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僕と彼女の願いと使命 〈7〉

 私はずっと探していた。


 飲み込まれそうなほど暗い空に、無数の涙が流れていた。

 数瞬おきに、息をつくよりもずっと短い間に、一つ、また一つ空に軌跡を刻んでいく。


 通っている高校の屋上からは、私が毎日参拝していた神社のある山が、ぼんやりと見える。


 いつものように、二回、手を叩く。

 日をまたいでしばらくたった誰もいない校舎に、乾いた音がびっくりするほど響いた。


 二拍手を打ったあと、合わせた手を崩し、そのまま指を絡めて握りしめる。


 そして、祈る。


 静かな屋上に吹き抜ける夜風の音だけが、やけにうるさく聞こえた。


 流星の下で、校舎の屋上でひとりぼっち、私は神様に祈る。


 いつか、こんな私を必要としてくれる人が現れますように。

 誰か、いらないものの私の手を取ってくれる、そんな人と出会えますように。


 夜風に吹かれ、首元のあとを隠すために巻いたマフラーがふわりと揺れる。



 ふと、なにかを忘れているような気がした。呼ばれたような気がした。



 目を開けると同時に、頬を伝った涙が、握った手の上にぽたりと落ちる。


 屋上を振り返る。けれど乗り越えてきたフェンスの向こう側には、やっぱり誰もいない。

 私を必要としてくれる人も、呼び止めてくれる人も、惜しんでくれる人はいないのだ。


 鞄の上に置いていた日記帳を、そっと胸に抱く。


 そして、私は屋上の外壁を蹴った。


 空を見上げたまま、私は落ちていく。


 光り輝く星空が、私を祝福してくれているようだった。

 光に救いがあるような気がして、そんなはずもないのに、手を伸ばす。


 だけど伸ばした先には誰もおらず、なにもない空に指先が踊る。


 私は落ちていく、どこまでも、落ちていく。


「誰か……」


 ずっと願い祈ってきた言葉が、最後に漏れた。



「――助けて」


 

 そして。


 それは、空から落ちてきた。


 視界のすみに消えそうだった、白いフェンスの向こう側。


 揺らめくマフラーの影から、突如として空中に現れた。


 誰もいなかった屋上に、ほとんど叩きつけられるようにしてなにかが投げ出される。


 人だ。

 夜空でもはっきりとわかるほど光に彩られた人物。


 その人物はコンクリートに体を削り取られるように転がっていく。そのまま弾かれるように立ち上がり、走り出す。


 トンッ、という軽快な足音が響いた。

 落ちていく私の視界から消えるより先に、羽が踊るような自然な動作で、フェンスが踏みしめられる。


 誰がいたとしても、私の体はもう絶対に手が届かない場所に行っていた。


 どこにも届かない、気づかれるはずもない、誰にもつかみ取られるはずのない手だった。


 それなのに。


 その人は、迷うことなくフェンスを蹴り飛ばし、屋上から身をさらす。



 そして、輝く手に、私の手はつかみ取られた。

 


 光を帯びているがおぼろげに霞むその人。

 存在が曖昧で、今にも消えてしまいそうで、どんな人かもわからなかった。


 でもなぜか、私はその人を、知っているような気がした。


 ふっと、その人の、彼の口元が緩む。



 助けるよ――僕が君を――絶対に――。



 私はずっと探していた。


 私は助けてくれる、その人を。

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