ホーリーセイバーの危機 1
「えー!? じゃ、じゃあ、一条さん、ホーリーセイバーやめちゃったの!?」
「しーっ! 声がデカイ!」
俺は慌てて奈緒の口を手で押さえた。
奈緒はモゴモゴ未だに口を動かしている。
「……いいか? もっと小さな声で喋れよ」
「う、うん……で、でも……どうして?」
「さぁな……昨日いきなりウチに来たんだ……お前、何か聞いてないか?」
「ううん。いつも通りだったよ。それに、一条さんがダークネクロムに寝返った、なんて、今聖治に聞いて知ったわけだし」
大方そうであろうと思ったがやはりそうだったか。
あの様子だとレッド、つまり、赤沢にも清夏は言っていないだろう。
「そうか……全く、一体どういうつもりなんだ……」
俺はそう呟いて清夏を見た。
何食わぬ顔で席に座っている清夏。
全く……何が目的かわからないのが余計に恐ろしい。
「え、で、でもさ、聖冶。つまり、今一条さんって……聖治の家に居るってこと?」
そういわれて俺は少しどきっとしてしまう。
そして、話し相手が奈緒だということを思い出して少し安心したのだった。
「あ、ああ……そうなるな……」
「え、えーっ!? い、いいの? そんなことして!?」
「だ、だから……声がでかいって……」
慌てて俺は奈緒の口を再び塞ぐ。
と、一瞬、清夏がこちらに振り向いた。俺はギクリとして固まってしまう。
しかし、当の清夏は相変らず俺に微笑みかけるだけで特に何もなかった。
「あ……確かにこれは変だね」
と、奈緒がふと俺の隣でそう言った。
「え? な、なんでだ?」
「だって、一条さんが聖冶にあんなにニコニコするわけないもん! っていうことは聖冶の言うとおり、本当に……」
「……だから言っただろ? ホントにアイツはホーリーセイバーをやめたんだよ……」
と、急に奈緒の顔が不安そうになる。
「せ、聖冶……ど、どうしよう? ホーリーセイバーは三人で一つなのに……これじゃ、ダークネクロム……ドクターフェルシルに勝てないよ?」
「……それを、そのダークネクロムの親玉の俺に相談するな。そういうのは……あれだ。ヒーローの間で解決するもんだろ? 寝返った仲間と心の対話とかしたりしてな……ヒーロー戦隊モノは大体そうだぞ?」
「し、知らないよ! ボクは聖冶みたいにヒーロー戦隊オタクじゃないんだから……で、でも、ホントに、どうして一条さんホーリーセイバーをやめるなんて……」
奈緒は本気でそれを心配しているようだった。
言われてみれば確かにその通りだ。
二人ではホーリーセイバーは真の力を発揮することが出来ない。
あれ……これって意外とチャンスなんじゃないのか?
俺は、今更ながらに自分が千載一遇のラッキーに恵まれ始めているのではないかということに、気付いたのであった。