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閑話「???」

ご感想有難う御座いますー!!

さっさと本編も書いてきます!!

 ──産まれから飢えていた。

 ──初めから渇いていた。

 満たされぬ飢餓、凄まじい食欲。其れだけが意識の全てであり他の余力など有りはしなかった。

 

 何故なら、ソレはそういう風に創られたモノであったのだから。


『はっはー!! 流石は俺だぜ。はっきり言って最強じゃあねぇか、このスペック』


 ──ソレは食らった。

 ──ソレは喰らい続けた。

 世界に産まれ堕ちたその日から、辺りの全てがソレの食事であったし、ソレにはそれ以外の何も無かったのだから。


 獣も、魔物も、人も、亜人も、天使や悪魔でさえも、どんな生物であろうとも、どんな物質だろうとも。

 ソレにとっては例外も、特例も、特別も無く、辺りの一切合切が全て『餌』でしかなかった。


『いいぜ、いいぜ。やっぱよぉ。あんのクソ女神にガン刺さりしてやがる。空も海も分かってねぇよなぁ。明確な敵がいるんなら特化してメタった方が効率が良いだろうがよぉ』


 その飢餓に際限なく、その食欲に制限なく、その暴食に限界なし。

 飢えて、喰らって、──満たされず。渇いて、潤し、──満たされず。

 只々、ひもじくて。ひたすらにひだるくて。

 それは永遠と『食事』を続けていた。『食事』だけを続けていた。

 ほんの瞬き程の瞬間も、落雷程の刹那も休むことなく、止まることなく。


 ソレは始まりのその一瞬から、世界を相手に食事を続けていた。


『よし。今日も流石だぜ。やっぱり俺は天才だったな』


 ……それが、ソレが生まれた理由だったから。



 ──だが。

 そんな日々も唐突に終わりを迎えることになる。


『……くっそ、糞が!! マジであの女神。ありえねぇだろ!! ゲームじゃねぇんだぞ!? 飽きたからって、興味を無くしたからって……こんなちゃぶ台返し(リセットボタン)はありえねぇだろうが!!」


 気づけば。

 ソレは地下にいた。

 もとより自我など薄いソレの意識だが、はっきりと途切れたのは初めてだ。

 恐らくは目の前の■■がナニカをしたのだろうが。


『洪水か。……どこまでも物語めいてやがる。雑なパクリなのも腹立つな』


 ■■が音を発した。それを契機に──したのかは分からないが、のそり、とソレが身じろぎをする。

 その動きでもって、気配でもって、■■がソレの目覚めに気づく。


『気付いたか。わりぃな。時間が無かったから、少し強引な方法を使わせて貰ったぜ』


 ソレは■■には答えない。

 そもそもソレにはそんな力も──機能もないのだから。

 道具には創造主が必要とした機能しか存在しない。当たり前のことである。

 だが今、ソレには僅かな動揺があった。

 ──否、確かな動揺があった。


 今ソレがいる此処には、大よそソレの餌が存在しなかったのだから。

 ソレが触れている床や壁、そしてその空気ですら、ソレが今まで喰らってきたどの材質とも違ってきたのだから。


 この場でソレが唯一『餌』として感じるモノと言えば──、目の前の■■だけであった。


『創った後での再調律(ナーフ)なんてのは、本当なら俺の流儀じゃあねぇんだけどな。……どうよ? ちったぁ腹の虫は収まったかよ?」


 ソレは応えない。

 だが、■■の言葉の通りに、絶え間なくソレを襲っていた飢餓感はすっぱりと消失していた。

 そうでなければ、この部屋で唯一ソレの餌となりうる■■を前に、ソレが止まる理由がないのだから。


 産まれより初めて、ソレは食欲以外の事を感じるだけの意識を得たのだ。


『お前には少し……いや、まぁ。かなーり悪ぃことしたな。必要だと思ってやったことだし、許せなんて言わねぇけどよ』


 ■■が独白する。

 ソレに言葉を返す機能なぞないのだから、それは独白といって差し支えないだろう。

 そして、■■は気まずそうに頭を搔きながら──、ソレに触れた。


 ──食事が、始まる。


『はっはー。えっげつねぇな。やっぱり。俺でもみるみる喰われていくか。これでも世界最高の錬金術師なんて言われてたんだがなぁ」


 ■■は苦笑う。

 だが、普通であるなら笑う余裕なんぞ無い。

 存在自体が削られていくような痛みの中で、笑えるモノなぞいる筈が無いのだから。


 ソレは■■に掴まれた箇所を見るとも無く、感じていた。

 振れた箇所を解して、■■の力が流れ込んでくる。

 例えソレにその気が無くとも、それがソレの食事であり、止めようなどないのだから。

 ソレにとっては意識するまでもない当たり前の事。

 喰らい、奪い、糧とする。

 自然の、世界の根本的な理だ。


 けれど。

 いつもと一つだけ違うところがあった。

 常に飢餓に、食欲に襲われていた過去と違い、今のソレには感じる余裕があった。

 ■■が触れた箇所から伝わる──、その『熱』を。

 感じるだけの余裕があった。


『まぁ、尖兵を相手に蓄えに蓄えただろうからな。飯が無いこの部屋でも今のお前なら数百年近くは持つだろうよ。……最期の飯がこんなヤツってのはご愁傷様ってことで』


 ──握られている箇所がやけに熱い(・・)。向こうから触れられたその箇所が。


『次の世代の誰かが見つける迄は一人で暇かもな。……まぁ、それも含めて悪ぃとは思っているんだぜ?』


 ──時間が流れる。

 ゆっくり、ゆっくりと、熱が消えていく。

 日が落ちるように。灯が落ちるように。火が落ちるように。


『お前とはもっと話してやりゃあ良かったな。教えてやりゃあ良かった。暴れ回っただけで、なんも知らねぇもんな。嫌な事は多かったけどよぉ。わりと良いとこだったんだぜ、この世界』


