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プロローグ
「土砂ぶりですね」
自分は、この部屋に1つしかない窓から、外の景色を覗き込んだ。空は分厚い灰雲に囚われていて、青空は見えそうにもない。雨が降る音が、激しくなっていた。
「傘を貸すから帰ってくれない? 」
にいさんは、どこから持ってきたのか分からない折り畳み傘を投げつけてくる。薄桃色の下地に、白色の水玉模様がのっていた。
「嫌です」
即答。自分には新品の傘を壊す趣味はない。
「だよね〜」
諦めたような表情でにいさんは答えた。
この物語は吉野京、である自分と、主人公である仁井遥の取るに足らない日常である。
蛇足になるが、過去に縋る自分と、現在に留まるにいさんの、未来へと進むための話でもある。