吸血鬼の従者な僕(あたし)の恋模様
どうも皆さん初めまして。僕は沢村 紅葉と言います。『もみじ』ではないのでご注意を。私立の高校三年です。あの、いきなりですけど、僕、
「紅葉!?大丈夫!?紅葉!紅葉ぁぁぁぁ!!」
「すみません、僕たちが見つけた頃にはもう………」
死んじゃいました。
簡単に話しますと、居眠りダンプに後ろからはねられました。その時はまだギリギリ生きてたんですが、その後、死んだと思ったんでしょう。土に埋められました。頑張って這い上がろうとしたら、化け物を見るような目で僕の心臓を一刺し。即死しました。それを、この人たちが見つけて、僕の体を運んでくれた、ということです。
親孝行、したらよかったな。いじめられていた僕は、二週間ほど前から学校に行っていません。母さんにも、姉さんにも迷惑ばかりかけて、ずっと引きこもってました。だから、最期くらい、何かしてあげたいですね。でも、いわゆる幽霊になった僕は、もう何かすることは出来ません。だから、
『母さん、姉さん、迷惑かけてごめんね。今までありがとう、さよなら。』
聞こえるかはわからない。いや、聞こえないのが当たり前。でも、二人とも僕を見てたから、多分、聞こえてたんじゃないかな。そうだといいな。
『ふぅ〜ん、何もしないで諦めちゃうんだ。』
唐突に背後から声がした。銀髪碧眼の幼女だ。
「あの、僕に何の用かな?」
『あら、あなたは年上に対する態度と言う物はないのかしら?』
はい?この見た目で、年上?
「ずいぶん成長が遅いんですね。」
『まぁ、100年くらいしか生きてないから、人間で言うところの9歳から10歳程度の体ね。』
人間で言うところの?じゃあ君は何か。人間じゃない、と言いたいのか。
『私は吸血鬼。生と死を超越した存在。』
「んで、その吸血鬼様が死人の僕になんのようですか?」
『あなたを生かしてあげようかと思って。』
へ?
「ぁぁ…………紅葉………」
「ちょっと失礼しますね。」
「…………あなたは?」
「私は吸血鬼。この子を生かしてあげようかと思ってね。」
「そんなことが出来るんですか!?」
気づいたら僕の目の前から彼女は消え、母さんと姉さんの目の前にいた。瞬間移動?いや、違うか。
「ただし、一つ理解して欲しい。この子は金輪際、人間としては生きられない。」
「それは、どう言う……?」
「吸血鬼の血を与えることで吸血鬼の従者にするのですが、人間よりはるかに長寿になります。具体的には、寿命は約二倍に伸びるかと。」
「それが、紅葉を生き返らせる条件…ですか?」
確かに、人の二倍も生きてたらもはやモンスターだよね。
「いえ、血を与えるこの行為、血の契約をかわすにあたって、一つ問題があります。」
「それは?」
「本来、血の契約は同性間で行うもので、異性間でするのは初めてです。だから、成功する確率はあまり高くはありません。」
え、
「分かりました。」
おい!!
「本当に、いいんですか?」
「えぇ。この子も、まだ生きたかったでしょうし。」
それはそうだな。まだやってないことあるし。
友達作り、とか。
悲しいな、僕。
「そうですか。では。」
銀髪ロリさんは唇を噛み、僕の口に流し込んだ。いわゆる口移しと言うものである。
あれ、なんか引き戻されるような、引っ張られるような……………
「この者、我の従者とし、我と血の契約を結ぶ者なり。」
何言ってんのこの子。残念な子だな。
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「あ……ここは………」
光?もし生き返ったとしたら、夜のはず。そうか、失敗したんだ。んじゃ、ここは天国かな?
「紅葉ぁぁぁぁぁ!!!!」
「ふぁっ!」
誰かに抱きつかれた。紅葉のよく知る声。自分の母親の声だ。
「紅葉、紅葉なのね!?紅葉なのよね!?」
「本当に生き返ってる……………」
ん?ちょっと待て。僕の手ってこんなに小さかったっけ?よく思い出したら、さっきから出てる僕の声も、聞き慣れた低い声ではなく、声変わりする前より綺麗な高い声。鏡を見ると、金髪碧眼の幼女が。
「見ての通り、成功ではありますが、本来同性間で行うものですから、少し異常が出たようですね。」
「それでも、ありがとうございます。」
「紅葉君、いや、紅葉ちゃんかな?君の体は人間で言うところの女になったの。男じゃないのは残念だけど、女の子ってのも悪くないわよ?頑張って生きなさい。これが主人としての最初で最後の命令よ。」
え、そんなの困るよ!!、と言いたかったのに、僕の口から出たのは、
「はい、ありがとうございます。ご主人様。あたし、女の子として精一杯生きてみます。」
だった。一人称も、『僕』から『あたし』に変わっている。
「それじゃ、私はこれで。早くしないと灰になっちゃう。」
「さようなら。ご主人様。ありがとうございます。」
「ええ。頑張りなさい。」
「はい!」
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その日から、男である僕、沢村 紅葉は、沢村家の養子で、紅葉の義理の妹であるあたし、沢村 雪菜になった。お兄ちゃんの紅葉は、死んだことになった。まぁ、あの時ご主人様が助けてくれなかったら生き返れなかったんだから、死んだ、が正しいと思う。
「ゆっきー、早く行こ?」
「早くしないと置いてっちゃうよ?」
「はるちゃん、みよちゃん、待ってよ!」
この子たちは、あたしの同級生。晴子ちゃんと美代ちゃんだ。今あたしは、近くの小学校に通っている。1mちょっとのあたしの身長では、高校生、と言うのには随分無理があり、結局見た目通り、小学生からやり直すことにした。
「今日はプールあるんだよね。」
「うん、そうだよ。」
「あたし、泳げないの。溺れないかな?」
あたしはお兄ちゃんの頃から泳げなくて、よくいじめっ子にプールに突き落とされた。
「大丈夫よ。私が助けてあげるから。」
「はるちゃん、ありがとう。」
「はぁ、あたしがこんなもの着るなんて、お兄ちゃんの時は想像もしなかったよね。」
そうつぶやきながら、ピンクの可愛いTシャツと、白のティアードスカート、キャミソールとショーツも脱ぎ、紺色のスクール水着を着た。
スクール水着は、体のラインがモロに出るから嫌だなぁ。
「よう、雪菜。」
「陽君。おはよう。」
この子は陽介。あたしが転校してきて、一番初めに話し掛けてくれた男の子。必要以上にあたしに話し掛けてきます。うんざりはしていないけど、あたしは女の子、陽君は男の子だという自覚を持って欲しい。
「お前、泳げねーんだろ?」
「う、うん…………」
他の男子はみんな、あたし一人泳げないことを笑ってきます。簡単に言うと、またいじめられています。
せっかくご主人様のおかげで生まれ変われたというのに、全く変わっていない。
「俺が教えてやろうか。」
「え?」
今、なんて?
