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漫才の台本

漫才「塁上にて」

作者: 沢山書世

漫才22作目です。どうぞよろしくお願いいたします。

 一塁上にて

     デットボールを受けたランナーが、尻をさすりながら一塁ベースまでやってきた。

 ランナー「いててて。初回からぶつけられるなんて、ついてないなあ」

 一塁手 「尻だったんだから、よかったじゃないか」

 ランナー「硬球だぞ、デッドボールだぞ。どこに当たったって痛いよ。あいつ、ピッチャーのくせに尻とストライクゾーンの区別もつかないのか?」

 一塁手 「区別はついているさ。たんに手元がくるっただけなんだろ」

 ランナー「ノーコンピッチャーめが」

 一塁手 「それが幸いしたんじゃないか。頭をねらって投げたはずなんだからさ」

 ランナー「なんだよ、それ」

 一塁手 「試合前にそう宣言してからマウンドに向かったんだもの」

 ランナー「故意にぶつけてきたのかよ。あったまきた。文句言ってこよう」

     マウンドに行こうとする。

 一塁手 「やめとけ、怪我が増えるぞ」

     踏みとどまる。

 ランナー「でも、犠牲者が増える前に、誰かが抗議しておかなきゃ」

 一塁手 「そうはならないよ。狙いはお前だけなんだから」

 ランナー「え? 俺だけなの? なんで?」

 一塁手 「お前、昨日のこと覚えてないの?」

 ランナー「あいつになにかしたっけ?」

 一塁手 「飲みに行ったのは、覚えてるか?」

 ランナー「ああ。お前も一緒だったもんな。どうもお疲れさん」

 一塁手 「飲み始めてから二時間くらい経ったころかな、お前、トイレで酔いつぶれてたろ」

 ランナー「そうだっけ?」

 一塁手 「鍵をかけたまま、中で寝込んじゃったんだよ」

 ランナー「へー」

 一塁手 「ノックをしても反応がないから、ドアを壊して引っ張り出したんだぞ。大変だったんだからな」

 ランナー「それはすまなかった」

 一塁手 「俺はいいんだけど・・・あいつがな。小便が近かったらしいんだけど、トイレがそんなだったから、結局間に合わなくて・・・漏らしちゃったんだよ」

     牽制球が飛んできた。

     バシッ

     一塁手がボールをキャッチする。

 ランナー「おっとお。すげー球だったなあ。今のは牽制球のスピードじゃないだろう」

 一塁手 「そうだったな。百五十キロは出ていたんじゃないか?」

 ランナー「怒りすぎだろう。一回ぶつけたんだから、もう水に流してくれたっていいじゃないか」

 一塁手 「大の大人が人前で小便を漏らすような目に合わされたんだぞ。これぐらい腹が立つということなんだろうな」

 ランナー「こっちだって、被害者みたいなものなんだからな。バットもグローブも昨日から見当たらないんだよ」

 一塁手 「あれ? 今さっき打席でバットを振り回していたじゃないか」

 ランナー「あれは俺のじゃないんだ。ベンチに置いてあったものを勝手に拝借したんだよ。素手で打つわけにはいかないだろ・・・たしか昨日球場を出たときは持っていたと思うんだけどなあ」

