悪の組織の手下として 3
そして、そのままリビングへ。
既に長いテーブルにはいくつかの食事が用意されていた。
見た目にはいつものように梅木家の専属シェフが作っているものよりも地味に見えるが……
「聖治様! どうぞ御座りください」
と、たくさんのメイドの中にいても一際目立っている清夏が俺の方に近寄ってきて俺の手をひいた。
「あ、ああ……わかったから……ひっぱるな……」
俺は困りながらそう言い返す。
「さぁ、こちらにどうぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
清夏はそのまま微笑むと俺の後ろに下がっていった。
「……随分と楽しそうね。ご主人様」
と、いきなり隣から怨念がましい声が聞こえてきた。びっくりして顔を向けるとそこにいたのは真奈だった。
「あ、ああ……いたのか。真奈」
「いたのか? へぇ……もう私なんていたかいなかったかアナタにはどうでもいいわけね」
「は? お、おい、何を言っているんだ?」
酷く不機嫌そうな顔で真奈を俺を睨んでいる。
片岡が言っていた真奈に気をつけろ、というのは、これか?
しかし、真奈が不機嫌なのは別に今に始まった話ではないだろうに。
「……そういえば、今日のご飯、ちょっと味が違うわね」
真奈が朝食に箸をつけながらそういう。
「え……そ、そうか」
と、俺もさっそく食べてみることにした。
……うまい。うまかった。
いつもの専属シェフが作っている料理よりも数倍にうまい。
俺はつい驚いて後ろをふり返ってしまう。
「あ、清夏……お前……すごいな」
すると清夏はニッコリと微笑んで俺を見た。
「ありがとうございます。聖治様にそんな風に褒めてもらえるなんて光栄です」
「ああ。うまい。こんなに料理ができるなんて……お前、正義の味方なんてやめてシェフにでもなったらどうだ?」
「ふふっ。聖治様。もう正義の味方はやめております。シェフになるつもりもございません。私は今は聖治様の忠実なボク、ですよ」
本来ならば敵の作った料理など用心して食べておくべきだったのだろうが……これほどうまいと用心も何もない。
俺は夢中で朝食を平らげてしまった。
「ふぅ……うまかった……片岡、これからは毎日、清夏に料理を作らせろよ」
「え……し、しかし、坊ちゃま……」
「こんなにうまいんだ。清夏に任せた方がいいじゃないか。なぁ、真奈?」
と、言った瞬間、真奈はバンッ、と机を叩いて立ち上がった。
「ま、真奈?」
「……私、先に車で待ってるから」
「あ! お待ちください! 真奈お嬢様!」
そのまま真奈はスタスタとリビングから出て行ってしまった。その後を慌てて片岡が追いかけていった。