9.厄呪のゴーレムは逃げ出した!▼
【注意】 今回は非常にガイドラインに抵触する恐れのある際どい描写が見られます。
例のごとく次話で該当部分を削除したダイジェスト版にてお届けしますので、苦手な方は次話へお進みくださいませ。
※本作が15歳未満の方へのブラウザバックを推奨する設定になっている以上、もし18禁ラインに抵触してしまった場合にはすぐ変更するよう努力致しますが、きっと大丈夫なはず…(そのための深夜更新…意味あるのか)。
ゴーレム:「…魔王様の仰る通り、今まで見てきた人間とお前は違うかもしれないな。」
ゴーレムは少し口角を上げました。
ゴーレム:「話は変わるんだが。グレイス越しに聞いていたからあんたが魔王軍幹部について分析している事は分かっている。だから聞くけど、僕のデバフが特に効く人間の特徴って何だか知ってるか?」
ヤマト:「…生きている事と、魔法耐性が弱い事?」
魔女なりに分析はしてきたつもりですが、なぜか第9戦に至っては他のエリアと比べて資料が少なく、揃っていないのです。何でも、どのパーティーも口をそろえて「あの時の事は思い出したくない」「トラウマで思い出せない」と言うのです。だから魔女は、大まかにしか第9戦ボスについて分かっていない中で、彼女なりの推測を伝えました。
ゴーレム:「それは…お前の憶測か?それとも人間界で言われてるとか?」
ヤマト:「憶測だよ。」
ゴーレムは笑いました。どうやら機嫌を損ねたわけではないようです。
ゴーレム:「まあ普通はデバフなんて魔法耐性が無い奴から犠牲になるものだよな。」
ヤマト:「うん、だから今レベルが落ちても耐性は残るものなんだなぁと学んだね。」
ゴーレム:「まあ、負荷がかかって経験値が消耗されても耐性で残るやつは残るな。魔法耐性もその1つだ。で、あんたの耐性はかなり高度で、レス様とイターシャ様が5・6戦で出す通常の魔攻撃なら10数発受けても耐えきれる。魔王様の即死術は受けたらヤバイと思うけどな。」
吸血鬼・イターシャ:「まあ!かなり強いじゃない!」
ゴーレム:「はい、僕もここまでの堅い人間はかなり久しぶりに見ましたよ。僕を作った術者なんですけどね。」
魔法攻撃を得意とする悪魔と吸血鬼は、改めてこの魔女が勇者パーティーで大活躍していたんだなと思いました。
ヤマト:「ふーん…」
ゴーレム:「だが、その男ですらダメージを受けた僕のこれは耐性で防げる代物じゃない。禁術によって強化された呪いと恨みがもたらす厄は、基本的には無差別に人間を苦痛に至らしめる。でも、効きやすさはその心の状態にあるんだよ。」
ヤマト:「心の?」
ゴーレム:「悪魔族なら敏感なんだろうけど、レス様から聞いてないか?」
ゴーレムは悪魔を見ます。
悪魔・レス:「あ、やっぱりアーク君には分かっちゃった?」
ゴーレム:「一部が悪魔の肉で出来ているのでぼんやりと。」
鬼・ショウ坊:「もしかして、『闇が降りてくる』だの『小悪魔が理性を失う』だの言ってたやつか?」
悪魔・レス:「そうそう。」
魔王・インペリアル:「…なるほど、我輩の見間違いでは無かったか。」
悪魔・レス:「ええ、魔王様。」
魔女は首を傾げました。
ゴーレム:「心は普通、黒と白の2色で塗り分けられる。だが、その境目に黒と白が入り混じっている事がよくあって、その隙間を読んで悪魔族は人間を闇落ちさせる。レス様が歴代の勇者パーティーに『白黒はっきりさせろ』と仰るのはそれだ。」
ヤマト:「なるほど。」
ゴーレム:「白は本人にとって善いと思える所、黒は本人にとって悪いと思える所だ。善悪の葛藤によく天使と悪魔の比喩が使われるのは、まさに白と黒の境目を悪魔が狙っている状態だな。」
ヤマト:「ん~…じゃあ、私は白黒はっきりしていない方なんだね?」
