説得失敗
そして、その日も特に学校では何もなく、一日が終わった。
終業のチャイムが鳴り、俺はそそくさと片岡の待つ場所へと向かうことにした。
その時だった。
「聖冶~!」
いつものごとく、俺の神経を大分すり減らせる元気な声が聞こえてきた。
しかし、いつもとは違い、どこか元気なさそうにその声は聞こえてきた。
「……奈緒。なんだ?」
「……ダメだったよ~」
「ダメ? 何が?」
奈緒は涙目で俺を見ている。
なんとなく俺にも意味はわかっていた。
「……ああ、説得できなかったか」
「……うん」
「当たり前です。もう私は、身も心も聖冶様のものなんですから」
と、そんな俺と奈緒の後ろから聞こえてくる声。
俺達がほぼ同時にふり返ると、そこには清夏がいつものようなにこやかな笑顔でそこに立っていた。
「あ、清夏……」
「い、一条さん!」
奈緒が清夏の下に駆け寄っていって縋る様に清夏を見る。
「ねぇ……戻ってきてよ! ホーリーセイバーは三人で一つなんでしょ? 一条さんだってそう言ってたじゃん!」
しかし、少し悲しそうな顔をして清夏は答える。
「残念ですが、私はホーリーセイバーに戻ることはできません……」
「ど、どうして? い、一条さん……ボク、ずっと思ってたんだよ? 一条さんってすごくカッコよくて……一条さんこそ正義の味方に相応しい人だ、って」
すると清夏は奈緒に顔を近づけて、少し辛辣な表情になる。
「横井さん。それはちょっと違います。私はただ、『理想の正義の味方』になることに勤めていただけです。あれは私の本当の姿ではありませんよ。あくまでみんなの模範になるような正義の味方を演じていただけなのです」
冷たく奈緒にそういうと、清夏は俺の方に近付いてきた。
奈緒はポカーンとして呆けてしまっていた。
そして、俺自身も、そんな言葉を発した清夏に、少なからず唖然としてしまったのだが。