第一話 転校生、来たる。
この世の全ては変わっていく。変わらないものは無い。
そんなことは、初等過程の子供であっても当たり前に知っていることだ。たとえ一見して変わらないように思えるものでも必ずどこかが少しずつ変わっていくのだし、変わっているものは当然変わっているのである。永遠に続く平和がないとともに永遠に続く戦争もないのだし、永遠の日常がないと同時に永遠の非日常もない。どちらか一方が現実に顕出し、他方はその裏に潜んでいる。世界はそうして廻っているのである。
しかし、その変化に人が気づくことはそれほど容易なことではない。まして、その変化に対応することは更に難しい。変化は絶えず、そして誰もが気づかないうちに進み、いつの間に何もかもが変わってしまうのである。人はその中でどうにかして生きていかなければならない。
逆に、誰もが変わると信じているときには、思ったほど変化がないこともある。良い変化であれ悪い変化であれ、大勢の人々がそう信じているときほど肩透かしを食らうこともまた、良くある話だ。それが家庭環境であれ、周囲の人間関係であれ、また国の形でさえも、人々の予想通りに変わることは多くない。
教室の教壇で、貼り付いたような笑顔を浮かべながらこの国の体制の変化を熱心に語る教師を見ながら、俺はそう思った。
数年ほど前にこの国で起こったと言われる社会主義革命は、それまで存在していた王政を完全に破壊し、パトリア共産党だとかいう政党の一党独裁体制を生み出した。国王は衆人環視の中処刑され、代わりに共産党の書記局長を名乗る者が国のトップに就いた。ある人々はこの世の地獄だと嘆き悲しみ、またある人々は地上の楽園が生まれたと歓喜した。いや、まだ過去形にはなっていない。今もなお、国中を二つの感情が渦巻いている。
だが、だからと言って俺や周囲の人間のような、言ってみれば一般市民において、革命によって何かが変わったのかといえば、別にそう言うことも無かった。明日食べる飯もない……こともないが、いつでも出費を切り詰めておかなければすぐに生活が苦しくなる日常が良くなることも、そして今のところ悪くなることもない。ただ、同じ日常が同じように続くだけであった。革命後すぐは、だれもがこの国の社会主義化による変化に敏感であったのだが、今ではそれを気にする者は、少なくとも俺の周りでは一人としていない。
「であるからして、我々人民は、党の指導の下、常に正しい社会主義の道を突き進まなくてはなりません。我々には前進しかないのであり、それ以外の道は亡国と破滅の道であるのです。決して誤った道を進んではなりません。どんな時でも、我らが戴くべきは党であり、それ以外には何もないのです。それから……」
もうすぐ四十路に突入しようとしている女教師は、手元の紙の上の文字を必死に追いながら、小難しい内容を延々と述べている。しかし、大人でさえも理解し難い内容を、高等課程に入ったばかりの俺たちが容易に理解できるはずもなく、大半の生徒はつまらなそうな顔で手元の筆記具をいじったり船を漕いでいたりする。俺はと言えば、特に眠くもなく、筆記具いじりにも飽きがきてしまったため、つまらない話を聞く羽目になっている。その内容を真剣に聞いてみたは良いが、結局同じことの繰り返しのようであった。要するに、党だけが絶対に正しくそれ以外は絶対に間違っているのだから、党に全て従い逆らうな、といったことが恐らく言いたいらしい。それならそうとそれだけ言ってくれれば良いのに、とも思うのだが。まあ、そうもいかないのだろう。
ああ、そう言えば、特に変化がないと言っても、全く何の変化もないわけではない。国の体制が変わって起きた変化と言えば、まあ目の前の教師もその一つなのかもしれないが、もう一つある。おっと、丁度それがやって来たらしい。
教室の外、堅い木材でできた廊下をカッカッとつつくような靴音が聞こえてきた。規則正しい靴音が少しずつこの教室へと近づいてくる。時計の針が時を刻むような、重い雨の滴が大石を穿つような、何とも言いようのない複雑な音色が、確実にこちらへと向かってきている。