 一塁手 「それは間違いないよ。店のテーブルの上でバット振り回していたもの」

 ランナー「ああ、そうそう思い出した。あのあと、腹踊りもやったっけなあ」

 一塁手 「トイレのドアを壊したときに使ったバット、あれ、おまえのだったんじゃないのか? だったら店にまだ置きっぱなしだろう」

 ランナー「帰りに寄って行こ。グローブもそこにあるのかなあ。今日は素手で守るにしても、あれがないと手持ち無沙汰だもんな」

 一塁手 「そうだ、ついでに昨日の支払もしておいてくれないか?」

 ランナー「なんだよ、払わずに帰ったのか?」

 一塁手 「いくら注意されてもお前が腹踊りをやめないからさ、店を叩き出されちゃったんだよ。支払いどころじゃなかったんだぜ」

 ランナー「わかった。払っておくけど割り勘だぞ。あとで集金するからな。それから端数はお前たち持ちね。俺よりも年俸高いんだから」

 一塁手 「迷惑かけたんだから、今回はお前持ちだ」

 ランナー「えー」

 一塁手 「また行きたい店なんだからさ、ちゃんと謝っておいてくれよな」

 ランナー「チェッ、わかったよ」

     フォアボール、と審判のコールが響く。

 ランナー「フォアボールだとよ。じゃ、俺は二塁に行くわ」

 一塁手 「気をつけてな」

 ランナー「何言っているんだか」

 一塁手 「あいつを見てみろ」

     二塁手を指さす。

 ランナー「なんだ、マスクをしているな。風邪でも引いたのか?」

 一塁手 「鼻血が止まらないんだってさ」

 ランナー「なんで? 甘いものでも食い過ぎたのか、ははは」

 一塁手 「ほんとに昨日のことを覚えていないんだな。お前があいつの鼻におつまみをいくつもつっこんでいたんだぞ」

 ランナー「まさかあ」

 一塁手 「あいつの目、お前にはどう映る?」

 ランナー「なんかすごみがあるなあ。人を憎んだ時にはあんな目つきになりそう」

 一塁手 「まばたきしてなくないか?」

 ランナー「ほんとだ。こえー」

 一塁手 「おい、おでこが赤くなってきたぞ」

 ランナー「うん、帽子の上から湯気がでてるな。尋常じゃないよ」

 一塁手 「どうする?」

 ランナー「二塁はやめておこう。三塁に行こ」

     三塁方向へと進路を変える。

 一塁手 「あ、バカ」

     「ランナー、アウト」



 三連戦の三戦目

 二塁上にて

     ランナーが二塁ベースに到達した。

 ランナー「やあ、マスク取れたんだね」

 二塁手 「おかげさまでな」

     ランナーがお辞儀をする。

 ランナー「おとといはすまなかった」

 二塁手 「よくもまあ、のこのこと二塁まで来れたもんだな。命知らずなのか?」

 ランナー「謝りたい一心だったんだよ。だから頑張ってヒットを打ったんだ」

 二塁手 「本当は一塁で止まりたかったんだろ、コーチから二塁まで行けと指図されたんだろ」

     牽制球がくる。二塁手が捕球して、スパイクで足を踏んでから思いっきり頭をタッチした。

 ランナー「いててて。随分と乱暴なタッチだなあ」

 二塁手 「大事な試合だから、力が入ってしまうんだろうな」

 ランナー「リードするのはやめておこう」

 二塁手 「へい、ピッチャー。もっと牽制球をよこしてくれ」

 ランナー「ランナーがリードしていないのに、牽制球を要求するかあ?」

 二塁手 「俊足ランナーだから、警戒しているんだよ」

     牽制球がくる。バシッと捕球して、おもいっきりボコッとタッチする。

 ランナー「早く三塁に行きたいなあ」

 二塁手 「お前の行き先は三塁ベースじゃない。救急車の中なんだよ」

 ランナー「バッター、ボールは見逃すなよ。早く打ってくれよな」

     バシ、ボコ

 ランナー「また牽制球だ。ちょっと多すぎないか」

     バシ、ボコ

     脚を踏まれたうえにグローブで頭を叩かれる。

 ランナー「いたたたた」

 二塁手 「リーリー」

     バシ、ボコ

 ランナー「二塁手のお前がリーリー言うんじゃない」

 二塁手 「俺の勝手だろ」

 ランナー「このままじゃ俺の身が持たん。早くチェンジにしなきゃな。おいバッター、次の球を見逃すんじゃないぞ! 来たボールは全部打て」

     バシ、ボコ

 ランナー「ゲッツーになってもいいから必ず打てー」

     バシ、ボコ

 ランナー「おいピッチャー、いい加減にして、前に投げろー」

     バシ、ボコ

 ランナー「早くチェンジになってくれー。ベンチに戻りたーい」

     バシ、ボコ

 二塁手 「牽制球に数の制限はないからな。何度でもひっぱたいてやるぞ」

 ランナー「それは困る。おい審判、何とかしてくれ」

     ランナーが、塁審を振り向いて叫んだ。

 二塁手 「無理を言うもんじゃない」

 ランナー「無理なもんか、正当な要求だよ」

 二塁手 「彼も被害者の一人なんだよ」

 ランナー「うっそー」

 二塁手 「すべてはお前の身から出たサビということなんだ」

 ランナー「なんだか敵だらけになっちまったなあ。メジャーに行きたくなってきた」


読んでくださり、どうもありがとうございました。

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