ゴーレム:「その通りだ。」
悪魔・レス:「相対的に『はっきりしていない』というより、絶対的に全部綺麗な灰色。」
魔王軍幹部:「ええっ?!」
悪魔の言葉に、魔王達は驚きを隠せません。悪魔は苦笑します。
悪魔・レス:「普段は無害であるはずの小悪魔たちですら気が立つのも無理はありませんでした。落ち着かせましたけど。」
魔王・インペリアル:「我輩より詳しく見えるお前が言うなら間違いない。」
ゴーレム:「ともかく、そのおかげでお前は悪魔にはめちゃくちゃ狙われる代わりに、僕のデバフは効きにくい無敵状態になってるんだ。」
ヤマト:「じゃああっ君のデバフは白か黒かはっきりしてる方に反応するんだよね。どっち?」
ゴーレム:「残念だが、白も黒も反応する。はっきりしていればしているほど、な。」
ゴーレムは続けます。
ゴーレム:「白い方が多い奴は自己嫌悪に陥って苦しみ、黒い方が多い奴は背負った罪の重さだけ苦しむ。勇者パーティーってのは正義の塊みたいなものだから、僕が白い部分を黒く染め上げて罪に罰を与える。だから奴らは僕を見た途端、トラウマを呼び起こされたように無力化する。ま、生きた長さと罪の数は比例するんだし、勇者パーティーもはたけば出てくるホコリがそう少なくないわけだ。」
ヤマト:「ふーん…」
ゴーレム:「聞きたがってた割に反応薄いな。」
ヤマト:「別にトラウマを思い出させて罪悪感を煽らなくても、勇者パーティーが正義であるわけがないのは分かり切った話でしょ。」
魔女の言葉に、魔王達は驚きました。
ゴーレム:「…はは、あんたマジかよ。それなのに勇者パーティーにいたのか?」
ヤマト:「定期的に高いお金を貰って、強い魔物・魔族を殺す傭兵だと割り切ってたね。とりあえず、ハースさんの推し事をした後に、魔王様と冷静な話し合いをしてその首を持ち帰れば良いだけ?みたいな。その道中に『人間界の繁栄のため』と言って民家から窃盗をしたり立ち寄った集落の人間にセクハラ・パワハラしたりしても許される。正義なわけないじゃない。」
ゴーレム:「…。」
魔王・インペリアル:「…。」
魔女は肩をすくめました。
ヤマト:「魔王・インペリアルと名乗る魔族を殺したら、ハーレムを作って豪遊出来る。そんな美味しい思いをするのが自分だけという罪悪感に駆られて魔王を完全に仕留めない。暗黒領域を制圧しようだなんて全く考えてない。ただ、よく考えればそれで戦争の犠牲者は少数に抑えられているんだよ。だから良い事ではあるのかもしれないね。」
ゴーレム:「まあ、それが少数精鋭方式の目的だからな。」
ヤマト:「うん。だから結局ね、魔王軍幹部を倒す事以外では、善を積むも罪を重ねるも本人次第なんだよ。ただその善行が暗黒領域側にとっては悪行なんだろうけどね。私は10数名の人間が村で平和に暮らすために畑を荒らすゴブリン50体以上の群れを全滅させる仕事をしたり、兎狩りに夢中で聖地に入ってしまった結果ドラゴンに襲われた貴族の下らない怒りのためにドラゴンの巣を壊滅させたりもした。その結果ね、『白魔女ヤマト様万歳』『救世主だ』ってもてはやされるんだよ。馬鹿みたいだね。」
魔王・インペリアル:「ヤマト…」
ゴーレム:「馬鹿みたいだって…」
魔女は大きく伸びをしました。
ヤマト:「この世に1つの正義しか無ければ争いなんて生まれないんだよ、あっ君。魔王軍幹部の誰に早く死んでほしいとか、勇者がこういう殺し方をしてくれれば良かったのにとか、そういう事を笑いながら言う人達のために勇者パーティーは戦うんだよ。」
魔王・インペリアル:「…。」