共産党政権は、この国の政治の舞台に暴力的に出現した勢力であるが、元の統治機構や、様々な――企業を含む――私的団体を完全に破壊することはしなかった。しなかったというよりできなかったのかもしれないが、まあこの際どうでも良いだろう。そうは言っても、そうした機構をそのまま放ったらかしにしておくほど甘い連中ではない。そこで彼らは、そうした組織に党所属の人間や、党の息のかかった人間を次々に送り込んだ。例えば、軍には政治将校として、行政機関には党監査委員として、企業には党監査役として、各々の、名前があるような組織であれば、その大小を問わずほとんど全ての組織に、何人かの人間を順次送り込んでいった。いわば、お目付け役とでも言うべき者たちだ。彼らは各組織の状況を監視し、反社会主義的、反革命的、反体制的な動きがあれば直ちに党中央へと報告し、指導や教化、あるいは粛清が行われることとなるらしい。
当然、彼らはこの学校――マレンツレヴェク第13高等学校――にも送り込まれてきた。確か、政治教師だかいう肩書だった気がする。それは、長身で細身、しかし獣のような冷たい瞳を持った男であった。彼はいつでも真っ黒な党の制服を着ていて、授業中や放課後を問わずこの学校の中を見回っている。少しでも反体制的な行動や言動があれば、すぐに報告されるし、またこの学校を偉大なる社会主義国家を支える人材の供給源とすべく、様々な指導を行っていた。教室の前の女教師による無駄な説教も、その賜物である。教師たちは、この男に極度の恐怖を抱き、震えあがる毎日を送っているらしい。
靴音はなおも続いていたが、不意にそれが止んだ。どうやら、この教室の前扉の前で止まったらしい。彼は毎朝、全ての教室をこうして見回っているのであった。
「あ……、そうであるからして! 我々は何よりも優先して党の指示を受ける必要があり! あー、人民はそれを必ず達成しなければならないのです! この指示を達成できないことは即ち全人民に対する重大な反逆行為であり……」
毎朝のことだが、女教師は例の男がこちらを見ていることを意識して、少しだけ声を震わせつつも、喧しい金切り声をあげて説教を続けた。表情からして、恐怖が滲み出ている。憐れみを覚えなくもないが、しかしこの耳にこびり付く喧しい金切り声は何とかして欲しいものである。
男は満足したのか、どうなのかは良く分からないが、やがて再び靴音を響かせながら離れていった。女教師は少しだけ安心した様子でありつつも、なお話を続けている。
「我々は、同志と共に、祖国の内と外に存在する悪しき反革命主義者や、資本主義右翼分子と断固たる闘争を行わなければなりません。彼らが地上から消滅するその日まで、連続的に、継続的に、恒常的にこの闘争は行われるのであります。偉大なる同志クラーナと共に、必ず勝利を掴むべき義務があるのです……」
おっと、この分だとそろそろ終わる感じだろう。毎朝、俺たちはこの話を三十分近く聞かされるものだから、段々とどこで終わるのかも検討が付くようになったのだ。それが良いことなのかどうかは分からないが。
どうでも良いが、この偉大なる同志クラーナというのが、パトリア共産党中央委員会書記局局長である。要するに、この国のトップに君臨する者だ。公の場に姿を見せることはほとんどなく、俺を含めてその姿を見たり、声を聞いたりしたことのある国民はほとんどいない。名前的に女のような気もするが、仮にもこの国の政治的実権を暴力的に簒奪することに成功したのだし、きっとゴツイおっさんなのではないかと思われている。
ついでに言うと、クラーナを含めて五人いると言われているパトリア共産党中央委員会政治局常務委員会委員、要するにこの国を支配する者たちは、クラーナと同じくその姿を見せたり声が聞かれたことがない。ラジオから聞こえてくるのは、常務委員代行を名乗るうだつの上がらなそうなおっさんの声ばかりであり、常務委員とやらの声が流れたことはない。その理由は良く分からないが、きっと神聖さを出したいとかそんな感じなのだろう。自らを同志と呼ばせるくせに神聖さを演出したいというのは矛盾しているようにしか見えないが、まあ世の中なんてそんなものだろう。そういうことにしておこう。
