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第100話「ねんがんの ぶきを てにいれたぞ!」

ひっそり更新。

お読み頂ければ幸いですん。

 ──床が開いた。

 そう知覚した瞬間には時すでに時間切れであり、俺とノワールはキョトンとした顔で互いを見つめ合いながら、ぽっかりと開いた暗闇へと飲み込まれていくのであった。

「うぉぉおおおおお!? ヴァッ!? なんだぁあ!? これはああぁぁぁぁぁ──」

「にゃぁぁああああ!? ギャンッ!? 滑るっ!? 滑ってますうぅぅぅ──」

 実際の落下は僅かな時間であり、そこからはやけに急な斜面を滑り落ちる感覚だけが伝わってくる。

 どうやら作りは滑り台のようなモノであり、痛みなどは無いのだが、暗闇の中滑り落ちていくのはやたらと怖い。

 ……ってか、くっそ!!

 これ魔王城でも一回やったぞ!? こういう経験は一回で良いんだけどなぁ!!

「ちくしょぉぉおおお!! なんだって俺ばっかりこんな目に遭うんですかねぇぇえ!!」

「ご主人が『開けゴマ』とか言っちゃうからでしょうがぁぁあああ!! どーするんですか、コレェ!!」

「はぁぁあああ!? 俺の所為か!? 俺だけの所為か、コルァ!! 会話ってのは一人じゃ出来ねぇんだぞ!? 話題を振ったそっちにも責任があるだろ、コルァ!!」

「『アリババ』だけで良かったじゃないですか、ごしゅじぃぃぃん!!」

「お前が変な聞き方するからだろうが!! のわぁぁるぅぅぅ!!」

 そんな危機的な条件でも俺たちはいつも通り仲良しだった。

 ……涙が出るね。



 ──そうして滑り落ちること体感時間で数分間。

「大体お前はいつも適当なフォロー!! 俺にはいつも相当なフロー!! 成り立ってねぇぞ等価交換!! 言い訳あるか? トークを提案!! もっと主人を敬え、オーケー!? モットーは心身尽くしてオーケー!?」

「はっ!! 出ました愉快な勘違っい!! 正すぜ痛快な筋違っい!! 時代は令和!! 高らかにsay what!! 働き方には改革当然!! それならスキルに変革必然!! 叩いて響かす文明開化!! 新次元へのプレインズ・ウォーカー!!」

 俺たちのディスり合いはエスカレートし、もはやラップバトルへと突入していた。

 ぶっちゃけて言えば、もうそれぞれ相手の言葉なんて言葉半分でしか聞いていない。なんなら自分の発言ですら勢いだ。

 今必要なのは情熱でも思想でも、理念でも頭脳でも、気品、優雅さ、勤勉さでもなく──速度だ。

 言語を音速展開し、思考を光速展開し、相手の深層心理にこちらの想いを植え付ける。

 狙うは一種のサプリミナル。そう、意図的な催眠状態(ヒプノシス)だ。

 無理やりに相手に非を認めさせること。それこそが勝利条件だ。

 さぁ、頭を回せ、舌を回せ。条件は五分だ。正しく同等に対等だ。

 俺はノッてきたし、アイツは勝負に乗ってきた。

 待ち焦がれた決着をつけようぜ、ノワール!!

 このヒプノシスバトルという土俵でなぁ!!


 ──と、そんなことを考えていた時であった。


「いいか、よく聞け!! 俺こそ──ぐへぇ!?」

「ご主人、貴方はいつも──にゃぁい!?」


 それは決着というより、底への到着であった。

 俺たちは舌を噛みながら滑り台から吐き出されるように地面を転がる羽目になった。

 着いたとは言っても明かりの一つもない暗闇の中である。普通に考えると絶望的状況ではあるが、魔王城と合わせて二度目の経験であるということと、横の騒がしい黒猫のお陰で恐怖は半減していた。

