悪の組織の手下として 2
「う、うーん……し、仕方ない……それも俺に対する奉仕の気持ちとして受け取っておくか……」
清夏はまたニッコリと嬉しそうに微笑むと俺に飛びついてきた。
「ありがとうございます! 聖冶様!」
「わ、わかったから……いちいち、抱きついたり飛びついたりするな……」
「え? なぜですか?」
「な、なぜ、って……あ、ああ。そ、それはどうでもいい。片岡! 朝食はできているんだろうな?」
俺は立ち上がって片岡に尋ねる。すると片岡は戸惑いながらも答えた。
「え……ええ。既に清夏様がお作りになっております」
「……何? 清夏が?」
俺は隣に立っている清夏を見る。 清夏はにこやかな笑顔で俺を見た。
「はい。私、聖治様のために一生懸命作りました。さぁ、リビングへ向かいましょう」
「あ、ああ……その前に着替えてからな」
「あら。でしたら、私が御手伝いを――」
「そ、それはいい! 着替えくらい一人でやる!」
俺が必死にそう拒絶すると、相変らず微笑みながら清夏は出て行った。
「……坊ちゃま」
「ん? なんだ、片岡。まだ居たのか」
「ええ……その……少しよろしいでしょうか?」
「急に改まって……どうしたというのだ?」
「え、ええ……その……僭越ながら、少しお気をつけたほうがよろしいかと思うのです」
「……気をつける? 清夏にか? ははは、もちろん、気をつけてはいる。だが、さすがに奴も、敵の本陣で俺の寝首を書くような真似はしないだろう?」
「いえ……その……真奈様に……」
「真奈? なぜ真奈なんだ?」
しかし、片岡は言いにくそうに顔をしかめただけでそれ以上は何もいいそうになかった。
真奈に……なぜ気をつけろというのだろうか。
「……下でお待ちしております。では」
片岡はそう言って扉を開けて出て行った。
「……なんだ、アイツは」
結局その時、俺はもやもやとした不信感抱いたまま着替えをすませたのだった。
「あ……ご主人様……」
「え? うわっ!? なっ……なんだ……彩子……いたのか……」
見ると、小さなメイドが俺の前で申し訳なさそうにしていた。
「あ……ご、ごめんなさい……」
「いや……別にいいんだが……で、なんだ?」
「え、えっと……な、納得いかない……です」
「え? 納得いかない?」
すると、珍しいことに、彩子は不満そうに頬を膨らませ、俺をじっと見てきた。
「だって……御主人様のお世話は私か……片岡様がやるはずなのに……」
「え……あ、ああ。いや、まぁ……今日ぐらい、いいんじゃないか?」
俺がそういうと彩子はそれでも不満そうだった。
というか、むしろ怒っているくらいに見える。
いつも従順でどんなに乱暴な操縦をしても怒らない、あのサイコカオスの操縦処理ロボットが、である。
「だ……ダメか?」
「……御主人様がそうおっしゃるなら……仕方ないです」
そうは言っていたが、彩子はそれでも納得行かない感じで少し俺のことを寂しそうに見ながら部屋から出て行った。
なんだか……不味い事を言ってしまったのだろうか。
「……とにかく、朝飯にするか」
俺はそういって部屋を出た。