あと三分ほどで説法が終わるというところで、不意に教室後方の引き戸が荒々しい音を立てて開いた。教師の顔は引きつり、俺を含めた生徒は引き戸の方に眼を合わせないように、目を付けられないように平然を装い始める。
「うぃーす、遅れましたぁ」
猿の威嚇のような唸り声を挙げながら、数人の生徒が騒音を立てて教室に入ってくる。目についた生徒の机を蹴り、ガンを飛ばし、あるいは頭を叩きながら、自分の席へ着く。
「き、き、君たち! 遅刻ですよ!? 分かっているの!?」
喧しい金切り声で、女教師は堂々と遅刻してきた生徒たちを注意する。この見るからに面倒極まりない生徒に対しても一応教師として注意をする姿勢に対しては、俺はいつも少しだけ感心を覚えるところである。もっとも、彼らに対して注意の言葉を投げかけることは、ほとんど何の意味もないことであることは、このクラス、いやこの学校に所属する生徒、教師であれば誰でも知っていることである。生徒のうち、リーダー格である金髪のクソデブは、不敵な笑みを浮かべ、かつ盛りの付いた虎のような眼光で教師を睨みつける。
「ああ? 知ってますけど? なに、何か文句あんの? なあ?」
取り巻きのドラミングゴリラと視線を交わしつつ、教師を堂々と威圧する金髪豚。女教師は少しの間彼らに投げかける言葉を探していたようだが、やがて諦めたように、
「……。まあ、良いです。さあ、授業を始めますよ」
と言って手近にあったバッグから教科書を取り出した。そう言えば、今日の一限はこの教師の数学の授業だったか。俺もまた、バッグから教科書と筆記用具を取り出す。
…………さて、本来であればこのまま下らない空想と思索の世界へと再び戻りたいところではあるが、授業中に唯一行うことのできる、非生産的でありながら極めて文化的で人間的な活動であるところの妄想と念慮の世界へと至りたいところではあるが、しかし先ほどの出来事に係る登場人物について、やはり何がしかの説明を行わざるを得ないだろうと思う。突然訳も分からず現れた、唐突に無遠慮にこの物語に登場した、金髪クソデ豚野郎とその取り巻きゴリラ共について、何らかの説明を行うべき必要があるのだろう。まったくもって面倒極まりないが、しかしやらざるを得ないのだ。少しだけお付き合い願いたい。
何故か、と問われるならば、これに答えることすらも気怠いし、不愉快極まりないのだが、まあ仕方ない。端的に回答すると、彼らは俺の、否、この高校に通うほとんど全ての生徒及び教師達の学校生活において、語らざるを得ない重要性を有する人物であるから、とでも言うことができるだろう。もちろん、既に気づいているかもしれないが、悪い意味で、である。
金髪クソデ豚野郎こと、セミュグニー=ジールは、一言で言えばこの高校の支配者のように振舞っている男である。セミュグニーとその子分、取り巻きである数人のゴリラ、もとい男たち。たったこれだけの者たちが、教師すらも含むこの学校の全ての人間の意思を自己の意のままに従わせることができるのである。
なにゆえにそんなことが可能なのか。
彼らは愚にもつかない、アメーバにも劣る腐りきった頭脳しか持ち合わせていない。そのくせ高等学校には碌に来ることもなく、授業を真面目に受けることもない。控えめに言って保育園児以下の間抜け共である。豚を筆頭に体格だけは豊かであるが、他校の不良のように、喧嘩がとても強いということもなく、度胸などがあるわけでもなく、言ってしまえば脂肪が付いただけの豚野郎とチキン野郎どもである。即ち、彼ら自身において彼らを支配者たらしめる要素はないと言ってよい。
では、何がその要素であるのか。