 ……この後に良く分からない存在に襲われるまでは。

「いてててて……。うん? なんだどっかに着いたのか?」

「うーん。見事に真っ暗でなにも見えませんねぇ。どのくらい滑り落ちたので──」

「──のわぁっ!? なんだ!? なになになになになにこれぇぇぇぇぇっ!?!?」

「にぁぁああいっ!? びっくりしました!? いきなりなんですか!! ご主人!!」

「なんか分からんのが腕に登ってきてるぅぅぅううう!? 冷たいよぉっ!? 長いよぉっ!? ヘビか!? 蛇なのか!? 助けて、のわぁるぅぅぅう!!!」

「ヒェッ!! それって例の『対女神の先兵用』とかいう古代兵器じゃあないでしょうね!? 離れてッ!! こっちに近づかないで下さい、ごしゅじーん!!」

「まさに外道っ!?」

 その襲撃は唐突であり、また予期せぬ危機的状況は互いの本性を垣間見せるというが、俺たちは素晴らしいチームワークでこれを迎え撃ったのだった。

 いやはや、献身的なスキルを持った俺は幸せ者だな。

 ……軽く泣きたくなるぜ。




「お……おぅ? 落ち着いてきたかな? 動かなくなったっぽい?」

「……大丈夫です? 生きてますか、ご主人?」

「ノワール……見捨てといてよく言うな。まぁいいや。結局なんだったんだこれ?」

 疑問を浮かべながら、俺は自身の手首の辺りに巻き付いて動きを停止したソレに恐る恐る触れてみた。

 相も変わらずな暗闇でその姿形は全く見えないが触って確かめた所、肌の感触通りにそれは細長い何かであり、その手触りはカサついて、温度は暑くも冷たくもないモノであった。

 一言でソレの印象を言い表すのなら──

「──なんだコレ? ……枝か?」

 まるで植物の枝のように感じられた。

 細い枝の集合体が俺の手首を──いや、より正確に言い表すのなら俺の手首へと撒かれたリストバンド型魔道具を覆うようにびっしりと巻き付いているようである。

「とりあえず……今すぐに害があるって訳じゃなさそうだな。おおぃ、ノワール? 生きてるかぁ?」

「……ああ。なんとかなぁ」

「そこに居たか。今からそっちに向かうわ。ちょっと明かりが欲しいから『火魔法』で照らしてくれないか?」

「上から来るぞぉ。気を付けろぉ」

「テンパるな、こら。なんで俺から逃げるんだ、お前は」

 暗闇で黒猫の姿を探すのは不可能に近いが、気配が大袈裟に離れていけば流石に分かる。

 また、ふざけ返してはくれているが、声の震えを加味すればどうやら怯えているのも伝わってきた。

 俺は溜息を一つ零しながら一度足を止めて、ノワールへ理由を問いかけるのであった。

「だって、ご主人。この場所の危険性を考えれば、それって『例のアノ武器』じゃあ、ありませんか。近づいた瞬間に私が殺される可能性も割と高いんじゃないですかね? めちゃくちゃ怖いんですけど、私」

「いや、たぶん大丈夫だろ。ちょっと強めに引っ張ったり、叩いたりしても全く動かないしコレ。というか其れを判断する為にも明かりをくれよ」

「大体、いきなり腕に飛びかかってきたヘビのようなモノの時点で私の警戒心はストレスでマッハなんですけど。……大丈夫ですか、ご主人? 右手とか脳とか奪われてません?」

