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10分で胸キュン恋愛短編集

今に見てなさい!ダイエットして見返してやる!

作者: ニコ・タケナカ

「おいしっ♪」

「ホント、おいしそうに食べるよなぁ・・・・・・」

彼がアイスを食べている私を見て言う。しかし、語尾を濁したのを私は聞き逃さなかった。

「なに?もしかして食べたいの?だからさっき、一緒に買わなくていいのって聞いたじゃん。はい、ちょっと食べてもいいよ」

「いや、オレはいいよ・・・・・・」

差し出したアイスを彼は遠慮した。


でも遠慮する割には、何か奥歯に物が挟まっているような返事だ。

「うふふ、もしかして恥ずかしがってる?誰も見てないよ、ほらっ」

「そうじゃなくて・・・・・・その・・・・・・ちょっと食べすぎじゃない?」

(う゛っ)

痛いところを突かれて、私は絶句した。


ここのところ毎日、下校途中にアイスを買い食いするのが日課になっていたのだ。だから体重がヤバい事になっているのは自分でも気付いていた。けど、アイスの誘惑に勝てずついつい買い食いしてしまう。

「だって、こう暑いとアイス食べたくなるじゃん?」

「お前は季節関係なく食べてるだろ?冬は冬で暖房の効いた部屋で食べるアイスが最高って、」

「それは、それ。夏に食べるアイスが一番おいしんだって」

「好きなものに口出ししたくなかったけど・・・・・・さすがにこれは、」

彼はいきなり私の横腹を突っついた!


ふにゅ♪


「ひゃん!」

彼の指が思いのほか私のお腹の奥まで埋もれて、変な声が出てしまった。

「ふ、ふふっ、ふっ、・・・・・・」

彼が顔を手で覆い、呆れた様に鼻で笑う。

(ム―――ッ!今に見てなさい!この夏休みの間にダイエットして、見返してやるんだからっ!!)

私は心に固く誓って、アイスにかぶりついた。



皆が夏休みの解放感に羽目を外している頃、私は部屋に籠って唸っていた。

「う~っ・・・・・・」

「で?いきなり筋トレして、筋肉痛になったと。フフッ、よくあるパターン」

家に遊びに来た友達に、悲鳴を上げる体をさすりながら事のあらましを話すと笑われた。

「あ゛~、全身痛くて歩けないィ」

昨日はろくに起き上がることも出来ず、ベットに横になって1日を潰した。こんなの女子高生の夏休みの過ごし方じゃない!


「そこまで筋肉痛になるなんて、トレーニングジムにでも通い始めたの?」

「ううん、ネットの筋トレ動画見ながらやってる。そんなジムに通うお金あったらアイス買うもん」

「ダメじゃん!けど、偉いよね。食事制限するより、ツライ運動して痩せようって言うんだから」

「うん・・・・・・食事制限だと絶対途中で挫折すると思うんだよねぇ」


ボリ、ボリ、

私はテーブルに置いてあったクッキーを食べた。


「言ってるそばからっ!せっかく運動しても、お菓子を摘まんじゃダメでしょ!?」

「いいの、いいの、これは。私、今まで食事の回数を減らせば痩せられると思っていたんだけど、ちょっと違うみたい。こまめに食べて空腹にさせないほうがいいんだって」

「どういうこと?」

「空腹の時にいきなり大量の食事を摂ると、血糖値が急激に上昇するんだって。そうすると細胞にエネルギーを運ぶインスリンっていうホルモンが大量に分泌されるんだよ。そのインスリンが、脂肪細胞にエネルギーを貯め込むらしいよ」

「だから、空腹にさせない様に食べてると、」

「そういう事♪」


ボリ、ボリ、


「いやいや、でも食べすぎは良くないでしょ。お菓子はカロリー高そうじゃない?」

「大丈夫だって、これ砂糖の入ってない手作りのおからクッキーだから。おからは大豆でしょ?大豆は畑のお肉って呼ばれているくらいタンパク質豊富で筋肉を育ててくれるんだよ」

「そうなの?・・・・・・なんだか食べる事には詳しいよね、アンタ」


ボリ、ボリ、


「食べるの我慢しなくていいなんて、これなら続けられそうじゃない?」

「だからっ!空腹が良くないのは分かったけど、食べすぎでしょ?食べた分は運動しないと!」

「う゛・・・・・・問題はそっちなんだよねぇ。一人だとついついサボりがちで、」

「みんなそれだからジムに通うんでしょ。お金払ってるのに通わなかったらもったいないって、サボらないための理由にしてるんだよ」

「そうだよねぇ。そ・こ・で♪頼みがあるんだけどぉ」

私が甘えた声で詰め寄ると、友達はあからさまに嫌そうな顔をした。


「この夏休みの間だけでいいからぁ、一緒に筋トレしない?」

「はぁ?なんで私までアンタのダイエットに付き合わなきゃいけないの?」

「いいじゃん!一人だと怠けそうなんだもん。アンタも夏休みなのにうちに入り浸って暇なんでしょ?どうせなら2人で体動かしたほうが良くない?痩せたら一緒に遊びに行く彼氏だって出来るって」