端的に言えば、セミュグニーの父親がこの国を治める者の一人であることが、彼らをこの高校における支配者たらしめる最大の要素である。一高校の支配者を気取る息子の父親であるところのルカーヴィ=ジールは、聞くところによれば、革命前からこの国の警察を束ねる政権の重鎮であり、革命によってもその地位を失うことなく、今も、全国の警察組織のトップである国家保安人民委員という役職に就いているらしい。流石に、この国の真のトップである常務委員会委員になることはできなかったようだが、それでも警察という実力組織のトップであるのだから、まあこの国の中枢にいる人間と言っても差し支えはないだろう。彼の力により、取り巻きの父親たちの何人かもまた、出世街道を突き進んでいるらしい。
要するに、金髪クソデ豚野郎は父親の権力を笠にしているのである。まったくもって不愉快極まりないが、しかし否定しようのない事実であるからどうしようもないのである。
彼らは、そんな権力を思う存分に振るい、暴虐の限りを尽くしている。窃盗や強盗はほんの序の口であり、殺人、暴行傷害、強姦、放火、略取誘拐、監禁をはじめ、この国の刑法典に記されている犯罪類型を片っ端から犯しているのである。彼らは、気に入らない人間がいると、その家族や近所の人間もろとも皆殺しにするか行方不明にさせる。噂によると、行方不明になった者は彼らの秘密の街へと連れ去られ、強制労働や売春を強いられているとのことである。事実、俺の所属するクラスでも既に何人もが、家族もろとも殺され又は行方不明になっている。他のクラスでも同じような状況らしい。
だが、彼らそうした行為について、これまでに罰せられたことは一度としてない。これからも、罰せられることはないだろう。彼らの行うあらゆる悪事は、悉く握りつぶされ、無かったことになる。だから、俺や、他の生徒、教師たちは、彼らに目を付けられないように、目立たずこの学校を卒業するほかないのである。
彼らに関する極めて簡潔で的確な説明はこのくらいにしておこう。これ以上あのクソッタレ共の畜生の如き所業を考えていたら、不愉快過ぎて頭がどうにかしてしまいそうだ。さっさと優美で優雅な空想の世界に浸ることにしよう。
だが、この豚ゴリラ共は、俺にそれすらも許さないらしい。
何やら後方でごにゃごにゃとクソのようなお喋りにご興じになっていた家畜どもは、急に大声でのお喋りを敢行し始めた。
「おう。今日は誰にする?」
「あいつは? あの2組の奴」
「確かに、あいつ最近調子こいてっからな」
云々云々と、あからさまに大声で話し始める大将とその子分たち。まあ、いつものことなのであるが、その喧しいダミ声は、女教師による授業進行を遅滞させるに十分な効果を有していた。
だが、教師にはそれを止める意思がなかった。もちろん、このクラスの誰にも、これを止める能力も意思もなかった。そのダミ声の連鎖を止められる要素は何一つとしてなかったのだ。教師は、まるでそれが聞こえないかのように同じ調子で問題の解説を行い、生徒たちもまた何事もないかのように教師の話を聞き、あるいは聞くふりを続けている。ただ自らに厄災が降りかかることのないように祈りながら、一日一日が無事に生き延びられるように願いながら、時が過ぎ去るのを待っているのである。
(結局、何も変わらないんだよな……)
確かに、例の黒服のおっかないお兄さんが来ることはあったが、それ以外に俺の周囲で変わったことは何もなかった。黒服は、あくまで反体制的、反革命的な動きにのみ目を光らせており、豚ゴリラ共の行動を咎めることはなかった。きっと、彼も上からそう命じられているのだろう。従って彼もあのゴリラを止めることはできない……少なくとも止めることはしないし、この酷い状況を吹き飛ばしてくれることもない。日々神経をすり減らす酷い日々が続くだけなのである。
教室の窓の外はまだ朝だというのに薄暗かった。この時期になると、いつも雲がかかり、一日中薄暗いのである。仕方がないと言えば仕方ないのだが、やはり気分が明るくなることはない。ただ沈んでいくしかない。
俺は、今日の犠牲者――場合によっては文字通りの意味になるかもしれない――である2組の某君の無事を心から祈りつつ、教師の話に耳を傾け始めた。
『……ええ、これで中部のほぼ全ての武装警察軍は我々の指導の下にあります。南部の第一区から第三区、第五区も我々に同調し始めています。今後も浸透工作を継続致します』