 ──独白は続く。

 返す言葉を持たないソレだが、仮に話せたとしても話すことは無かっただろう。

 今まで飢餓にしか触れてこなかったソレには、未だに自意識すら存在しなかったのだから。

 茫洋とした感覚としての意識だけで、ソレは■■の熱だけを感じていた。


 ──食事は終わりつつある。

 ■■の声はもはや蚊の鳴き声より弱々しい。熱などもはや感じない。

 独白の終わりはもうすぐそこであった。


『……ははっ。握り返したな、今? おい、ありがとよ』


 ──食事が終わった。

 ■■は既に屍へとかわり、ソレに何かをすることも無い。

 ソレの食事が済んだのだ。結果は当然のモノであった。



 ──時が流れた。

 ただただ広い一室に、ソレしかいない空間へ。

 無限とも感じるような、悠久とも感じるようなそんな時が無常に流れた。

 膨大な時間の中でもソレへの変化は殆どなく、ただ■■の屍が風化し、塵へと消えた。


 ──更に時が流れた。

 動きが無い部屋の中、佇むだけのソレだが、僅かに、しかして確かに衰弱を始めていた。

 如何に頑強に創られようとも、如何に強靭に創られようとも、補給も無しに、整備も無しに存在することはソレをしても出来なかった。


 削られる己を感じながら、しかしてソレに動きは無かった。

 ぼんやりとした意識の中で、過去だけを回想し、ソレは動きを止めていた。


 かつては天にも届かんと謳われたソレの体も、擦り減り、摩耗し、時に流され、小さく、小さくなっていく。

 誰に見られるともなく。


 ──時代が流れる。


 もはやソレに見る影は無かった。

 ソレはかつての姿からすれば、残滓と言っても過言な程にか弱く衰弱していた。

 残り半年もすれば、ソレは完全に朽ちてしまうだろう。

 そして、一つの変化もあった。

 最近のソレは、いつかのように飢餓を感じ始めていた。

 かつて■■によって抑えられた筈のその飢餓感だが、生存本能程度には残されていたらしい。

 しかして、ソレに打つ手はない。

 かつてであれば破壊して出れたであろう床や天井も、今のソレには強固に過ぎた。

 だが、久方ぶりの飢餓も彼方の時ほどではない。そして、ソレには僅かなりとも意識が生まれていた。

 故に、ソレが揺さぶられることも無い。

 打つ手もなく、迫りくる消滅を前に何を思うでもなく、ソレはやはりじっと佇むのみであった。




 ──『世界』は回っている。

 この世界は誰のモノでもなく、そのくせ誰しもが自身の世界にとって『主人公』であるのだから。

 地下のソレには知覚できなかっただけで、世界は確かに回り、時は進み続けていた。


 蝶の羽ばたきは予測しえない変化を起こし、遥かな彼方の台風を生む要因になる。

 誰にだって予想しえない因果の果てに、ソレが再び巻き込まれる時が来た。


 変化は突然で予兆も無く──


「『アリババ』だけで良かったじゃないですか、ごしゅじぃぃぃん!!」

「お前が変な聞き方するからだろうが!! のわぁぁるぅぅぅ!!」


 ──数百年ぶりの『餌』は騒々しく、賑やかに堕ちてきた。


『……いつか来るだろうよ。お前にも上等な出会いって奴が』


 不意に意識に浮かんだいつかの言葉。

 それを深く考えることも無く、ソレは本能的に『餌』へと襲い掛かるのであった。


「なんか分からんのが腕に登ってきてるぅぅぅううう!? 冷たいよぉっ!? 長いよぉっ!? ヘビか!? 蛇なのか!? 助けて、のわぁるぅぅぅう!!!」

「ヒェッ!! それって例の『対女神の先兵用』とかいう古代兵器じゃあないでしょうね!? 離れてッ!! こっちに近づかないで下さい、ごしゅじーん!!」


 食事の仕方は体が、本能が覚えていた。

 もはや、人間の手の平サイズまで縮んだ自身の体を、ソレは必至に動かし、広げ、『餌』を包んで──喰らった。


 その時にソレは触れた。実に数百年ぶりにその『熱』に。

 ──それは確かな生命のぬくもり。

 

 絶対であったソレの『食事』に、唯一つだけ、しかして絶対に起こり得ない筈の変化があった。

 ソレの食事とは関係なく、今度の『熱』はソレの傍に在り続けた。

 揺らぐことなく、損なわれることなく。


 ──失われることなく。


 これが、此処が、この時が。

 この世界からして最大のイレギュラーである異世界転移者である成金望とソレの出会いであった。

 

 かつての女神と人類における大戦の中で、単一の存在でありながら女神の総兵力の三分の一を削りきったソレの名は──


 ──今はまだ無い。



次話投稿は今月中!!

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