「うーん・・・・・・まぁ、いいけど。」


ボリ、ボリ、

友達もその気になったのか、おからクッキーを摘まみ始めた。


「そういえば、アンタの彼氏はどうしてるの?夏休みだから一緒にどっか遊びに行ったりしないの?」

「うん、悔しかったから夏休みの間は会わない事にしたの。休みが終わって再会した時に、生まれ変わった私を見せてビックリさせるんだ」

「え?会わなくて大丈夫?」

「だいじょうぶ、大丈夫。彼、夏休みはずっと部活漬けだから」

「いや、そういう事じゃなく・・・・・・部活漬けって言っても、お祭りに出かけたり、花火一緒に見たり、海に行って遊んだりしたいんじゃない?」

「私だって遊びには行きたいけど・・・・・・お祭りは色々誘惑が多いじゃん?たこ焼きとか、お好み焼きとか、焼きそばとか、出店にあるものってほとんど炭水化物ばっかだし。かと言って海に行っても、まず水着を着こなせるボディーじゃないと・・・・・・」

「アンタの方じゃなく、彼の方を心配してるの。そんな事言ってほったらかしにしてると、見限(みかぎ)られるよ?」

「そ、そうかな・・・・・・でも連絡は毎日とってるから大丈夫だよ」

「知らないよぉ、付き合っていると思っていたのはアンタだけで、会わないうちに恋が冷めて、夏休み明けたらいつの間にか自然消滅してたなんて話はよく聞くし」

「飽きられないための体作りだからっ!さあ!筋トレ始めよっか!」

私は不安を振り払うように、筋トレに打ち込んだ。



2学期の始業式。この日は授業も無く午前中で学校は終わる。

けど、彼は部活があるため私は練習が終わるまでその様子を見ながら待った。久しぶりに見る彼の姿は夏休みの間よっぽど部活で絞られたのか、引き締まった印象になっていた。顔のラインもシャープになっていて、見返してやろうと思っていた私の方が惚れ直してしまうぐらいだ。


この1ヶ月半、私だって頑張ってきた。しかし、体重はほとんど変わっていない。これは脂肪が筋肉に変わった為だ。筋肉の方が脂肪より重いため筋トレを始めた頃は、体重が減るどころかかえって増える事がよくあるらしい。

その証に体脂肪率はドンドン減っていたのだから痩せているはずだ・・・・・・私はドキドキしながら彼がやって来るのを待った。

何と言ってくれるだろう?そもそも気付いてくれるだろうか?減らなかった体重が不安で、毎日、鏡を見て体型をチェックしていた自分では、どれだけ変化したのかいまいち分からない。


練習を終えた彼は私の事を見つけると、駆け足で側へ来た。

「久しぶり」

「うん、」

1ヶ月そこそこしか離れていなかったのに、まるで付き合いたての頃の様に間近で見る彼にドキドキする。


・・・・・・・・・・・・。

彼も意識しているのか変な間があいた。

目と目が合っていたその視線は徐々に顔から胸へ、そして下半身へと流れて行く。


「少し会わないうちに、ちょっと変わった?」

「え?分かる?」

彼が私の変化に気付いてくれたことが嬉しい!この夏休みの努力は無駄ではなかった!

見返してやろうと思っていたことは忘れ、私は胸が弾んだ。


「実は体重がヤバい事になってたから、筋トレ始めたの。まだ始めたばかりだから体重はあまり変わってないんだけど、ねえ、聞いて!私頑張ったんだよ。今の体重はね・・・・・・」

私は嬉しくなって努力の成果を報告しようとした。が、

「ちょっと待った!」

彼は私の言葉を遮った。


「女の子に体重を言わせるなんて、男としてダメだろ?どれだけ努力したかは、抱きしめれば分かるよ」

彼は一歩前に出ると、そっと私の腰に手を回し抱きしめてくれた。徐々に力を込め、いとおしむように腰から背中へとさすっていく手の感触に、私は力が抜け彼に身を預けた。

(あぁ、私もう死んでもいい・・・・・・)

夏休みの努力が報われた瞬間だった。

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