「だーかーら、俺が教えてやろうかって。」
「どういう風の吹き回し?」
「いやなに、俺もそろそろ新世代に突入しようかと思ってな。バージョンアップだ。」
「いつから機械みたいになったのよ。」
そういえば、この前携帯のアップデートがあったわね。
「やーい、カナヅチの沢村-!」
「陽介もあんなのに構うなんておかしいんじゃね?」
「そんなに沢村の事が好きなのかよ-!キスしろよー!」
こんなの、お兄ちゃんの頃ならへーきだったのに、あたしになってから心が弱くなったみたい。涙が出てきちゃった。
「ちょっと、男子!ゆっきーと陽介君可哀想じゃん!」
「うるせー!」
これだから男子は………お兄ちゃんの頃も、あたしの頃も、いじめられて、また引きこもるのかな…………
「あぁ、好きだよ。」
へ?今、なんて?
「「「「「え?」」」」」
クラス全員、固まった。
「陽君!?何を………」
「俺は雪菜が好きだし、いずれはキスもしたい。」
こ、このませガキ!!仮にも実年齢18歳のあたしに向かって、そ、その…………す……好き……だなんて。
「もう一度言う。俺は雪菜が好きだ。別に今じゃなくていい。中学になってからでもいい。俺と、付き合ってくれ。」
そう言う大人なセリフは、あたしより背が高くなってから言って……
陽君って、そう言えば、あたしより背が高かった。10cm、あたしより高い。
顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。いや、でも、あたしの実年齢は18歳。陽君は6歳。12も下の男の子に口説かれてるんだ、あたし。
でも、最近いじめから助けてくれてるし、今こうやって泳ぎ方を教えてくれようとした。陽君があたしをお兄ちゃんのトラウマから救ってくれたんだ。
確かに命の恩人のご主人様の方が感謝は大きい。でも、お兄ちゃんのトラウマから救ってくれた陽君も、あたしの中で、大きくなっていた。
よし。返事は決まった。
チュッ
陽君のほっぺにあたしの唇を押し当てる。
「別に待ってなくてもいいよ。あたしも………あたしも陽君の事が、好き。」
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六年後
「陽君、次はどうする?」
「そうだな。どこ行きたい?焼きそばとか?」
「陽君、さっきから食べてばっかり。」
「いやいや、ホントに美味いんだって。ほれ、お前も食ってみ。」
「あ、ほんと。美味しい。」
「だろ?」
あたしと陽君は、中学生になった。あの頃からあたしたちは付き合い始め、今日は、夏祭り。あたしは気合いを入れて、浴衣で来た。なのに陽君の反応は薄い。
陽君、あたしの浴衣、褒めてくれないのかな………
「そろそろだよな。花火。」
「そうだね。」
「なんだよ、なんか今日の雪菜、変だぞ。」
変?変なのは陽君の方だよ。
「だって、せっかく浴衣着てきたのに、陽君、なんにも言ってくれないし。」
これじゃ、あたしがバカみたいじゃない!
「そりゃぁ、その……あれだ。あまりにも可愛くて、言い出せなかった。気、悪くしたなら謝る。」
「別にいいよ。その代わり一つ、陽君の彼氏度をチェックさせてもらいます。」
「彼氏度?なんだそれ。」
「問題。あたしが今日、浴衣以外で変わったものは、何でしょう?」
正解は髪留めのピンだ。前までは何にも付いてなかったけど、今回のはあたしの名前にちなんで、雪の結晶の形の付いたピン。
「胸。」
いや、正解だけど……78から80まで大きくなりました。
「他には?」
「髪留め。雪の結晶が付いてるやつに変わってる。」
「はい、正解。」
あたしは、花火の始まりを見計らって、陽君の唇にあたしの唇を重ねた。ちなみに、小学校の頃は、ほっぺまでしかしていないので、これが初めての口同士のキス。陽君も恥ずかしいのか、顔をそらして花火を見た。
こうして今、笑っていられるのも全部、ご主人様と陽君のおかげ。ご主人様、どうしてるかな?また会えるかな?
「陽君、大好きだからね。」
「俺もだよ。雪菜。」
自分で書いておいて、なんで血の契約は同性同士でしかやらないんだろうって疑問が出てきました。