先には意外と設備の整った部屋がありました。
鬼・ショウ坊:「トイレ・バス別々で完備か。良かったな、ヤマト。」
魔王・インペリアル:「イターシャに礼を言っておけ、あいつが『女の子には絶対プライベートのシャワールームが必要ですわ!』と主張したからな。」
鬼・ショウ坊:「お~、良かったな、ヤマト。風呂場、広めにとってあるぞ。」
ドアを開けた鬼の下から浴室を覗いて、魔女は目を輝かせます。
ヤマト:「よいしょ、っと。」
魔女が鬼をくぐり抜けて浴室を見回します。
鬼・ショウ坊:「おう、成長しても十分なスペースはとってあるみたいだな。」
悪魔・レス:「そうだね。」
魔女は浴槽に入ってしゃがみました。
悪魔・レス:「うん、深さも危なくないみたいだね。安心した。」
「ここまでお湯を張ったら十分浸かるからね」と親切心で浴槽の壁を指していた悪魔の手首を魔女がつかみました。
悪魔・レス:「な、何かな?」
ヤマト:「レスさんも入って来てください。」
悪魔・レス:「…へっ?」
悪魔たちは耳を疑いました。
ヤマト:「はい、レスさんこっち。」
悪魔・レス:「え?」
ヤマト:「入ってきてくださいよ!」
悪魔・レス:「どうしてかな?!」
ヤマト:「保護者だからですよ!」
理由は意味不明ですが魔女が引きそうにないので、悪魔は鬼をちらっと見ました。鬼はため息をついてドアの前を譲ります。悪魔はおずおずと浴槽に座りました。
悪魔・レス:「で、何?これに何の意味が」
ヤマト:「レスさん、もうちょっとこっち寄ってください。魔王様も入れそうです、来てください!」
魔王・インペリアル:「はあああ~?!」
悪魔・レス:「え、ちょ…」
ヤマト:「むぅ…」
魔王は咳ばらいをしました。
魔王・インペリアル:「レスだけでなく我輩まで入る理由は無いだろう?」
ヤマト:「…入らない理由も無いですよね?」
魔王・インペリアル:「時間の無駄だからだ!」
ヤマト:「じゃあ良いです、ショウさんは入れなさそうなので、レスさんと私だけで入ります。」
魔女は立ち上がって浴室と脱衣所を隔てるドアを閉めました。
鬼・ショウ坊:「出てこい!」
その直後、鬼が開けました。
悪魔は何が起こったのか分からず、困ったような顔でしゃがんでいました。
悪魔・レス:「え…何が起きたの?」
ヤマト:「ショウさん、今から浴室に異常無いか調べるために聖歌の練習するんですから閉めてくださいよ!響かないじゃないですか!」
魔王・インペリアル:「(そうきたか…)」
鬼・ショウ坊:「そういう変な遊びは1人でやれ!レスもそんなのに付き合うな!」
悪魔・レス:「えっ…あ、うん。」
悪魔は目を泳がせました。
鬼・ショウ坊:「何でお前が目を反らすんだ。」
悪魔・レス:「(闇契約だの不健全な事だのと考えていた自分を殴りたい!)」
~黒魔女の魔族図鑑⑦~
●【亡霊騎士団長】ハース (不死族/亡霊騎士-首無し)
・魔王軍の四天王。第7戦ボスで、魔王城内の【殉職の闘技場】にて勇者達を騎士団と迎え撃つ。
・冥界が人魔戦争の魔王軍側に肩入れすると決まるなり戦闘要員として魔界に派遣され、魔王軍に入った。だからショウ坊より先に魔界にいた事になる。
・冥界では死者達の街の治安を守る自警団の訓練・統括や死者達の居住記録をまとめるなどの教職とお役所仕事のダブルワーク。今も騎士団の訓練と、魔王軍幹部という軍事的権力者としての官僚のダブルワーク。ぶっちゃけ死んでいるようなものなので過労死はしないけど、魔界の方が福利厚生しっかりしていて楽だと思っている。
・元上司の冥王も現上司の魔王も尊敬しているが、魔王の兄である冥王の部下だった事もあり魔王には部下というより世話役の視点から接している。魔王側近のカロルと息ぴったりなのもそのせい。
・失言(?)を人間界でイジられそのグッズが流行してしまったという黒歴史がある。ヤマトがプレミア付きのグッズを持っていると聞き、入手先を聞き出して潰さなければと思っている。
・デュラハンだから同僚は彼の顔など最初から無いものとして捉えているが、実は彼の愛用武器・魔剣「エクリプス」の刃には彼の首から上の姿が映るらしい。身支度をする際に彼が魔剣を眺めている理由を知っている者は少ない。
(ヤマトめも)
・ハースさんは出で立ちがかっこよくて、仕草が可愛くて、剣筋が美しい、推せるおじ様。
・騎士団長の名に恥じずハースさんの剣の腕前はもちろん強いんだけど、彼の持つ魔剣「エクリプス」のある面で攻撃を受けるとそこから腐食が始まるから注意!武器とか腕や足ならまだ良いけど、胸や頭だとかすっただけですぐ死ぬ。
・頭部は無いけど、胸とかお腹は普通の人間や亜人の騎士と同じく弱点なので倒し方は一緒みたい。
・体力とか素早さが化け物じみているわけじゃなくて、ただ剣を極めていてその魔剣の効果がすごくてさらに彼の立ち回りが上手いだけ。逆にそれだけで飛ぶわけでも魔法・魔術や特別な武術や第二形態を使うわけでも無く、魔剣と剣術だけで四天王やってるんだから、並大抵の努力と作戦じゃ真っ向から勝てないよ。