悪の組織の手下として 1
そもそも既にその日の朝から、問題というのは存在していた。
「……きてください。聖冶様……起きて下さい」
「ん……ん?」
俺は眠たい目をこすって目を開いた。
「……か、片岡か? なんだか今日はやけに早いな……」
「ふふっ。寝ぼけているんですね。私ですよ。聖冶様」
と、俺はあきらかにそれが、初老の男性の声ではなく、可憐な美少女の声ということに気付くと、大きく目を開いた。
そして、驚愕したのである。
「なっ……お、おま……あ、清夏……か?」
「ええ。驚きました?」
「あ、ああ……って、っていうか、なんだ? その格好は?」
目の前の清夏は、メイド姿だったのだ。それはまぎれもなく、梅木家の屋敷に使えるメイドや彩子と全く一緒の服装だった。
「ああ。これ。片岡さんに頼んで私にも一着用意してもらったんです。どうです? 似合いますか?」
「に、似合うも何も……か、片岡ぁ!」
俺は大きな声でそう叫んだ。すると廊下を大きな音を立てて何者かが全力疾走してくる。
「な、何事でしょうか!? 坊ちゃま」
と、汗だくの片岡が血相を変えて俺の部屋に入ってきた。それに続いてすまなそうに彩子もやってくる。
「片岡……お前か? 清夏にこの……メイド服の着用を許したのは?」
「え……あ、ああ。も、申し訳ございません。どうしても、清夏さまがお着になりたいと仰るものでして……」
「そうです。片岡さんは悪くありません。私が言ったのです……ダメ、ですか?」
そういって目をウルウルとさせる清夏。
こんな風にされては、俺としてもとても断れるものではない。
それに……梅木の家のメイドにもここまで可愛らしいものも存在しない。
これはこれで……ってそれで許していいものではないということはわかっているが。