ヤマト:「何度も生き返るから許されるの?自分達が実際に何かされたわけでもないのに、勇者パーティーが傷つくのを見ていられないとかいう理由じゃなくてただ単純に死ぬ姿を想像して楽しみたいって変じゃない?倒したって証拠以外の目的で死体を持ち帰ってほしいとかおかしいんじゃない?」
ゴーレム:「…。」
魔王達は自分達が魔王軍幹部として初めて勇者パーティーと対面した時の事を思い出していました。
ヤマト:「これまでの人間本位の依頼とは違って、この戦争としての戦いは両陣営の事を考えて動くべきだと思う。魔王軍幹部の10名はこれまでの戦いでずっと馴れているだろうし、それが当たり前のように振る舞うだろうね。そうだとしても、私は相手にリスペクトを持ちながら戦う義務があると思う。」
ゴーレム:「…僕は人間が大嫌いだ。でも魔女、お前の事は…違うと言ってやらん事もない。」
魔王・インペリアル:「アーク…」
魔族たちがゴーレムを嬉しそうな目で見ます。ゴーレムはうなずきました。
ゴーレム:「ってなわけで、よろしくな、ヤマト。僕は普段地下牢獄にいるから用事があったら来い。」
ゴーレムが手を差し出します。
魔女はその手を握るかと思いきや、黙ったままです。
ゴーレム:「…。」
悪魔・レス:「ヤマト、握手しようとしてるんだよ?」
鬼・ショウ坊:「手を取れ!」
小声で悪魔と鬼が言いますが、魔女は微動だにしません。
ゴーレム:「…おい。」
ヤマト:「何?」
ゴーレム:「手握らないって事はやっぱりお前…何だかんだ言って僕の事を醜いとか思ってるんだろ!」
ゴーレムが叫ぶと、彼の周りを黒紫色のオーラが取り囲みます。
魔王・インペリアル:「まずいっ、厄呪が!ヤマト、謝れ!」
悪魔・レス:「アーク君、落ち着いて!」
魔王達はゴーレムの動きを止めようと立ち上がりました。
ゴーレムは怨念のこもった目で魔女を睨みつけ、身体を構成している何人もの魔族のうめき声のような低い声を出しました。
ゴーレム:「…やっぱり…人間は人間」
ヤマト:「乳首丸出しの方と握手なんて嫌です。」
その瞬間、全員の動きが止まりました。
ゴーレム:「…は?」
ゴーレムの周りのオーラが一瞬にしてなくなりました。明らかに虚を突かれているようです。
ヤマト:「あっ君、どんなにイケメンでも露出狂とか無いから。私の目線の高さにあるんだから、実質ゴーレムというより周りより明度の低い(※黒ずんだの言い換え。ガイドラインに引っかからないでね)乳首が私に近づいてきてるんだよね。何、狙ってるの?」
ゴーレム:「え…」
ヤマト:「しかもよく見たら立ってるし…これで興奮するとかもう変態のそれ。」
ゴーレム:「さっき自己修復したせいで体温下がってるだけだろが!鳥肌と一緒だ、バカ!」
※「何が」とは言ってないけど、ガイドラインには触れない方だよ。
悪魔・レス:「うわぁ…」
悪魔は思わず声を漏らしてしまいました。魔王たちはハラハラしながらゴーレムの顔色を伺います。
ヤマト:「私ね、裸の小汚い中年男性にセクハラされた時、絶望したの。だからね、あっ君が着衣を乱して私に近づく事がものすごく不快なの。何、出会って数分で私の事そういう目で見てるの?」
ゴーレム:「ち、違っ」
ヤマト:「そういえばさっき、『僕はそういう目でお前の事なんか見ない』って言ってたよね?それってさ~…初対面の相手を異性として意識して判断する事が当たり前って事だよね?え、何、異性と意識した上で乳首見せてるの?そういう思考が気持ち悪いんですけど。無理。」
ゴーレム:「だっ、だからそれは違って」
ヤマト:「指摘したらもっと主張激しくなるのが不快。その格好で近寄らないで。」
弁明しようと前に乗り出すゴーレムに対し、魔女は眉根をしっかり寄せて胸をガードし、後ずさりしました。
ゴーレム:「…何かすまない。」
ゴーレムはすっかり威勢を失って部屋の隅に移動しました。
