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プロローグ

 僕はずっと探している。


 輝く緑からこぼれる日差しを体一杯に浴びながら、ゆっくりと一人歩く。


 暖かな木漏れ日が舞い散る空間には、鮮烈な赤を称える鳥居が幾重にも連なっていた。

 一つ、また一つと鳥居をくぐっていく。


 時々、僕のいるこの世界が、現実なのか、はたまた夢なのかわからなくなることがある。目を覚ましていても、僕の体はあの世界にあるのではないか。そんな錯覚に陥る。


 それはきっと三年前、あの子と旅をしたからだ。


 一緒に旅をして、ともに誰かに必要とされて、多くのつながりを結んできた、一人の少女。


 旅を始めたときは別々だったけれど、旅を終えるときは一緒だった。


 いつかにも感じた、呼ばれるような感覚に足を引かれ、神聖な空間を進んでいく。

 幾本もそびえ立つ木々の木の葉から、青々と澄み切った晴天がのぞいている。


 空はつながっている。世界もつながっている。あるいは人も、それぞれの思いさえも。


 シャツの上に提げている二つの指輪のネックレスに、そっと触れる。

 もう見ることはできないけれど、僕と彼女の間には、今もきっとつながりが残っている。


 旅を始めた日から、いくつもの季節を巡った。


 けれどまだ、僕は探している。


 僕とともに旅をした、あの少女を。


    Θ    Θ    Θ


 私はずっと探していた。


 飲み込まれそうなほど暗い空に、無数の涙が流れていた。

 数瞬おきに、息をつくよりもずっと短い間に、一つ、また一つと空に軌跡が刻まれる。


 高校の屋上からは、私が毎日参拝している神社の夜山がぼんやりと見える。


 いつものように、二回、手を叩く。


 日をまたいでしばらくたつ誰もいない校舎に、乾いた音がびっくりするほど響いた。


 二拍手を打ったあと、合わせた手を崩し、そのまま指を絡めて握る。


 そして、祈った。

 流星の下で、校舎の屋上でひとりぼっち、私は神様に祈り捧げる。


 誰か、こんな私を必要としてくれる人が現れますように。

 いつか、不要品の私の手を取ってくれる、そんな人と出会えますように。


 何日かおきにここに来ては、ずっと同じことを祈っている。


 頬を伝った涙が、握った手の上に、ぽたりと落ちた。


 目を開ける。

 眼下には、夜色に染まる私の世界がある。


 屋上を振り返っても、誰もいない。

 私を必要としてくれる人も、呼び止めてくれる人も、惜しんでくれる人、この世界のどこにだっていない。その実感があった。


 傍らの鞄の上に置いていた、一冊の日記帳を手に取り、そっと胸に抱く。

 出会ったばかりの日記帳の中を見ると、どうしても涙が止まらなくなる。


 私の意識が、闇に沈んでいく。

 空に瞬く流星だけが、私を祝福してくれているようだった。

 無数の光が、世界に、私に降り注ぐ。


 私は探していた。


「――――」


 ずっと願い祈ってきた言葉が、ぽつりと漏れた。


 それは、割れた心からこぼれた願いのようだった。


 そして――

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