「ああ。もうあまり時間も残されていない。慎重かつ大胆にやってくれ。……それで、北部の方はどうだ? やはり難しいか?」
『相当に困難です。幾つかの管区とは一応接触が持てたのですが、説得はほとんど不可能でしょう。蜂起があれば可能性はありますが、今のところは動くことはないと思われます』
「なるほど。そうすると、中央もか?」
『ええ、私のところの他は動く気配がありません。接触も困難です』
「分かった。これからも気を付けて動いてくれ」
『はっ!』
某日早朝。人民共和国首都ザカセーヴァのほぼど真ん中に位置する国家保安省本庁舎。まだほとんど人のいない建物の最上階に位置する人民委員室では、今日も秘密の通信が行われていた。
国家保安人民委員ルカーヴィ=ジールは、通信電話の受話器を下ろすと、手元の葉巻に火をつけた。煙を揺らしながら、ゆっくりとガラス張りの窓へと歩く。窓からは、まだ朝靄の掛かる首都の風景が一望できた。ほんの十年前までは、首都と言っても王宮があるだけの田舎の小さな都市であったザカセーヴァは、革命的国家の中心地にふさわしい都市であらんとするため、そこかしこで高層建築物の建築が進んでいた。近隣には官公庁の入る建物は続々と完成し、少し遠くではデパートやら新聞社やら映画館が続々と建築されている。また、地下でも水道管やガス管はもちろん、地下鉄敷設工事も進んでいた。まもなくゼカサーヴァは、帝都ナクソスや、王都シュラインブルクに並び、あるいはこれを超える近代的な世界都市となるはずであった。
(近代的世界都市、か。だが、これほどまでに血塗られた都市もまた他にないだろうな)
ザカセーヴァの急激な発展は、当然自然発生的に成し遂げられたものではない。表向きは、党の革新的指導と人民の献身的労働の賜物とされているが、実際には党の暴力的指導による人民の強制労働の結果であった。地方から訳も分からず徴集された人民が、人として生存できる最低限の衣食住のみ与えられ、死と隣り合わせの現場で休みなく働く。当然給料など出ない。休日や福利厚生は夢でさえない。工事現場では日常的に事故死が相次ぎ、次いで自殺と過労死も頻発している。しかし工事は一秒たりとも止まらない。足りなくなった分は即座に、新たに徴集された人民によって補われる。
(今日もまた、何人がここで死ぬのだろうか。工事現場で、そして…………)
遠くの方で銃声がした。ルカーヴィは委員室を出て、廊下の窓から、先ほどとは反対の方角をじっと見つめる。
本庁舎からうっすらと見える集合住宅街。その一角に、多くの人影が見えた。人影は次々に集合住宅へと侵入し、ドアを叩き、まだまどろむ住民を引き摺り出して並べる。突如囚人となった者たちは、護送車へと叩きこまれ、何処へともなく連れ去られていく。抵抗する者、逃亡しようとする者、特別の指示を受けた者はその場で情け容赦なく射殺される。銃声はその一つであった。
党は人民共和国にとって絶対的で至上の存在である。如何なる者も、党に逆らうことは許されない。どんなに些細な反抗も、どんなに些末な抗言も、一度党の目に入れば許されることはない。粛清者の氏名はリストに並び立てられ、ある日突然執行される。執行が決定した者がこの国で無事に過ごすことのできる時間は限りなく少なかった。ザカセーヴァの早朝は、殺戮の時間であった。誰もが人民保安警察のノックを恐れ、ベッドの中で震えるほかなかった。
(こんなことが何年も続くなどということが許されるはずがないのだ。我々はこんなことのために党に協力したのではない!)
ルカーヴィは、少し長くなった金髪を揺らし、部屋へと戻った。
(…………? どうも最近、耳に障るような音が聞こえるような……。しかし、それとなく探してみても何も見つからんしなぁ……。まあ、いいか)
ルカーヴィは再び質素な執務机へと戻り、溜まった書類を片付け始めた。
初めまして、若しくはお久しぶりです。
くそ遅くなりましたが、投稿してみました。
この作品は、今後書く予定の作品の外伝、パイロット版的な位置づけです。全部で数話、一週間以内に全て投稿する予定です。
どうぞよろしくお願いします。