魔王軍幹部:「…。」
そして、ゴーレムは壁に向かってゆ~っくりと腰を下ろし、頭を押さえました。
ゴーレム:「うわああああああああああ!!」
魔王・インペリアル:「あっ、アーク?!」
突然叫びだしたゴーレムに、いち早く魔王が駆け寄ります。その後に他の大人達も続きます。
亡霊騎士:「時間差で大変な精神的ダメージを受けているようですぞ!」
悪魔・レス:「やめて~っ!体力ミリになっちゃうよ?!自己修復追いつかないよ!」
とは言いつつも、悪魔は数世紀もの付き合いであるにも関わらず初めてこの同僚をヒールするなぁと心の隅でエモい感じになっています。
人魚・イブキ:「今まで勇者パーティーに精神的なデバフをかける側だったのに!自分が言葉のナイフで傷ついてる!」
鬼・ショウ坊:「だ、大丈夫だ…すぐ仲良くなりたかったんだもんな?」
ゴーレム・アーク:「僕は見せるつもりなんて無かったんだよおおおおおぉぉっ!」
吸血鬼・イターシャ:「そうよね?!皆分かってるわよ、気持ちが急いて…その、ね?」
ゴーレム・アーク:「大体、ちくっ…その、平気でそういう事を言うとか頭沸いてんのか!」
魔狼・カロル:「そうだな、アークはおかしくない。」
邪竜・プレリュード:「落ち着くのだ、アーク。ちゃんと身だしなみを整えてもう1度」
ゴーレム:「もう良いっ!帰るっ!僕、引きこもるっ!」
魔王・インペリアル:「落ち着け、お前らしくない!」
敬語が外れて子供のようにばたばた暴れだすゴーレムを魔族たちが押さえます。
吸血鬼・イターシャ:「ねえヤマト、さすがに言い過ぎじゃないかしら…ねぇ?」
悪魔・レス:「ヤマト、その…トラウマを思い出させてしまったかもしれないけど、アークだって悪気があったわけじゃないんだ。もう1度仲良くしてみようか?」
悪魔はヒールをかけながら魔女に訴えかけます。
ヤマト:「…確かにそうですね、私も言い過ぎたかもしれません。」
魔女はゴーレムに近づきました。
ゴーレム・アーク:「…。」
ヤマト:「さっきはごめんね。気持ち悪いとか変態とか、よく考えれば君がとても傷つくって分かったはずなのに、言い過ぎたよ。」
ゴーレム・アーク:「僕だってその…ごめん。」
ゴーレムがささっとシャツの前を整えます。
鬼・ショウ坊:「(おお…!)」
魔王・インペリアル:「(良いぞ、良いぞ!)」
魔王達が胸をほっと撫でおろしたのも束の間でした。
ゴーレム・アーク:「もう1度…お前さえ良ければ、よろしく。」
ヤマト:「うん…」
2人は堅い握手を交わしました。
ヤマト:「私を受け入れてくれてありがとう。」
ゴーレム・アーク:「まあ…魔王様の仰る事に間違いは無かったというだけだがな。」
言葉とは裏腹に、ゴーレムの顔は嬉しそうです。彼が天邪鬼になっている事を付き合いの長い魔王達は微笑ましく見守っています。
ヤマト:「私もあっ君の乳首が近づいてきても受け入れられるよう、頑張る」
ゴーレム・アーク:「もうやだっ!やっぱりこいつ、無理ぃぃっ!」
それまでほんわかしていた事で力が緩んだ魔族たちの拘束をさっと抜けたゴーレムは、食堂を出て行きました。
ゴーレム・アーク:「馬鹿あぁっ!もう僕、帰るっ!地下に行くっ!お前が死んだ頃に出て来るっ!」
廊下からゴーレムの捨て台詞がこだまし、聴こえなくなりました。
ヤマト:「…これで全員と仲良く出来ましたね」
魔王・インペリアル:「逆効果だ、馬鹿者!」
ここに書いていた図鑑のアーク氏のページは、次話部分に移動する事にしました。
理由は、やはりまえがきの注意喚起でこの話を読み飛ばす層が多いんじゃないかと思ったから(そもそもここまでたどり着けたメンタル強者なんていらっしゃるのか…?)です。