余命宣告
朝、学校の近くの交差点で郁実くんに会ってしまった。
「あ、なっちゃん。おはよ。」
「おはよ。」
必然的に2人で歩くハメに。校門をくぐると一斉に視線が集まった。
「うそ、結局付き合ったの?」
「えー!好きな人いるとか言ってなかった?」
「うわぁ、最悪。」
ヒソヒソと言ってるつもりなのだろうか。
『聞こえてるんだけども。』
私は平穏に高校生活を満喫したかっただけなのに。
隣を歩く郁実くんはなにも感じていない様子。
ギラギラと光ってる女子たちの目の中を歩く。
『生きて帰れるかな?』
お昼休み。郁実くんが私の席へやってきた。
「なっちゃん、話あるんだけど、いい?」
「うん」
視線を全身に浴びながら廊下を歩くのはかなり辛かった。
屋上まで来ると郁実くんが口を開いた。
「この前好きな人いるって言ったじゃん?あれ、誰なの?」
やっぱりこれか。
「郁実くんの知らない人だよ。」
「だから、誰なの?」
本当のことを言うべきか迷った。言ったら変人だと思われてもおかしくない。顔を上げるとそこには真剣な目を向ける郁実くん。
言っても大丈夫かな。
「徳島先生っていってね、私の行ってた幼稚園の先生。」
案の定、予想外の答えに郁実くんはびっくりしている。
「それって、大人だよね?」
「うん。」
「こんなこと言いたくないけど、叶わぬ恋というか・・・」
「そんなの分かってる。」
私が一番分かってるもん。痛いほど。
「でも、好きなの。好きな人がいるのにほかの人と付き合うとかできない。郁実くんは優しいから尚更。」
郁実くんは私の目をじっと見て話を聞いてくれた。
そして、ふと目を伏せ考え込んだ。
「わかった。」
しばらくして郁実くんが顔を上げ言った。
「今は付き合えないんだよね?徳島先生がいるから。
だったら、俺が徳島先生を超えて振り向かせるよ。もし、ほんの少しでも俺が好きになったらいつでも言って?俺、待ってるから。」
郁実くんがにっと笑った。
「ありがとう。」
郁実くんの心の広さと、それに対する罪悪感とが混ざって一言いうのがやっとだった。
『ごめんね。』
家に帰ると、突然吐き気がした。頭痛もした。目眩が激しい。
余命一年・・・
突然叩きつけられた現実。覚悟はしてたけど、20歳まで生きられると言われてた私にはあまりにも重すぎる現実だった。
翌日。
自分に言い聞かせた。
私は彼氏を作ってはいけないんだ。仮に郁実くんのことを好きになっても。もし、徳島先生と思い合える仲になっても。
これ以上大切なものは作りたくない。
「どうせもうすぐ失ってしまうんだから。悲しくなるだけ。」
私は、なんの違和感もなく抜け落ちた髪の束を指に絡めた。
『余命一年。』
昨日言われた言葉が頭の中で繰り返された。