「怖いこと言うなよ、ノワール!! ぞっとするわ!!」

「大体ソレ……名前が無いと不便ですね。仮に『ミギー』とでも呼称しましょうか」

「不吉過ぎるわっ!! 断固拒否だそんなモン!!」

 ノワールの言葉を俺は秒で切り捨てる。

 誰だって自分の腕がおかしくなることを望んだりはしないだろう。

 『ミギー』だとか、『鬼の手』だとか、『サイコガン』だとか。そういうのはフィクションだからこそ趣があるのである。

「信用が出来ませんね。ここは一つ。ご主人しか知らないような恥ずかしい話をしてください」

「俺しか知らないことなら言ってもしょうがないだろ」

「大丈夫です。日本にいた時のご主人の記憶なら私も覚えていますから」

「そういやそうだったなぁ、こんちくしょう!!」

 思い出したくないことを思い出した俺は思わず地団駄を踏む。

 そういや、そうだった。

 コイツには俺の前世の記憶がインストールされているので、コイツが振り返ろうと思えば、俺の黒歴史なぞは造作も無く暴かれてしまうのであった。

 それはなんとも恥ずかしい話である。

 誰だって自分が考えた『最強の呪文』だとか、『隠された血筋の秘密』だとか、『初恋の失敗談』だとか触れられたくないモノはあるだろう。

 そして多分だがこの俺、成金望の場合はそれが人より少しだけ多いのだ。

 成金望十と五歳。未だに色々と果敢なお年頃なのである。

「……どーしても言わないと駄目か? ノワール」

「私も安心したいですから。まぁ、ご主人も恥ずかしいでしょうから失敗談とか黒歴史は良いですよ」

「それは良かった」

 黒猫からの言葉に俺はほっと胸を撫で下ろした。

 いやはや、流石のノワールと言えども加減は分かっているらしい。

 如何に外道なスキルであるとは言え、鬼畜生では無かったようだ。

「人に言えないような性癖(フェチ)で我慢しましょうか」

 ──前言撤回。

 コイツは只の畜生だ。

「誰が言うか!? ──というか、ねぇよ!? そんな性癖(フェチ)は!!」

「いや、貴方が本当のご主人であるのなら、女子の虫刺されに以上な興奮を覚えるはず」

「それは俺の性癖じゃあねぇなっ!?」

「モナリザを見て欲情したり」

「それも俺じゃねぇっ!!」

「おおっ。愛しのニク・ジャーガ」

「意外ッ!! それは俺ッ!!」


 ──そうやって数分間、俺たちは暗闇の中でやんやんやと騒ぐのであった。

「……んで? そろそろ信用して貰えたんですかねぇ。ノワールさんや」

「ううん。まぁ、これだけ中身のない話が出来るという事はご主人でしょうね」

「本当にシバいたろか。お前は」

 ようやく安心した雰囲気を醸す黒猫さん。

 全く手のかかる相方である。

「……いざという時は守って下さいよ?」

「それはお前の仕事だろうに。……分かってるよ」

 そうして、恐々と近づいて火魔法を使うノワール。

 そして、現れた明かりの中で俺はようやく手首のソレを見ることが出来た。

「……やっぱり『枝』だったな。でも、なんだコレ?」

「ふへー。ご主人……っていうよりは『リストバンド』の方に巻き付いてますかね?」

 ノワールと確認したソレはやはり奇妙な枝であった。

 しかも一本の枝が巻き付いている訳では無く、細かい枝が更にいくつも分かれており、ウロボロスのように絡み合って輪となっているようであった。

 試しに引っ張ってみるが、動く気配も取れる気配もありゃしない。

 害は感じないが、只の枝にしか見えないこれが闇の中飛びかかってきたのを思えばやはり少し不気味である。

「……炙るか?」

「……いや、ナイアが来るまでは止めた方が良くないですか?」

「……そうだな」

 なんとかして取り外したい思いはあるが、変な事をしてコレの攻撃スイッチが入ったら怖い。そんなスイッチがあるのかも分かりはしないのだが。

 まぁ、そういう作業は俺らのパーティーの一人。『大魔王』であるナイアさんに聞きながらやった方が良いだろうということでこの場は落ち着いたのであった。


 ──数分後。

「ノゾムはもう駄目じゃ!! 赤子より目が離せん!!」

「いや、ナイア。……あのな?」

「どうして妾と同じ部屋にいて、人知れず落とし穴を踏めるのじゃ!! しかも聞けば自分からというではないか!!」

「まぁまぁ、ナイアその辺で──」

「他人事みたいに言うとるがノワールもノワールじゃぞ!! 大体お主らはダンジョンに対する危機感が──」

 俺たちが落ちた穴に気づいて助けに来たナイアは酷くご立腹であり、この手首のナニカについての相談どころではなかったのは、まぁ別の話である。







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