わたくしの幸せな人生
よろしくお願いします。
パーティーにて。
ーああ、見つけました、見つけましたわ!
あの、憂いを帯びた瞳、スラリと伸びた身体!
あの方こそ、わたくしの運命の王子様に違いありませんわ!
ああっ、お近づきになりたい!!
お茶会にて。
「○○様はどのようなお方がお好みなんですの?」
ーなんてこと!
わたくしの○○様に話し掛けるなんて!
「そうだなぁ、僕は物静かな人が好きだよ」
ーまあっ!
○○様は物静かなお方がお好みなんですわね!
「可愛くて、物静かな人に、僕の婚約者になってほしいなぁ」
ー分かりましたわ、○○様!
わたくし、必ず○○様に相応しい女性になって見せますわっ!
屋敷にて。
「○○殿の婚約者に内定した。しっかりと○○殿をサポートするように」
ー畏まりましたわ、お父様。
○○様の好みをしっかりと調べたわたくしに失敗はありませんわ!
○○様の好みの女性を演じて見せますわ!
ある日の庭にて。
「…君は、本当に、可愛くて…物静かだよね」
ーそうでしょう、そうでしょう、○○様。
わたくしは、完璧に○○様のお好みでしょう?
わたくし以外に○○様に相応しい女性はいませんわ!
学園にて。
「君との婚約は解消するよ」
ー何故です、○○様!!
わたくしほど○○様に相応しい女性はおりませんわ!
まさか、あの女に唆されたのですか!!
「君、一緒にいてつまらないんだ。あの子は、本当にコロコロと表情が変わって、忙しなくて、見てて楽しい」
ーそんなっ!
○○様は、物静かな女性がお好みなんでしょう!?
「あの子と出会って、初めて恋を知ることができたんだ」
ー…わたくしには、恋をしていた訳じゃないんですの…?
「すみません、すみません。私は○○様を取るつもりじゃ、なかったんです」
ー…泣けば許されると、思っているんですの…?
…たかだが平民が、わたくしの○○様を取っておいて…?
ー許さない、許さない、許される訳がない!!
王宮にて。
「まさか貴女が、人を殺そうとするとはな…人形のようだった貴女が」
ーわたくしは悪くありませんわ!
あの女が、○○様を寝取るからですわ!
人形のようだったのも、○○様のため!
そうですわっ!
あの魔女をこの手にかけたのも、全て、
唆された○○様に目を覚ましてもらうためですわ!
「我が娘が、まさかこんな馬鹿な真似をするとはな…」
ーお父様っ!
馬鹿な真似ではありませんわ!
全ては、○○様を救うためです!
「…お前は、今日で勘当だ。」
ー何故です、お父様!
わたくしは何も悪いことは、していないっ!
「…残念だ、男を引き立てられる、良い駒だったのに」
ー!?
駒とはどういうことです、お父様!
お父様は、あんなに優しかったのに!!
沢山、沢山誉めてくれたのに!
「お前は、我が家の膿だ」
ー…そんな。
わたくしは、あんなに頑張ったのに。
血の滲むような努力をしてきたのに。
牢獄にて。
ーああっ!○○様!○○様ですね!
ついに、目を覚まして下さったのですね!
「お前、何故あの子に手を上げた!?」
ー…は?
「お前は、俺の人形だろ!? 何故、俺に逆らった!?」
ー…○○様はわたくしが貴方を愛していたこと、ご存知ないのですか?
「知るか、そんなこと! お前は、何も考えず、俺の命令だけ聞いてれば良いんだ!!」
ー…ああ…。
ー貴方は、そんなお方だったのですか。
わたくしは、今まで、そんなことも、知らなかったんですか。
わたくしは、今まで、何を見ていたのでしょう。
こんな方のために、様々なことを、努力して。我慢して。
全てのものを、傾けて、壊して。
ーわたくしの人生は、何だったのでしょう。
広場にて。
「これより、この者の刑を執行する。罪は、殺人未遂である」
ーついに、ここまで来ましたわ。
ここにいる全ての者が、わたくしを蔑むような目で見ていますわ。
「殺せ、殺せ!」
「罪を償って、地獄へ堕ちろ!」
「皆を騙した報いを受けろ!」
ーここは、煩いですわ。
しかも、声を上げているのが、殆んど貴族なのですから、
お笑いですね。
ー皆さん、楽しそうですわね。
こんなイベント、滅多に無いですものね。
「ふふふふ、アハハハハハハッ!!!!!」
ーあら、思わず笑い声が漏れてしまいましたわ。
…皆さん、静まり返ってどうしたのかしら?
「何がおかしいッ!!!」
ーあら、○○様。
何がおかしいか?
そうですわね、敢えて言うならわたくしが、ですわね。
ーこんな人生しか歩めなかったわたくしが、
おかしくてたまりませんわ。
「何故、どうして笑うっ!」
ーそうですわね。普通は、泣くところですわね。
○○様は、わたくしがすすり泣いて許しを請うところが、
見たかったんですのよね。
「問いに答えろッ!」
ーさあ、わたくしにはわかりませんわ。
私はもう、狂ってしまったのかも、知れません。
ー…あら?
どうして泣いているのですの、○○様?
「知るかッ! お前なんか、死んじまえッ!」
ーええ、そうさせて頂きますわ、○○様。
…わたくし、最後は幸せでしたわ。
やっぱり、本当の貴方を知っても、貴方はわたくしの
愛しい人ですから。
ー最後に貴方と話せて、幸せでしたわ。
「…さようなら」
ー笑って、最後を迎えられて、嬉しいですわ。
こんな人生でも、幸せでしたわ。
ありがとうございました。